CULTURE & LIFE

国内外の様々な映画賞に輝いて、日本の映画界を代表する女優として活躍している黒木華さん。彼女が主演を務めた『せかいのおきく』は、江戸時代を舞台にした青春群像劇だ。寺小屋で子供達に読み書きを教えているおきくは、貧しい青年、中次(寛一郎)と矢亮(池松壮亮)と出会って次第に心を通わせていく。そんななかで、黒木さんが演じるおきくは、事件に巻き込まれて喋ることができなくなってしまう。手話がなかった時代に、身振り手振りで気持ちを伝えるという難しい役柄を見事に演じた黒木さん。気持ちを伝えることの難しさや大切さ。そして、歳を重ねるにつれて変化してきた人生との向き合い方について語ってくれた。

 

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ーー今回、黒木さんが演じたおきくは武家の娘。今は落ちぶれて長屋住まいをしていながらも、キリッとした佇まいが印象的でした。

武家として育って身についた行儀作法や所作は意識して演じました。長屋で暮らしていても、おきくは粗野じゃない。その一方で、たくましく生きる力を持っている女性だと思います。

 

ーー本作を手掛けた阪本順治監督が、黒木さんがお辞儀する姿が美しいとおっしゃっていましたが、着物を着ると動きも変わってくるんでしょうね。

そうですね。私は昔、日本舞踊を習っていたこともあったし、20代の頃は時代劇に出演する機会が多かったので、着物を自分で着る練習をしたり、着物を着て歌舞伎を見に行ったりしていたんです。だから、着物を着て動くことが身についているんだと思います。

 

ーー黒木さんにとって着物の魅力はどんなところですか?

色合いや素材の素晴らしさもありますし、着物を着ると背筋が伸びるんですよね。昔は日常的なものでしたけど、今はちょっとお洒落したい時の装いとして、着物を楽しめるのも素敵だと思います。

 

ーー確かに着物を着ると気持ちがリセットされるような気がしますね。話を映画に戻すと、おきくは事件に巻き込まれて喋れなくなってしまいます。当時は手話がないので、思っていることをどんな身振りで相手に伝えるかはアドリブで演技したそうですね。

とても難しかったです。ちょっとした仕草も現代ぽいんじゃないかと思ってしまうんですよね。着物を着ているので動きも制限されますし。名詞ひとつとっても難しいので、文章を伝えるとなるともっと大変。だから、あんまり考えすぎないようにしようと思って、その場で思いついた仕草で演じました。

 

ーー言葉以外で気持ちを伝えるのは難しいですよね。言葉が使えても、言葉の使い方で誤解を生んだりもするし。

そうですよね。誤解されないようにするには、どんな言葉を使ったらいいんだろうって考えます。友達だったら伝わることでも、初めて会う人には伝わらなかったりするじゃないですか。だから、相手の目を見ながら、ちゃんと伝わっているのかな?伝わっていないとしたら、どんな風に言えばいいのかなって考えたりします。相手の目を見ると、伝わっているのかどうかがよくわかるんですよ。ただ、心理学によると、あまり相手の目を見すぎると相手が不安になるそうなんです。なので、プレッシャーをかけない程度に相手の目を見るようにしています。

 

ーーコミュニケーションに気を使っているんですね。気持ちを伝える時に気をつけていることはありますか?

相手を傷つけないことですね。相手を否定しない。否定はしないけど、私はこう思うって伝えるようにしています。正論というのは相手を追い詰めてしまうことがあるんです。相手は性格も生まれ育った環境も違うので、正論をぶつけるよりも相手と自分は感覚が違うってことを理解するのが大事だということを、これまでの人生を通じて学びました。

 

ーーなるほど。おきくが住んでいる長屋は、すごく人間関係が密な場所で、みんな家族づきあいをしている。いま、そういった共同体が社会からなくなってきていますが、黒木さんは長屋みたいな場所をそう思いますか?

いまは防犯の関係上、自分のことをあまり知られたくないと思って、近所に挨拶しない人もいますよね。長屋の人々はお互いに支え合っていて、他人だけど関係性が近い。不思議な場所ですよね。

 

ーー関係性が近いから安心できることもあるけれど、それが煩わしい時もありますよね。黒木さんは長屋に住んでみたいと思います?

私は人見知りなので無理かもしれません。長屋に住んでいると疲れてしまって、一人になりたくなりそう。平成生まれの現代っ子なので、やっぱり現代がいいですね。ウォシュレットもあってほしい(笑)。

 

ーーそういえば、中次と矢亮は長屋の厠に溜まった下肥を買って、農家に肥料として売る仕事をしています。人々から嫌われる仕事を通じて社会を描いているのが興味深かったです。

みんなが、普段は直視しないものをクローズアップして、エンタメとして面白い作品に仕上げるというのはなかなかないと思います。そこからさらに、環境問題にも触れる映画にするという試みは面白いと思いました。

 

ーー江戸時代は下肥を無駄にせずに畑の肥料として使っていた。最近、よくいわれる「サスティナブル」という考え方に繋がる仕組みだったんですね。最近、環境問題が取り上げられることも多くなりましたが、黒木さんが日頃意識していることはありますか?

私は自炊しているんですけど、世の中で食べ物がたくさん捨てられていることを知って、必要なぶんだけ買うようにしています。フードロスって生産者の方にも申し訳ないですし。

 

ーー自炊されているのであれば、なおさら食べ物を捨てるのはもったいないと思いますよね。自炊はずっとやられてきたんですか?

はい。撮影現場で出るお弁当ばかり食べていると胃が痛くなってしまうので、よほど忙しい時以外はなるべく作るようにしています。冬はずっと鍋。一人暮らしだと白菜を買ってきても食べきれないので、そういう時は鍋がいちばんなんです。楽だし野菜がいっぱいとれるので。最近はピェンロー鍋にはまって、そればかり作っていました。

 

ーー仕事から帰って鍋の支度をするというのも大変なのでは?

結構、時間がかかるんですけど、かけたぶん美味しく感じるんですよね。それに料理って無になれるといいますか、余計なことを考えなくていいので、それが気分転換になっているのかもしれません。しかも、その後、美味しく食べられるし(笑)。

 

ーーいいことづくめですね(笑)。この映画では「せかい」という言葉が印象的に使われていて、おきくの世界は映画の中で大きく変わります。黒木さんのなかで、自分の世界が大きく変わったのを感じた時はありました?

ひとつは野田(秀樹)さん演出の舞台に出た時。もうひとつは映画『小さいおうち』に出演して海外の賞(ベルリン国際映画祭最優秀女優賞)をいただいた時ですね。

 

ーー自分を取り巻く世界は大きく変わった時、人によってはプレッシャーに感じたり、戸惑って自分を見失ったりすることがありますが、黒木さんはどうでした?

振り返ると楽しいことしか思い出せなくて、つらかったとはあまりなかったですね。私は〈何事も楽しむ〉ということを人生のテーマにしているので。

 

ーーその〈何事も楽しむ〉主義は子供の頃から?

私は基本的にネガティヴなので、いろいろ考え過ぎてしまうんです。でも、母と一緒にいるうちに変わってきたんです。

 

ーーお母様はポジティヴな方なんですか?

母はポジティヴですね。私は歳をとるにつれて、性格が母に近くなってきました。30代になってから、いい意味で適当に生きられるようになった気がします。

 

ーー年齢が関係あるんでしょうか?

経験値が積まれていくことによって、こういう場合はこうしたほうがいい、とわかるようになるじゃないですか。20代の頃は、がむしゃらに頑張るしかなかったのですが、最近になって頑張るだけじゃダメだっていうことに気づくようになりました。

 

ーー人生経験を通じてタフになったんですね。

そうですね。図太くなったのかな(笑)。私は歳をとるのが好きなので、これからもいろんなことを楽しみながら歳を重ねていきたいと思います。

 

 

model_Kuroki Haru
photograph_Kobayashi Mariko
styling_Umeyama Hiroko(KiKi inc.) 
hair&make-up_Arai Katsuhide(e.a.t…)
interview & text_Murao Yasuo
edit_Takehara Shizuka

 

映画『せかいのおきく』

4月28日(金)より、テアトル新宿、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

監督・脚本:坂本順治
製作:近藤純代 企画・プロデューサー:原田満生
出演:黒木華/寛一郎/池松壮亮/佐藤浩市/眞木蔵人/石橋蓮司
製作:FANTASIA Inc./YOIHI PROJECT 制作プロダクション:ACCA
配給:東京テアトル/U-NEXT/リトルモア © 2023 FANTASIA

公式HP:http://sekainookiku.jp/

 

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