CULTURE & LIFE

利便性の高い都心のマンションから、地方の古いアパートへ。住まいを変えることは、単に住所が変わるだけでなく、生き方そのものを見つめ直すきっかけになります。山梨県の高台に建つ、築50年のアパートに暮らす熊木健二さん。かつては東京・世田谷の1Kで暮らし、流行の最先端を行く花屋で働いていた彼は、今この静かな山梨の地で、自然と友人の温もりに囲まれた「無理をしない暮らし」を体現しています。古い物件ならではの味わいを慈しみ、人との繋がりから生まれたアイテムで空間を彩る。そんな熊木さんの、心豊かになる賃貸インテリアの工夫とライフスタイルの変化についてお話を伺いました。

 

東京のスピードから離れて。築50年のレトロさを愛す空間づくり

約10年間過ごした東京から、山梨へと移住して4年。熊木さんが選んだのは、最新の設備が整ったマンションではなく、坂の上に建つ築50年の古い賃貸アパートでした。

 

「移住を決めた時、とにかく『自然をそばで感じられる、そこそこ広い部屋』を探していました。この部屋を内見した時はまだリノベーションされる前の状態だったんですが、間取りの使いやすさと、窓からたっぷりと入る光、そして何より山が見える景色に惹かれて即決しました」

 

古い物件には、新築にはない独特の「味」があります。熊木さんが特に気に入っているのが、キッチンの壁一面に貼られたタイルです。

 

「レトロな雰囲気を活かしつつ、使い勝手を良くするために自分でオープン棚をDIYしました。照明を付けたり、お気に入りの器を並べたりしています」

 

東京時代は、インテリアメディアの取材を受けるほど、計算され洗練された部屋作りを目指していたという熊木さん。しかし、山梨に来てからはその価値観に少し変化が生まれました。

 

「東京にいた頃より、お金の使い方やモノの選び方が変わりましたね。高いブランド家具を無理して買うのではなく、古道具屋で出会った味わいのある棚や、自分で色を塗って作った少し歪んだ食器棚なんかを愛用するようになりました。完璧じゃなくても、自分が手を加えた空間の方が愛着が湧くんです」

 

食生活も大きく変わりました。

「水が美味しいですし、近所の人や友人のお店から『食べきれないから』と季節の野菜や果物をもらうことが増えました。最近は休日になると、キッチンのコンロにダッチオーブンを入れて、自分でパンを焼いたりもしています。自炊は東京時代もしていましたが、今は『季節のものをちゃんと食べる』という意識が芽生えましたね」

 

部屋中に散りばめられた「友人の記憶」。もらいもので完成する温かなインテリア

熊木さんの部屋を見渡して驚くのは、インテリアの多くが「友人からのもらいもの」で構成されているということです。

「キッチンの前に置いている絶妙な高さのカウンター棚は、カレーとコーヒーショップを営む友人が引っ越す時に譲ってくれたものです。実は彼、以前はこのアパートの隣の部屋に住んでいたんですよ」

 

それに、お米を炊いたりしている少しレトロなコンロも、お寿司屋さんの友人からいただいたものです」

 

リビングの中央に置かれたラウンドテーブルは、古道具屋で見つけた「ちゃぶ台」の天板の裏に、自分で角材を刺して高さを出したというアイデア品。

 

レコードプレーヤーとアンプのセットも、東京時代によく飲んでいた友人からのプレゼントです。

 

「夜に大活躍している温かい光のランプも、東京の友人と山梨の友人たちがそれぞれ引っ越し祝いに贈ってくれたもの。この部屋にあるモノの多くには、それをくれた人の顔やエピソードが紐付いています。だから、一人で部屋にいても常に『友人を感じる時間』が多いんです」

 

近所にある古道具屋「cycle」で購入したという本棚やチェストも、もともとは地域の廃屋や解体される家から引き取られてきたもの。「誰かが使っていた記憶」が宿るモノたちが、熊木さんの手によって新たな居場所を与えられ、不思議な調和を生み出しています。

 

ショールームのようにピカピカの家具を揃えるのではなく、コミュニティの中で循環するモノを受け入れ、自分の色に染めていく。それが、熊木さん流の温かいインテリアの秘密です。

 

借景を楽しみ、四季と共鳴する。自然をインテリアの一部に取り込む暮らし

高台にあるこの部屋の最大の魅力は、窓の向こうに広がる圧倒的な自然の風景です。熊木さんはカーテンを設けず、常にこの景色をインテリアの「借景」として楽しんでいます。

 

「引っ越してきた最初の春、目の前が一面ピンク色の絨毯みたいになっていて驚きました。全部桃の木だったんです。その後一度刈られてしまったんですが、生命力が強いからまた芽吹いてきて。春から夏にかけては山の落葉樹が鮮やかなグリーンに変わり、そこにぽつんと一本だけ桜が咲いたりする。雨の日も雪の日も、窓の外の景色をぼーっと眺めているだけで飽きません」

 

自然が近いゆえのダイナミックな体験も、この部屋ならではのスパイスです。
「春先から夏にかけては、朝6時くらいになると鳥のさえずりやツバメの声がものすごくうるさくて、それが天然のアラーム代わりになります(笑)」

 

「冬は『八ヶ岳おろし』という猛烈な風が吹いて窓がガタガタ揺れるし、外網戸のせいで虫も入ってくる。でも、日が暮れる色が綺麗で、そういう自然の厳しさや生き物の気配も含めて、この環境が気に入っているんです」

 

フローリストとして東京と山梨の二拠点を行き来するような忙しい日々の中で、この部屋に帰ってくると心のスイッチがスッと切り替わると言います。

 

「秋の夜長に肌寒さを感じながら、部屋の中でホットコーヒーを飲む。そんな『部屋の中にいながら外を感じる』ような感覚がとても贅沢に思えます。東京にいた頃より、明らかに自分の時間を大切にするようになりましたし、心が豊かになりました」

 

築50年の隙間風が吹くアパートでも、大好きな音楽をかけ、友人からもらったランプを灯し、季節の花を飾れば、そこは世界で一番居心地の良い秘密基地になります。

 

「無理をしない」「縁を大切にする」「自然に抗わない」。そんな熊木さんの生き方そのものが、この温かく美しい1LDKの空間を形作っていました。

 

熊木健二さんのInstagramアカウントはこちら
https://www.instagram.com/kuma_ken/

 

text & photo : Tsubottle

 

*

出典: goodroom journal 

記事提供元:リノベーション・デザイナーズ賃貸 goodroom(グッドルーム)

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