kiitos.

毎日使うものだから、自分の肌に合ったものを、正しく選びたい。成分に深い知識を持ち、これまで長年にわたり数多くの製品を研究・開発してきた、日本の化粧品業界の最前線で活躍中の白野 実先生にスキンケアの選び方のイロハを伺いました。

Index

「水性成分」「油性成分」「界面活性剤」の3つの成分で化粧品はつくられる

「化粧品は、水や水に溶けやすい性質を持つ水性成分、オイルや脂など水に溶けない性質を持つ油性成分、水と油を仲立ちさせるための界面活性剤の、3つの成分の組み合わせから成っています。

配合される割合のほとんどを、これらの3つのベース成分(基剤)が占めていて、成分の定義はなくとも、濃度や配合する割合によって別カテゴリの製品になります。わかりやすく言うなら、油性成分が含まれない化粧水に油性成分を足していくと乳液に、さらに足していくとクリームになる、といったイメージ。

そのベース成分に、美容成分や防腐剤や増粘剤といったそのほかの成分を加えることで、化粧品はつくられています。スキンケアコスメの成分をチェックする際には、どうしても美容成分ばかりに目がいきがちですが、実は製品のテクスチャーや使い心地を決定づけるベース成分が、とても大切なのです」(白野先生)

化粧品を構成する成分で、そのほとんどを占めるのが水性成分・油性成分・界面活性剤のベース成分。それぞれの成分濃度と配合の割合によって別カテゴリの製品になる。

例えば……
固形洗顔料:水0〜10%+水性成分0〜20%+油性成分0〜1%+界面活性剤90〜95%
化粧水:水80〜95%+水性成分5〜20%+油性成分0〜0.5%+界面活性剤0〜1%
クリーム:水50〜85%+水性成分5〜20%+油性成分5〜40%+界面活性剤2〜8%
など

成分その① 水性成分

ベース成分の中で、水または水に溶けやすい成分。水分を保持する作用によって肌にうるおいを与える(モイスチャー効果)、使用したときの清涼感・温感を付与する役割などを担います。

「成分表示は多い順に並んでいるだけでその量までは推測できません。また単独ではベタつきが多いグリセリンも水に溶解するとさほどベタつきを感じなくなることもあるなど、成分表示からはなかなか使用感までを推測するのは難しくなっています。ですので、水性成分は自分が合わない成分が明確になっている場合以外はあまり気にせず、できればサンプルやテスターなどを確認してみるのがよいでしょう」(白野先生)

Q. スキンケアコスメに使用される水で効果は変わる?

A. 自分に合うものを自由に選んでOK!

「ほとんどのアイテムで、成分表示の最初に書かれていることからもわかるように、成分構成のベースは水になります。一般的に使用されるのは、表示名称が水、精製水となっているもので、イオン交換やろ過することで不純物を除去し、純度を高めた水のこと。そのほか、近年ナチュラル・オーガニック系のブランドを中心によく使用されるのが、温泉水や海水などに代表されるミネラル含有水と、ハーブ水や植物水などに代表される芳香蒸留水です。

ミネラル含有水は、ミネラルが肌によい影響を与える効果が期待できる反面、化粧品の中の成分と結合する恐れがあるため、商品の中にはミネラル分を減らす処理を施したものも。芳香蒸留水は、ハーブなどから精油を抽出する際に得られる水で、植物エキスや芳香成分を微量に含んでいるのが特徴です。いずれも大きな違いはないので、好みやイメージで選んでOK。ただし、敏感肌の人は、不純物のない水、精製水を選ぶのがベター」(白野先生)

Q.水性成分にはどんなものがある?

グリセリン

BGなどに比べて保湿効果が高く、しっとりとしたうるおいを長時間保ってくれる。その一方でベタつきが強め。

BG

グリセリンとともに日本ではとてもよく使われる水性保湿剤。多くは石油由来だが、植物由来のものもある。

プロパンジオール

BGと似た性質。トウモロコシなどの糖を発酵させた植物由来であるため、特にナチュラル・オーガニック系で汎用される。

DPG

とろみがあるのにベタベタせず、さらりとした使用感。皮膚に程よい柔軟さを与える効果がある。

ペンチレングリコール

保湿剤でありながら数%で防腐効果を発揮。特に無添加系のコスメに使用される。石油由来と植物由来の両タイプが存在。

ヒアルロン酸Na

ヒトの皮膚の中にも存在する多糖類※であり、持続性のある保湿効果を有する。オーガニック認証を受けた原料が登場し、ナチュラル系での採用も増えている。
※糖類が数珠つなぎになって構成されている成分のこと。構造が大きいため、肌の上でヴェールをつくるように保湿効果を発揮する。

トリエチルヘキサノイン

ヒアルロン酸Naと同等以上の保湿効果を有すると言われている、シロキクラゲから得られる多糖類。

成分その② 油性成分

油に溶けやすく、水に溶けにくい成分。皮膚の水分蒸散を抑えて保水し、肌をやわらかくする(エモリエント効果)ほか、メイクアップを落とすクレンジングにも使用。コスメのテクスチャーに硬さを与える役割もあり、油性成分の種類、量といった処方設計次第で、使用感がまったく異なるものになります。

「配合量がわからないと厳密にはわからないのですが、それぞれの油性成分特有の形状がひとつのポイントになることがあります。例えばシア脂やカカオ脂といった○○脂や、ミツロウ、カルナウバロウといった○○ロウが含まれるものは、成分自体が半固形〜固形であり、使用感に重みや厚さを付与することがあります。こっくりした使い心地のクリームなどを好む人は、これらが入っているかどうかを目安にするのがよいでしょう」(白野先生)

Q.油性成分にはどんなものがある?

ミネラルオイル

石油を精製してつくられるオイル。低刺激で安全性が高く、大量生産しやすいため、多くの製品に使用されている。

シア脂

シアの果実から取れる油脂。常温では固形で、体温程度の温度で溶ける。植物油の中でも水分の蒸発を防ぐ効果が高い。

ミツロウ

ミツバチの巣から得られる。融点が高くて溶けにくいので、リップバームなど固めのテクスチャーのものによく使われる。

ワセリン

石油を精製してつくられるオイル。低刺激で安全性が高く、大量生産しやすいため、多くの製品に使用されている。

トリエチルヘキサノイン

油脂と構造が似た合成のオイル。安全性、安定性が高く、スキンケアからメイクアップ製品まで幅広く使用されている。

パルミチン酸エチルヘキシル

油性感が少なくさらっとした使い心地。安価で合成できるため、スキンケア、メイクアップ製品などによく使われる。

トリ(カプリル・カプリン酸) グリセリル

食品分野でMCTオイルで注目の「中鎖脂肪酸トリグリセリド」に分類されるもので、植物由来。なめらかな使用感。

成分その③ 界面活性剤

目的に応じて使い分けをされ、おおよその基本的な働きとして、水と油を混ぜ合わせる(乳化・可溶化)、水の表面張力を弱める、染み込みやすくする(浸透化)、泡立てたり泡を消したりする(起泡・消泡)、落とす(洗浄)、滑りをよくするなど。

「本来であれば混ざり合うことのない水性成分と油性成分を中立ちさせる役割以外に、洗浄成分や髪のコンディショニング成分として働きます」(白野先生)。

Q.界面活性剤の成分にはどんなものがある?

✔︎洗浄目的

●アニオン界面活性剤

石けん系

石けん素地、カリ石けん素地など表示はさまざま。洗浄力は高く、分解しやすく残留しにくいが、アルカリ性なので刺激になることも。

ラウレス硫酸Na

肌への負担が大きかったラウリル硫酸Naを改良したもの。洗浄力が高くて使用感もよく、刺激性もかなり改善されて、最近の市販洗浄料の主流。

ラウリル硫酸アンモニウム

洗浄力が高く、泡立ちがいい。脱脂力に優れていてさっぱり洗える。分解しやすく、環境への影響は少ない。

ココイルグルタミン酸Na

低刺激性で洗浄力は弱め。弱酸性シャンプー剤などに配合されることが多い。

●両性界面活性剤

コカミドプロピルベタイン

低刺激な洗浄成分として使用される。陰イオン系活性剤と一緒に配合すると、洗浄力や刺激性をマイルドにする作用も。

✔︎コンディショニング目的

●カチオン界面活性剤

ステアルトリモニウムクロリド、ベヘントリモニウムクロリド

柔軟力が高くて使用感もいいが、皮膚刺激は若干高め。市販のトリートメント剤などに汎用されている。

ステアラミド プロピルジメチルアミン

柔軟作用は控えめで吸着力も低い。皮膚刺激が弱めなので、低刺激なトリートメントや柔軟剤などに使われる。

✔︎水性成分と油性成分を均一に心地よく配合する目的(可溶化、乳化)

●ノニオン界面活性剤

PEG-60水添ヒマシ油、ラウリン酸ポリグリセリル-10、水添レシチン(両性界面活性剤)

化粧品用の乳化剤や可溶化剤として使用される。肌に浸透しにくい高分子のものが多く、バリアを壊しにくい。

「美容成分」ってどんなもの?

補って保つ毎日のケアの中で、さまざまな肌悩みからレスキューしてくれる美容成分。

「ナチュラル系のスキンケアコスメでは、それぞれの肌トラブルを解決に導くような働きを持つ植物エキスを用いられることが多く、またその抽出方法などによって効果もわかれます」(白野先生)

そこで、ナチュラル系コスメで配合されることがある成分を、一部ピックアップして紹介。

日焼けによる「シミ」にアプローチする成分


「主な原因は、過剰な紫外線曝露が繰り返されることで部分的にメラニン生成と排出バランスが崩れることによって起こる老人性色素斑と、紫外線の影響で濃くなることもありますが、ホルモンバランスの乱れによるところが大きい肝斑。初期の薄いシミには一定の効果が期待できますが、即時効果や劇的な効果という点では限界があるため、根気よく使い続けることが大切です」(白野先生)

[成分一例]

ビタミンC誘導体

酸化しやすく浸透しにくいビタミンCをほかの分子とつなげることで、安全性を高めて浸透しやすくした成分。

エラグ酸

タンニンの一種。メラニンをつくるために必要な酵素であるチロシナーゼに働きかけて、メラニンの生成を抑える。

プラセンタエキス

豚などの胎盤から得られる。アミノ酸やミネラルを多く含み、メラニンの生成抑制や排出を促す作用があると言われる。

POINT:紫外線を防ぐことも大切!


「いちばんのシミ対策は、新たなシミをつくらせないこと。ナチュラル系のコスメでは、基本的に紫外線吸収剤を使用しないで、紫外線を跳ね返す成分のみを使われているものが多いのですが、本当に日焼けしたくない人は、紫外線吸収剤と紫外線散乱剤の両方をバランスよく配合したものを選ぶのが得策です」(白野先生)

●紫外線散乱剤
酸化チタン
酸化亜鉛

微粒子にすることで、可視光を通過させながら紫外線を跳ね返して肌を守る。低刺激だが、紫外線防御力は吸収剤と比べると弱め。

●紫外線吸収剤
メトキシケイヒ酸エチルヘキシル
ジエチルアミノ
ヒドロキシベンゾイル
安息香酸ヘキシル

紫外線を吸収すると構造が変化。熱など安全なエネルギーを放出することで、再び元の形に戻る。成分次第で刺激に感じることも。

「シワ・たるみ」にアプローチする成分


「メカニズムに応じたお手入れが大切です。比較的浅いシワは、乾燥による影響が大きいので保湿ケアに注力を。また、目元、口元は乾燥がしやすく、瞬きなど動きが多い部位。より高い保湿効果を持つものやパーツに特化したコスメを活用して、肌をしなやかに保つことが重要です」(白野先生)

[成分一例]

ナイアシンアミド

ビタミンBの一種。〈コーセー〉が「シワを改善する」という効能を取得。表皮と真皮への効果が認められる。
そのほか、抗酸化作用を持つ成分(ポリフェノール、ビタミンEなど)や、それらを多く含む植物エキスなど。

大人ニキビにアプローチする成分


「過剰な皮脂分泌によって引き起こされる思春期ニキビと異なり、大人ニキビは肌のバリア機能が低下していることが要因。乾燥や炎症を起こしやすい肌状態になっているため、積極的な保湿や抗炎症ケアを」(白野先生)。殺菌剤配合のコスメは、悪化させてしまう可能性もあるので注意が必要。

[成分一例]
ビタミンC誘導体

前述。

グリチルリチン酸ジカリウム/グリチルレチン酸ステアリル

カンゾウに含まれる成分グリチルリチン酸の水溶性および油溶性を高めた成分。抗炎症効果や敏感肌症状改善効果があると言われる。

乾燥にアプローチする成分


もともとの肌質以外に、乾燥などの外的要因や加齢、洗いすぎなどによって引き起こされます。「肌状態に合わせて、水性のモイスチャー成分と油性のエモリエント成分の両方を、バランスよく補うこと。違和感につながる程のべたつきを感じるものは避けて、心地よく使えるものを選びましょう」(白野先生)

[成分一例]
ヒト型セラミド

ヒトの肌にあるバリア機能を担う物質。外的刺激や環境から皮膚を守る働きをしている。

グルコシルセラミド

コメなどから得られる糖セラミド。セラミドの前駆体で、セラミドと似た働きをするため、植物性セラミドなどと呼ばれる。

ワセリン
グリセリン
BG

前述。

敏感肌にアプローチする成分


「生まれつき肌が弱いなどの体質や、乾燥などの影響を受けて肌のバリア機能が低下して、刺激に弱い状態になった肌のこと。すると、肌が異物の侵入を防ぐことができず、わずかな刺激でもかぶれや赤み、かゆみが生じます」(白野先生)

[成分一例]

セラミドが不足しがちなアトピー肌、敏感肌、加齢肌に、外部からの補給で肌のバリア機能を補うことが可能。

セラミドEOP
セラミドNS
セラミドNP
セラミドAS
セラミドAP
セラミドEOS
セラミドNG
セラミドAG

「肌の強さ」の定義って?

ひと言で敏感肌と言っても、アトピー体質や生まれつき肌が弱い人から、季節やホルモンバランスの影響でゆらぐ人までさまざま。肌へのピリピリを感じたら、スキンケアを敏感肌用に切り替えるのが賢明。

肌が過敏になる要因

皮膚のバリア機能が低下する理由は、実にさまざま。原因がひとつだけでなく、いくつかの要因が重なり合っている場合も。

敏感肌のスキンケア選びのPOINT

肌に合って洗いすぎのない洗顔料選びがなにより大切!
洗いすぎは、敏感肌にとってご法度! 敏感肌のスキンケアの良し悪しを決めるのは洗顔、と言っても過言ではない程重要なので、やさしくてキチンと汚れが落ちる肌に合ったものを選びたいもの。「これまでの経験から、石けん系が肌に合う人、アミノ酸系が合う人にわかれます。石けん系が合わない人は使った後に肌がツッパリやすく、アミノ酸系が合わない人はニキビができやすくなることが多いので、これらをひとつの見極めのポイントしてください」(白野先生)

肌のバリア機能を補助するセラミド入りがおすすめ
化粧品選びや使用法によっては、肌状態が一気に改善することがある反面、悪化する可能性も。“敏感肌向け”の言葉だけに惑わされずに、自分の肌と相談しながらアイテム選びを。「肌状態を整えるために、セラミド入りのアイテムを選ぶのも手。おすすめは、人間の肌にあるセラミドと似た構造を持つ、ヒト型セラミド。とても高価な成分ですが、わずかな量でも肌のバリア機能を助けてくれます。ひとつのアイテムに、いろんな種類のヒト型セラミドが入っているものを選ぶと、よりバリア機能を高めてくれますよ」(白野先生)

Q. スキンケアなどのときに肌はこすらないほうがいいの?

A. 肌をこすることとマッサージ&なでるは別もの
「確かに、強い摩擦は肌に負荷がかかってあまりおすすめできません。けれど、やさしくマッサージをすることやなでることは、スキンケアをする中で必要な動作だと考えます。例えば、ニキビができやすい方は、洗顔をしてある程度しっかり汚れを除去してあげることが必要。こすらないのが肌にいいとただ盲信するのではなく、ケアの方法ひとつにしても、自分の肌状態を見ながら行うことが大切です」(白野先生)

Q. 防腐剤は肌に負担がかかるって本当?

A. パラベンフリーだから安心とは限りません!
「菌の繁殖を防ぐという性質上、成分の種類や配合量によっては肌の負担になることもあります。しかし、日本には三年以上品質を担保しなければならないという法律があり、安全安心な製品のためには、防腐効果がある成分の使用は不可欠です。また、取り立ててパラベンだけに目が行きがちですが、私の経験上、敏感肌の人でもパラベンが問題なく使え、それ以外の防腐剤を刺激に感じる人も一定数いると考えています」(白野先生)

❶防腐剤に分類される成分
パラベン類(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン)
フェノキシエタノール
安息香酸Na
❷防腐効果を持つ防腐剤以外の成分
ペンチレングリコール
1,2-ヘキサンジオール
エチルヘキシルグリセリン
カプリルヒドロキサム酸

防腐を目的とした成分は、❶「防腐剤に分類される成分」とされるものと、❷保湿効果などを持ち防腐剤には分類されない「防腐効果を持つ防腐剤以外の成分」の二種類にわかれます。

 

教えてくれたのは……
コスメレシピ クリエイター 白野実先生

1966年生まれ。長年にわたり、国内化粧品メーカーでのスキンケア化粧品の処方開発や、化粧品全般の品質保証業務に従事してきた経験をもとに、化粧品開発、処方技術コンサルティング会社「ブランノワール」設立。正しい化粧品・美容知識を世の中に広めるべく、講演・セミナーに日々奮闘中。著書に「美肌成分事典」(主婦の友インフォス)。

 

illustration:Naho Ogawa edit&text:Hiroko Shirasaki re-edit:Yuri Iwata[press lab]
※kiitos. vol.21(2021年9月21日発売)より抜粋。

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