ONKUL

ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞し、現在公開中の『スパイの妻〈劇場版〉』では、強い意志を宿した主人公・聡子を演じ、こちらも公開中『おらおらでひとりいぐも』では高度経済成長期を駆け抜けた主人公・桃子さんの若い頃を演じた、蒼井優さん。対照的な女性像を演じた2つの作品を通じて感じたことや、ニューノーマルと呼ばれる最近のライフスタイルに思うことなど、仕事とプライベートについてお話をうかがった。

 

vol.1より続き..

 

ーー“賑やかな孤独”と表現される、75歳の女性の内面に響く様々な“心の声”。周りに誰もいなくてひとりぼっちでも、そこは賑やかなのだという演出には他人事ではない未来が描かれていて、胸がザワザワします。

蒼井:そうなんです、胸を直接ノックされたような感覚になりますよね。わたしも老後をどうしようか考え始めなくちゃいけないかな? と思う年頃になりました。伴侶を得て、家族も増えましたし。社会の一員として最後まで責任持って生を全うするには、計画性もいるよね…とか。そんな気持ちを抱いているからなのか、この映画を通じて、命が繋がっていること、親や祖父母の世代から延長線上の今について想いを馳せる時間が増えました。過去が繋がって今があるのは当然として、その過去をどう受け止めるかで今の景色や気持ちが変わるんですよね。この作品を観た人同士でホント語り合いたいんですよ(笑)。

 

 

ーー憧れのおばあちゃん像ってあるんですか?

蒼井:老後のことも考えないと? と言いましたが、まだまったく具体的にはイメージできないんです。だから、どんなおばあちゃんになりたいかはわからないですね。…あ、でも編み物はしていたいな! いくつになっても編み物はしていたい、今と同じように〈どうしても今夜中にここまでは進めたい〉とか言いながら(笑)。

 

 

変わったことと言えば、自宅では頭にリボンを巻いて過ごすようになったこと

 

 

ーー今年は誰もがもれなく、生活スタイルを変えざるを得なくなりましたが、蒼井さんは変わったことはありますか?

蒼井:部屋では頭にリボンを巻いて過ごすようになりました(笑)。緊急事態宣言が発令された当初は、自宅にいてもメリハリが出るように時間を決めて外着で過ごしてみたりもしたんですが、それだとあまり続かなくて。元々、旅先では手芸屋さんに立ち寄る趣味があって、新旧たくさんのリボンを持っているんです。そういう乙女なものが本来好きなんですよ。でも、外に出るときは照れてしまうから、大事にとってあるだけになっていた。だからこそ、今だなって。外には着けていけないけど、他人に見せるためじゃなく、自分が楽しくなるためだけにガーリーを装う。これは心が浮き立ちますよ。

もう一つは、模様替えについて色々想像を巡らせることが楽しくて仕方ないです。親元を出て以来使っているソファに、手放せない愛着があるんです。部屋を一新したい反面、手放せないものをどう生かすか?について、楽しく悩んでます。

 

 

「ありがとう」や「ごめんね」と同じくらいの大切さで、真面目に「笑う」こと

 

ーーーパートナーや友人との関係で大切にしていることはありますか?2人にとっての正解の見つけ方とか。

蒼井:お互いずっと喋ってるタイプなんで、特に心がけているルールはなくて。とにかくよく喋っています。どちらか一方が聞き役、話し役という風に役割が固定せず、いつまででも喋っていられる関係といえば、アッコちゃん(菊池亜希子さん)もそうですね。ポンポン口に出していくので、変に溜まっていくこともないので、そういう間柄だとリラックスできますね。

努めてしているというわけではないんですが、近ごろ大事だなって思っていることは、相手に対してキチンと笑うこと。どんな相手でも親しくなって慣れてしまうと、笑うことすら手を抜いてしまうんですよね。面白いと思ったことに、誠実に声に出して笑いで返すことは、〈ありがとう〉とか〈ごめんね〉って言うことと同じくらい大事なことだと思っています。

 

 

 

蒼井優さん

福岡県出身。99年にミュージカル「アニー」でデビュー。2001年『リリイ・シュシュのすべて』(岩井俊二監督)で映画デビュー。以後、『花とアリス』(04/岩井俊二監督)、『ニライカナイからの手紙』(05/熊澤尚人監督)などに主演し、『フラガール』(06/李相日監督)で第30回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞、新人俳優賞をダブル受賞したほか国内の映画賞を総なめに。出演作は『彼女がその名を知らない鳥たち』(17/白石和彌監督)で、第41回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、第42回報知映画賞主演女優賞、第回日刊スポーツ映画大賞主演女優賞など数々の映画賞を受賞。近年の主な映画出演作に、『岸辺の旅』(15/黒沢清監督)、『家族はつらいよ』(16/山田洋次監督)、『オーバー・フェンス』(16/山下敦弘監督)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16/松居大悟監督)、『斬、』(18/塚本晋也監督)、『長いお別れ』(19/中野量太監督)、

『宮本から君へ』(19/真利子哲也監督)、『ロマンスドール』(20/タナダユキ監督)など。日本映画に欠かせない女優の一人として活躍中。

 

 

映画『スパイの妻〈劇場版〉』

名匠・黒沢清監督が、太平洋戦争間近の日本を舞台に、時代に翻弄される夫婦のラブ・サスペンスを描き出した新作。主演に蒼井優を迎え、自らの信念と愛を貫く女性の姿をエンターテインメント性高く表現。本作は、第77回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)を受賞。日本映画としては、2003年『座頭市』(北野武監督)以来の快挙となる。上映中。

 

 

©2020「おらおらでひとりいぐも」製作委員会

映画『おらおらでひとりいぐも

63歳で作家デビューし、第158回芥川賞・第54回文藝賞をW受賞した若竹千佐子の同名ベストセラーを、『横道世之介』『キツツキと雨』などの沖田修一監督が映画化。主人公の桃子さん役は、主演の田中裕子と、桃子さんの若い時期を演じる蒼井優との2人1役「。ひとりだけど、ひとりじゃない」賑やかな孤独を生きる75歳の女性・桃子さんの物語は、ささやかで壮大な1人の女性の叙事詩。公開中。

 

 

ニットコート¥175,000/KOTA GUSHIKEN、ロングスリーブTシャツ¥14,000/SEA(エスストア)、カシミアニットパンツ¥76,000/pelleq(タク&コー)、ソックス¥9,500/babaco、サンダル¥29,000/CARLOTHARAY(ピーアールワントーキョー)

 

model:Yu Aoi

photograph:Kazuhiro Fujita

styling:Setsuko Morigami

hair&make-up:Taeko Kusaba

 

ONKUL vol.14 「LIFE STYLE FOR HOME くらしに真面目に。蒼井優さん」より。

 

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