kiitos.
太陽の季節がやってきて、じんわりと汗ばむ私たちの身体。汗の粒の中には、どんな秘密が隠されているのだろう? ともすると疎まれがちなこの存在は、人類が最も発達させてきた崇高な体温調節システム。さらには心と身体の映し鏡である汗についていま向き合ってみよう。
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そもそも、【いい汗】と【悪い汗】って?
「皮膚や深部から脳に入る温熱情報が小さくても、素早くかけることがいい汗の条件です」(井上先生)。それはつまり、温度情報の変化に敏感な汗腺のこと。滴るほど出る汗は体液を失うことになるので、ぼとぼと落とさず蒸発する量だけ出すのが理想的。
また、暑い環境にいるとき、汗がサラサラしていればいい汗であるという目安に。
・サラサラ汗=水に近い汗のため、蒸発しやすい
・ベタベタ汗=塩分が多く含まれているので濃度が高く、蒸発しづらい
「いい汗をかくとスッキリし、悪い汗をかくと疲労感が残る、という声を患者さんから伺うこともあります」(室田先生)。
悪い汗は塩辛い
エクリン汗腺は血液中から血漿を汗の原液として取り込み、汗の原液に含まれる塩分を血液にリサイクルしています。「分泌管でつくられた汗の原液は血漿のナトリウム濃度と同程度ですが、導管を通る中で身体に必要なものとして再吸収されます。この機能がきちんと働き、残った水分が皮膚表面に出てくるのがいい汗です」(井上先生)。汗腺の能力が高ければ、汗の速度が早くても、身体に必要な塩分をより多く再吸収できるのだそう。
一方、ナトリウムを十分に再吸収できず皮膚に排出されるのが悪い汗。「汗をかき、再吸収能力を高めることで、効率的に働く汗腺を鍛える必要があるのです」(室田先生)。
悪い汗によるリスク
◾️慢性疲労
疲労感が抜けず、めまいや立ちくらみ、食欲不振などの夏バテの症状を引き起こす要因になることも。「塩分が多い汗をかくようになると蒸発効率が悪くなり、体温をうまく下げられなくなります。外気温が高くなる夏は特に、発汗による熱放散で身体を守らねばなりません」(井上先生)。
◾️熱中症
体内の水分や塩分のバランスが崩れ、慢性疲労の状態がさらに悪化した状態がいわゆる熱中症。炎天下のみならず、湿気や熱気がこもりやすい室内でも症状を引き起こすことがあります。「日常生活に汗をかく機会を取り入れ、高い発汗能力を保つことが熱中症予防に有効です」(井上先生)。
いい汗は肌を美しく保つ
汗には、水との親和性が高い天然保湿因子が含まれています。成分は乳酸ナトリウムや尿素から構成されており、それらの影響で汗をかいた場所は皮膚に水分が保持されやすい状況になるのです。また、汗をかくことは肌のターンオーバーを促す働きにもひと役買っているのだそう。新しい皮膚がうまれ、古い角質が剥がれ落ちるサイクルが乱れると肌にトラブルを起こしやすい状態になりますが、汗に含まれるタンパク分解酵素が角質細胞の間の接着を剥がし、肌の新陳代謝を手助けしてくれます。
このように、肌にとっていいことづくめの汗ですが、拭き取らないで放置するのは逆効果なのだといいます。「皮膚表面に残って放置された余剰な汗で角質がふやけると、皮膚の摩擦で過度に角質が剥がれて発赤を生じる“間擦疹”を生じたり、汗孔が詰まることで汗疹を生じる恐れがあるので注意が必要です」(室田先生)。
◾️いい汗は皮膚表面の細菌叢のバランスを整える
汗の中には、菌と戦うための整体防御機能を備えるタンパク物質、抗菌ペプチドが存在。これが皮膚表面にある悪玉菌に作用すると、菌の細胞の膜に穴を開けて発育を抑えたり、殺菌する効果があります。
「皮膚表面には、善玉、悪玉というようなさまざまな菌が共生しており、汗をかくことで皮膚細菌叢のバランスが維持されています。抗菌ペプチドは、病原体から身体を守る役目も果たしてくれるのです」(室田先生)。
◾️いい汗はアレルギーの発生を抑える
獲得しやすいアレルゲン(アレルギーの原因になる物質)であるダニアレルゲンは、プロアテーゼと呼ばれるタンパク質を分解する酵素で、付着すると皮膚のタンパク質を溶かしてどんどん中へと侵入しようとします。
「汗にはダニ抗原のタンパク分解酵素を抑える作用があると言われていて、発汗することで抗原を失活させます。防御という面でも、汗はとても興味深い機能を発揮してくれます」(室田先生)。
✔︎TIPS「手汗には感染症に対するバリア機能がある」
「花王」は、人間の手指にはうまれつき感染症の原因となる菌やウイルスを減少させるバリア機能があり、風邪やインフルエンザのかかりやすさに関連していることを世界ではじめて明らかにしました。
この機能の能力には個人差があり、感染症にかかりやすいという意識がある人、ない人を数名選抜し、手指に大腸菌を塗布した直後と3分後の手指の菌の状態を調べると、3分後に、菌がほぼそのまま残る人と菌がほぼ消失する人がいるという結果に。さらに、この差をつくり出す主因は何かを調べたところ、手汗から分泌される乳酸が貢献していることを突き止めました。
実験方法は、20〜40代の男女54名の手指表面の成分を採取し、食中毒の原因などになる黄色ブドウ球菌とインフルエンザウイルス(H3N2)を使って抗菌・抗ウイルス活性と相関の高い物質の特定を試みたところ、その両方に対して相関がある複数の物質の中でも特に、手汗から分泌される乳酸が重要であることを解明。また、乳酸水溶液を、手指に存在する範囲で乳酸量を変え、手指に塗布した実験では、乳酸量が多くなるほど抗菌活性が向上することも確認しました。
これは、手肌に蓄積された乳酸が菌やウイルスと接触し、その菌やウイルスの中に入ることで微生物内の水素イオンの濃度・pHを低下させ、弱酸性に保つことで手の表面の病原体をすぐに死滅させているためだと考察しています。手指を衛生的に保つための手洗いやアルコール消毒は一過性であるのに対して、生来の手指のバリア機能は恒常的。今後研究が進めば、手指にバリアをはるという新しい感染予防習慣が誕生するかもしれません。
教えてくれたのは…
「大阪国際大学」 スポーツ行動学科教授・医学博士 井上芳光先生
スポーツ生理学、温熱生理学、生理人類学の分野で発汗について研究。雑誌やテレビで、汗にまつわる企画の監修も手がける。環境省『熱中症環境 保健マニュアル2018』編集委員。著書に『体温II: 体温調節システムとその適応』(ナップ)がある。
「長崎大学大学院」 医歯薬学総合研究科 皮膚病態学 教授 室田浩之先生
アレルギー疾患、膠原病、無汗症や多汗症などをはじめとする皮膚疾患の治療のエキスパート。かゆみの仕組み、発汗異常症などについて研究。著書に『汗の対処法update(MB Derma)』(全日本病院出版界)がある。
[関連記事]
汗って何者?身体の機能を守る汗のメカニズムを紹介|汗って何者?①
汗には3タイプの出方がある!汗の仕組みを紹介|汗って何者?②
illustration : Misa Itoi edit&text : Ai Watanabe re-edit:Yuri Iwata[press lab]
※kiitos. vol.20(2021年8月6発売)より抜粋。
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