ONKUL

本や映画に没頭できる場って?

自分らしいセンス全開で、個人や小さな組織が営む独立系書店。今やすっかり本好きの目的地だけど、最近はその映画バージョン、いわゆる“独立系映画館”が、じわり盛り上がってるもよう。

今年2月、福岡・大橋に新しくオープンするのが、映画館とカフェを融合させた15席ほどの小さな映画館「Yet Cinema Club」。そこには読書に没頭できる空間として、本好きさんの間で人気の「fuzkue」が併設されるという。

そこで、今回はふたりのオーナー「Yet Cinema Club」川﨑 陸さんと、「fuzkue」阿久津 隆さんの対談が実現。テーマはズバリ「本や映画に没頭できる場って、どうすれば作れますか?」

 

「自分の存在が認められている」という感覚

ONKUL:今はSNSなどもふくめていろんな誘惑がある中で、本も映画も、なかなか没頭できないと思っている人って、すごくたくさんいるだろうなと感じていて。 どうすればそんな環境ができると思いますか?

川﨑さん(以下川):それで言うと、僕が思うに「fuzkue」で読んでいる時間は、やっぱり訳が違うなと。なぜそれが特別なのか振り返ると、自分の存在が認められているっていうことが、すごく実感できるんです。 別に何かをしてくれるわけじゃないけれど、自分がひとりで本を読んでいるということが尊重されているし、自分もまた場所を尊重している。その空間にある「暗黙の信頼関係」みたいなものが、没頭できる要因なのかなと。

阿久津さん(以下阿): その「暗黙の信頼関係」を、あえて明示しているのが「fuzkue」なのかな。本に没頭する場所がそれまでほとんどなかったからこそ、ちゃんとルール化して「ここはこういう場所です」という強い宣言があって、初めて成立しているというか。

 

映画館という場所の「怖さ」と「安心感」

川:実は僕、映画館に行くのが怖いなと思うことがあって。スマホをひらく人がいたり、音を立てる人がいたり、誰が隣に座るかで自分の鑑賞体験が変わってしまう。でも「fuzkue」ではその不安を感じることがほとんどない。その信頼の強度はどうやって作られているんでしょうか。

阿:「fuzkue」には場をコントロールする人間がいる、というのが大きいと思います。ルールのテキストだけあれば回るわけじゃなくて、必要に応じて「実はこういうルールでやっていて」とか、人間がこまごまと仲介しに行く。僕はこれ、ラグビーの審判に近い感覚だと思っていて。

川:ラグビーの審判、ですか?

阿:ラグビーの審判って、選手とコミュニケーションを取りながら「いいゲームをやろうぜ」という前提を共有して運営を円滑にしている感じがするんです。「みんなでいい読書の時間を過ごしたい」と思ってくれていることは前提として信頼して、その上で調整が必要なときは、案内してあげる。そういうコミュニケーションのコストを払っているから、成り立っているんだと思います。

川:あと、自分の存在が認められるための条件のひとつは「ちゃんと固有の人間だと見なされている」ことかなと思っていて。 だから接客の「いらっしゃいませ」という決まり文句を剥がして、普通に「こんにちは」と声をかける。 記号としての「客」ではなく、ひとりの人間として見なすことを大切にしている。その絶妙な距離感のケアをすごく感じます。映画館も、受付で店員さんと少し話した記憶が残っているような場所は、やっぱり好きな場所になりますね。

 

一日が報われる場所にするために

川: 僕は下北沢の「fuzkue」によく通っていたんですけど、夜の2時間、本を読み終わって歩いて家に帰る時間が、とんでもない贅沢だなと思っていて。 それだけで、一日が報われる気がする。 福岡で「Yet Cinema Club」を作るときも、そういう「作品に没頭することの尊さ」が共有できる場所を地域に作りたいと思ったんです。

阿:僕も映画館という空間にはすごい救われてきた人間なので。それに「fuzkue」のことを説明するときも、ずっと「映画に映画館があるように、本にもそういう場所があるといいな」みたいなことを繰り返し言っていたこともあるので、それが混ざる場所ができるなんて希望のある話だなぁと。

川:ありがとうございます。「fuzkue」も11年間の中で信頼が積み上げられたように、「Yet Cinema Club」も時間をかけてゆっくり、信頼関係を積み重ねていける場所にしたい。作品の知名度だけで人を呼ぶのではなく「この場所で上映している意味」を含めて、お客さんと深く握手し続けていけるような場所にしていきたいです。

 

 

【information】

福岡・大橋に誕生する「Yet Cinema Club」は、現在クラウドファンディングを実施中。私たちの日常に「没頭」を取り戻すための新しい挑戦を、ぜひチェックしてみてください。 詳細はこちら

 

 

edit:Mitsuharu Yamamura(BOOKLUCK)

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