kiitos.

太陽の季節がやってきて、じんわりと汗ばむ私たちの身体。汗の粒の中には、どんな秘密が隠されているのだろう? ともすると疎まれがちなこの存在は、人類が最も発達させてきた崇高な体温調節システム。さらには心と身体の映し鏡である汗についていま向き合ってみよう。

汗をかきづらくなるとどうなるの?

人間は体温が37°C前後のとき、身体の機能が正常に保たれるようにできています。そして、43°C以上になると細胞が死んでいきます。そのため、汗には身体を冷やして、体温の上昇を防ぐ役割があるのですが、汗をかきにくくなると健康的に過ごすことが難しくなってしまうのです。

汗かき下手の症状はまず足に現れる!

発汗量が減ると、はじめにその影響を受けるのが脚。ふくらはぎから汗をかかなくなり、太ももの裏→表→背中→胸→腕→最後は頭というように、脳から遠い場所から順番に汗をかきづらくなります。高齢の方で頭の汗が増加したと感じるのは、汗腺の老化が進む中でおこる代償作用と考えられています。上半身は汗をかいているのに脚は乾燥している状態です。歳をとって発汗量が減るのは自然なことですが、汗をかく機会が減っている現代人はリスクを自覚するべき。

身体の機能を守る汗のすごいメカニズム

汗は誤解されやすい存在。蒸し暑い日本の夏、汗をかくことを嫌って、なるべく空調の効いた涼しい部屋で過ごしたいと考える人が大半かもしれません。現代のシビアな環境においてそれは仕方のないことですが、人類が身体を守るためにつくり上げた発汗メカニズムを知ったら、汗に向ける眼差しが変わるかもしれません。「大阪国際大学」教授の井上芳光先生はこう話します。

「私たちは絶えず、生命活動に必要なエネルギーをつくり出しています。しかし、その過程の効率は20%程度で、残りの80%は体の中で熱となり、それを放散しないと体温が上がり続けます」 (井上先生)

人間の身体は熱に弱いタンパク質でつくられているため、温めすぎると変性して正常に働かなくなるのだそう。そのため、熱に敏感な脳を含め、体温が上がらないように汗をかいて熱を放散する仕組みを備えているのです。また、人類学的に”人間が人間らしくなった”と言われるのは、木上から地上に降りて狩りをし、よい動物性タンパク質を摂れるようになったためなのだとか。

「これにも汗腺が大きく貢献しています。汗をかけない動物は持久戦になると人間に敵わず、追いかけられ熱中症で動けなくなったところを獲物として仕留められました」(井上先生)。そんな側面から覗くと、人類の進化に貢献した汗の軌跡も読み解けます。

しかし、現代の環境は、汗腺能力を低下させる要因があちこちに転がっています。閉め切った空間では常に空調にさらされ、 多忙によって運動不足にもなりがち。汗腺は発汗しなくなると徐々に能力を失ってしまいますが、その機会は確実に減少。「長崎大学大学院」教授の室田浩之先生は、本格的に外気温が高くなる前のいまが、汗腺の力を伸ばしてあげるチャンスだと語ります。

「いちばん効果的なのは運動による発汗です。無理のない範囲でいいのでコツコツ続けていくと、夏本番を迎えても順応できる身体が整うはずです」(室田先生)。汗腺は鍛えればしっかりと応えてくれるので、日常の中から改善できることを見つけたいもの。

また、汗は健康のバロメーターであり、心の健やかさにも密接に関係。「漢方カウンセリングルームKaon」代表の樫出先生は、漢方は気力や元気の源である”氣”と汗には深いつながりがあり、心を元気にすることが汗の悩みを解消させると話します。「身体と心の両方を充実させ、氣を巡らせることが大切。汗が教えてくるサインから、自分にとって必要なものを見つけていきましょう」(樫出先生)

教えてくれたのは…

「大阪国際大学」 スポーツ行動学科教授・医学博士 井上芳光先生

スポーツ生理学、温熱生理学、生理人類学の分野で発汗について研究。雑誌やテレビで、汗にまつわる企画の監修も手がける。環境省『熱中症環境 保健マニュアル2018』編集委員。著書に『体温II: 体温調節システムとその適応』(ナップ)がある。

「長崎大学大学院」 医歯薬学総合研究科 皮膚病態学 教授 室田浩之先生

アレルギー疾患、膠原病、無汗症や多汗症などをはじめとする皮膚疾患の治療のエキスパート。かゆみの仕組み、発汗異常症などについて研究。著書に『汗の対処法update(MB Derma)』(全日本病院出版界)がある。

「漢方カウンセリングルームKaon」代表 樫出恒代先生

漢方カウンセリングと、バイタルフットヒーリングで一人ひとりの心と身体に向き合ったケアを行う。漢方アドバイザーを育成するセミナー「Kaon漢方アカデミー」には毎回多くの参加者が集い、今年7月から14期を迎える。

illustration : Misa Itoi edit&text : Ai Watanabe re-edit:Yuri Iwata[press lab]
※kiitos. vol.20(2021年8月6発売)より抜粋。

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