ONKUL

 

「ONKULの雑誌づくりに参加しませんか?」そんな呼びかけに応募をしてくれた、編集や取材、文章を書くことに興味がある「ONKUL特派員」たち。

今回のテーマは「本と人。」

今どき、電車でスマホを見ずに本を読んでいる人は、かっこいい。さらに「どんな本を読んでいるか」には、その人らしさが浮き彫りになる。それは服を選ぶ感覚、つまりファッションとも地続きにあるもの。

本企画では、日本全国にいる特派員のみなさんのまわりにいる“本好きさん”を集め、本人と本との関係性を紐解きます。

今回は、ONKUL特派員・奥村サヤさんがスナップした人たちをご紹介。

 


『自分が自分であるための一冊。』 #01

石島彗夢さん/カフェスタッフ

 

「本棚から手放したくない一冊を教えて」

そんな質問に、カフェスタッフの石島彗夢さんが教えてくれたのが「モモ」。
時間泥棒に奪われた人間たちの「時間」を、不思議な少女モモが取り戻していく物語だ。

はじめてモモを読んだのは、大学生のころ。妹にすすめられて、手に取ったという。

「児童書だと思って軽い気持ちで読んでみたら、すごく深い話で惹き込まれました」

そのときは「時間を大切にしなきゃなあ」と思う程度の感想だったけれど、大人になって読み返した今、その受け取り方は少し変わった。

「“自分でいれる時間を大切にしたい”って、強く思うようになりました」

忙しさや効率ばかりが求められる社会の中で、気づかないうちに、自分の時間をすり減らしてしまっているのかもしれない。SNSを眺めていると、周りの目が気になったり、つい誰かと比べてしまったり。そうして何かに追われるように過ごすうちに、本来の自分を見失っていく感覚がある。

だからこそ「心が削られることに時間を使いたくない」と、彗夢さんはきっぱり。

たとえば、行きたくない飲み会には行かない。無理をして他人に合わせない。そうやって自分の心地よさを優先するうちに、ありのままでいられる友人と出会えたという。

モモは、自分らしくいられる時間の大切さを教えてくれた。

 

 

『モモ』ミヒャエル・エンデ 著 大島かおり 訳 ¥1,870/岩波書店

 

 

 

『自分が自分であるための一冊。』 #02

岡田陽恵さん/『あまや』店長

 

「この本が、私のバイブルです」

そう言って見せてくれた一冊は、本と過ごしてきた年月を感じさせ、何度も読み返されてきたことが伝わってくる。岡田さんは旅をするときも、この本だけはバッグに忍ばせるそうだ。

もう絶版となり、手に入れることは難しい『火の車板前帖』。

舞台は昭和の酒場。居酒屋「火の車」で板前を務めた著者が、店に集う人々とのやりとりや、日々の営みのなかで出会った人間模様を綴った一冊だ。

私も読ませてもらったが、もうハチャメチャ。酔うとすぐに真っ裸になる人もいるし、夜中だろうが何だろうが、店の戸をドンドンドンと叩いて「酒を飲ませろ」という人もいる。現代なら一発アウトだ。けれど、馬鹿馬鹿しさの中に愛おしさがあって、むき出しの人間らしさに、どこか羨ましさも覚える。

岡田さんは「一生懸命に生きることの美しさを感じさせてくれる」物語が詰まっていると話す。

カウンター越しに人を見守る板前の視点に、自分自身の姿を重ねている。店に集まる人たちの日々の営みや葛藤を受け止めていく。その在り方が、自分の原点のように感じられるのだと話してくれた。

この本がバイブルだという岡田さんと話をすると、不思議とふっと肩の力が抜ける。きっと、懸命に生きるということが、何よりも美しく、尊いものだと知っている人だからなのだと思った。

 

 

『火の車板前帖』橋本千代吉 著 ¥858/筑摩書房

 

 

 

essay column:私の“本と人”

 

わたしは、読書家ではない。だから、人前で「本が好き」と言うことに、少しうしろめたさを感じてきた。わたしが本を好きになったのは、母の影響が大きい。母は毎晩、寝る前に必ず本を読んでいて、その習慣が自然と受け継がれたのだと思う。吉本ばなな、村上春樹、太宰治……。小学生のわたしは、手当たり次第、いろんな作家の本を読んだ。どれも難しくてちゃんと理解することはできないけど、わからないことをわかろうとして読み進める時間が好きだった。最後のページをめくるときは、小さな達成感に包まれた。そうやって本と仲良くなってきた。
ずっと本がそばにいたかというと、そうではない。高校生になると友だちと遊ぶことに夢中になったし、スマホを手に入れてからは、たくさんの情報がすぐに手に入るから、本との距離はずいぶん遠くなった。それでも、将来が見えなくて不安になったとき、会社でパワハラにあった辛い日々、どうしようもなく寂しさに潰れそうな夜、私の足は自然と本屋に向かった。背表紙を眺めながら本棚の間を歩くと、浅かった呼吸が、ゆっくり深く整っていく。今の気持ちにあう本を一冊選んで、胸に抱えて店を出ると、足取りは軽くなっていた。
本は、いつだって待っていてくれるから好きだ。長い間、手に取らなくても、積読の山のなかに埋もれていても、本は急かしたりしない。ハッとする言葉に出会ったら、パタンと閉じて思考をめぐらせることができる。その間は、だれにも邪魔されることのない、わたしだけの自由だ。
本を語れるほど詳しいわけでもないし、たくさんの知識があるわけではない。けれど、本と過ごした時間は、わたしの人生のあちこちにあって彩ってくれている。わたしは、読書家ではない。けれど、本が好きだ。

 

 

text:Saya Okumura

 

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