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90年代と今。時代をめぐる映画カルチャー


たとえどんな時代になっても。カルチャーはおもしろそうに変わって、進んで、私たちをどうしようもなくドキドキさせてくれる。
最近のトピックでは「デジタル世代のゆりもどし」として、アナログな紙の本に注目。つれて「独立系書店」と呼ばれるお店も増えているけれど、その流れを受けて今、気になるのが「独立系映画館」。個人のセレクトセンスが反映された、たった数十席の小さな映画館が、じわり増えているようす。
そういえば。映画のカルチャーって時代によってどんな変遷をたどり、今にどうつながっているのだろう。まさにそれを知るにおあつらえむきだったのが学芸大学の「COUNTER BOOKS」で行われたトークショー「たっぷり90年代映画教室」。

会場は、今、東京カルチャーのまんなかを突っ走る!学芸大学のカフェ&バーがある書店「COUNTER BOOKS」。 90年代映画をテーマにしたイベント『90s MOVIE LOVERS SUMMIT』の1プログラムとして行われた。
語り手は、ズキュン!と映画ファンの胸を撃ち抜く、独自のセレクトセンスで知られる移動映画館「キノ・イグルー」の有坂塁さん(写真右)。同じく「キノ・イグルー」のメンバーで、国内最大級の映画・ドラマレビューサービス「Filmarks(フィルマークス)」のプロデューサー、また名作映画の劇場リバイバル上映の仕掛け人としても知られる渡辺順也さん(写真左)。

映画好きには鼻息モノのふたりが語る、濃〜い1時間半。そこで生まれた対話の、ほんの一部をおすそわけ!
憧れのシネクラブと「奇跡の返信」
有坂:「キノ・イグルー」ができたきっかけは、シネクラブという文化への憧れからでした。パリのカルチャーのように、ヒット作やミニシアター系とも違うラインナップを届けたい。そんな想いを抱えていた頃、レンタルビデオ店時代のバイト仲間が小さな映画館を始めたんですよ。閉館してしまった映画館の映写機を譲り受けて、DIYで作った劇場でした。「シネクラブやりたかったんでしょ? ここでやれば」と言ってもらえたのが始まりです。

イベント後に配られた「キノ・イグルー」のポストカード。さまざまな映画のダンスシーンをイラストにした、 アイデアとセンスの効いた作り。どのイラストがどの映画かを言い当てるのもたのしい。
やるなら名前も中途半端にはしたくないと思い、一番好きなフィンランドの監督、アキ・カウリスマキに手紙を書いて、名付け親になってもらおうと決めました。
でも、イベントの開催日は決まっているのに、監督からの返事が来ない。印刷物の入稿期限ギリギリの1月最終日、諦めかけたその時、監督のプロデューサーから連絡があって「アキからメールが届いたので転送します」と。そこで付けてもらった名前が「キノ・イグルー(雪のかまくら)」。実はカウリスマキ自身も若い頃に「キノ・イブ」というシネクラブをやっていて、その名前を託してくれたんです。
映画嫌いのきっかけはスピルバーグ!?
有坂:そんな活動をしている僕ですが、実は子どもの頃は映画が大嫌いでした(笑)。決定打は7歳の時。僕は『グーニーズ』が見たかったのに、親に連れられて見たのがスピルバーグの『E.T.』。「なんでE.T.なんだよ!」と思いながら見た宇宙人の顔は怖いし、じっとしていられない。結局、双子の兄と劇場を走り回って「二度と映画なんか見ない!」と誓いました。だから、僕を映画嫌いにさせたのはスピルバーグです(笑)。
ただ大人になってから見返したら大泣きしましたし、ジブリ作品も大人になって初めて『崖の上のポニョ』を観ました。でも、子どもの頃にトトロに出会って「トトロは本当にいる」と信じて育った人とは、やっぱり血肉になるレベルが違う。映画はいつ出会うかという「タイミング」がすごく重要なんだと、実体験として痛感しています。
「リバイバルは30年前」の法則
渡辺:今、僕は90年代映画のリバイバル上映に力を入れています。きっかけは、以前企画した「ヌーヴェルヴァーグ(60年代フランス映画)」の上映での失敗でした。僕らが20歳の頃は90年代で、60年代のヌーヴェルヴァーグがめちゃくちゃお洒落で流行っていたんです。だから今の若者にも受けるだろうと思って上映したら、全然人が入らなかった。「タイトルも知らないし、古い」と言われてしまって。そこでハッと気づいたんです。僕らが20歳の時の「30年前」が60年代だった。じゃあ、今の20代にとっての「30年前」はいつか? それが90年代なんです。

映画パンフレット愛好家としても活動中の有坂さんが持ってきてくれた、90年代映画のパンフレットや、 当時の映画雑誌。こういうところにこそ時代が滲み出る。
試しにクエンティン・タランティーノの『パルプ・フィクション』を上映したら、信じられないくらい若い子が集まりました。ファッションや音楽で90年代リバイバルが来ている感覚とも合致したんです。60年前(1930年代)の映画を僕らが「古すぎる」と感じたように、今の若者には30年前くらいが一番かっこよく見える「ちょうどいい距離感」なんですよね。
クエンティン・ タランティーノという衝撃
有坂:タランティーノは、僕らの時代のスターです。その衝撃は、本当に大きくて。70年代のジョージ・ルーカスとかスピルバーグは、映画学校で映画を学んだ世代。それに対して、タランティーノは新作もB級映画も問わず、浴びるようにぜんぶ観て、自分の地肉にしていく。
それは彼が「ビデオレンタル店出身」の人だから。
ビデオレンタル店の何が違うかっていうと、この書店と一緒で。いろんな映画が並んでいて、それは視覚的に情報が入ってくるだけじゃなくて、手に取って気になったものを借りて、その1週間後に返しに行かなきゃいけない。その「ひと手間」があることで、なんとなくでは観れないし、なんとかしてこの映画を自分の身にしようという気持ちが無意識に働いてる。

「COUNTER BOOKS」は音楽や映画にまつわる書籍も多数セレクト。 本が入り口になって、それぞれにどっぷりハマっていく人も多いという。
あと僕の働いていたお店だと「スタッフのおすすめコーナー」を作っていて、それぞれの視点の熱いコメントとともに、新しい映画との出会いが作れる。そういうものを現場でできたのは、大きいなと思います。
「シネマライズ」の行列がもたらしたこと
有坂:90年代当時、渋谷の「シネマライズ」(渋谷区のスペイン坂にあったミニシアター。2016年閉館)は単なる映画館ではなく「シネマライズに行けばおしゃれ。あそこでやってるものはとりあえず観とけばいい」みたいな感じでした。だから混む。当時はインターネット予約がなかったので、本当に大行列でした。とくに『トレインスポッティング』という映画が公開された時、スペイン坂の下の、さらにABCマートまで列が伸びていたので「何の行列ですか?」と聞かれると「映画です」と答えるので、ある意味それが広告になっていた。街に活気を生んでいた部分でもあったんです。

SNSでなんでも手に入れられてしまうからこそ、カフェや書店などに置かれたフライヤーから 得る情報が愛おしく、貴重に感じてしまう。
90年代サントラの特徴は「監督がDJ」
渡辺:『トレインスポッティング』と言えば、サントラが先行して話題になって、めちゃくちゃ売れたんですけど、その映画のために作った音楽じゃなくて、自分の好きな音楽を集めたから。

本イベントの企画、またこの日の司会を務めたのは「COUNTER BOOKS」の上田太一さん(写真右)。 彼もまた90年代の映画に恋をし、ほだされたひとり。
有坂:そう、だからサントラって、世代によって捉え方が違っていて。親の世代だとエンニオ・モリコーネとかの「映画のために作る音楽」で、その後スピルバーグやジョージ・ルーカスの時代になると「エンディングをヒット曲にする」みたいな法則。90年代になるとまた変わって、『トレインスポッティング』のダニー・ボイルやタランティーノ、あとソフィア・コッポラといった監督たちは、いわゆるDJですよね。自分の感覚で、既存の楽曲からシーンに合うものを選曲して世界観を作るスタイル。だからこそ、映画好きだけでなく、音楽好きも巻き込んだムーブメントになったんです。
渡辺:これは先日のリバイバル時に、吉祥寺の美容師から聞いた笑い話なんですが。「これから『トレインスポッティング』観に行くんで、オアシスのリアム(・ギャラガー)みたいな髪型にしてください」という若者が来たそうなんです。ただ、実はオアシスの曲はサントラにはなく、むしろライバルのブラーが使われている(笑)。でも、その間違いすら微笑ましい。
有坂:でもそれって、90年代っぽいなと思ったんですよね。映画をただ消費するのではなく、自分なりの楽しみ方をしている。「どういうファッションで行くか」「終わった後どこで遊ぶか」とか。なんかその映画だけで完結してなかった空気があったなと思うんです。
独立系映画館と、めぐるカルチャー
有坂:そう言う意味でも僕は今のカルチャーの状況って、どこか90年代に近づいているように感じてるんです。ファッションであったり、音楽であったり、わりと映画を映画の中だけで閉じ込めず、そこの魅力をどう引っ張り出して企画にするか、ということをやっている。さらに当時の映画のリバイバルブームも来ていますし、A24みたいな独立系の面白い映画会社も、メジャーもきちんとある。

イベント時に提供されたのは西早稲田のレストラン「ブイプラス」による、何かの映画に出てきそうな、食べたら映画を観たくなるようなスパゲティ。
渡辺:あと実は映画館も「マイクロシアター」って言われるところができてきてるんですよね。福岡に「Yet Cinema Club」という「fuzkue」書店と併設したところがオープンしたり、埼玉にも「movie theater THE SPOT」という月に一度だけ映画館やってる古民家カフェがあったり。今、こうして独立系書店が盛り上がっていると、本以外の文化でも、新しいことをやる人たちのヒントになってる気はするんですよね。
有坂:なので、たとえばこういうトークショーに来たり、劇場でリバイバル上映を観た方が刺激を受けて、それぞれ発信していくことで、ここからカルチャーができていくのかなと思ってます。
***
つまるところ、映画をカルチャーとして育んでいくために。鍵となるのは、作品そのものの良し悪しだけでなく「いつ、誰に、どう届けるか」という文脈を作ること。
ネットでかんたんにチケットが取れ、配信で手軽に作品が見られる今、だからこそ。90年代の映画カルチャーが教えてくれるのは、行列に並び、サントラを聴き込み、ファッションを真似して街へ出るという一連の行動や熱量。
あの頃、たしかにあった「街のみんなで映画をたのしむ」ということ、そのものなのかもしれない。

キノ・イグルー https://kinoiglu.com/
counterbooks https://www.instagram.com/counterbooks/
edit:Mitsuharu Yamamura(BOOKLUCK)
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