FUDGENA

 

可愛くて、溌剌。

温厚で慈悲深く。

個性的で、癖があって、

そしてどこまでも自由。

17歳のTassiは、そんな女の子だった。

 

Tassiとはカナダに留学していた時に語学学校で出会った。

先月カナダに来たばかりだというTassiと、もうすぐ8ヶ月になる私は同じクラスになった。Tassiはチャックがいくつもついた、どぎつい蛍光色のペンケースを使っていて、私たちはそれをきっかけに話し、仲良くなった。Tassiは見たことのない変なキャラクターがぶら下がったシャーペンで、癖のあるアルファベットで、すらすらと英作文を書いた。消しゴムは隣の席の人のものを悪びれもなく勝手に使った。

一緒の教室で過ごした期間は結局1ヶ月もなかった。Tassiはもともと英語が上手だったから、昇級テストですぐに上のクラスに上がった。別のクラスになった後も、語学学校の廊下で会えばTassiは走ってきて思いきりハグしてきた。

たまにごはんにも行った。休日にはショッピングモールに出かけたり、海辺に行ったり、公園でローラースケートをした。

お互いの国のこと、家族のこと、英語のこと、将来のこと。いろんなことを私たちは話した。いつまでたってもなかなか上達しない私のヘタクソな英語を、Tassiは辛抱強く聞いて、最後には花のようにぱあと明るく笑った。リスニングテストの点数は悪くても、Tassiの話は不思議と理解できた。

カナダの夏はとても日が長く、けれど外はあっという間に暗くなった。

私が語学学校を卒業する時、Tassiはいつも使っているリュックにつけていた目が飛び出たゴリラのキーホルダーを外して、”For you.”と言って私に差し出した。

 

台湾料理レストラン「四知堂(スーチータン)kanazawa」

四知堂kanazawa HPより

台湾料理を食べると、必ずTassiのことを思い出す。

 

金沢21世紀美術館に行った帰り道に、偶然通りかかった町家の建物。

その雰囲気というかオーラというか、佇まいから感じる凄みにどうにも素通りすることができなくて、closedの札がかけられた引き戸には「TAIWANESE FOODS STAND」の文字。

 

それで翌朝7時。

空はまだ薄暗く、それでもすでに活気づく近江町市場をくぐり抜けて、再びあの店に訪れた。

 

老舗塗料店「森忠商店」の町家をリノベーションし、台湾料理店として蘇らせた「四知堂(スーチータン)kanazawa」。床に残った塗料の跡がその建物の歴史を物語っている。

 

台湾では外食やテイクアウトが一般的で、朝は朝食専門店でお粥かスープ、ランチは屋台のテイクアウト、夜は食堂やレストラン、というのが日常らしい。

外食が大好きなわたし(というか自炊が苦手でそこに意味を見出せないわたし)。DNAレベルで台湾に近しいものを感じながら、おしゃれなカウンターで注文。

 

まずは胡椒餅。

「餅」といいつつも実際にはパンに近く、手のひらにおさまる適度な重みを有したそれは文鳥やハムスターの類の小動物のように愛くるしく、食欲の中にちょっとした母性が混じる。

はあ、と愛でながらも一口食べると、表面はパイ生地のようにサクサク、中には胡椒が効いた肉とネギの餡がずっしりと包まれている。

ぜひともコンビニのレジ横に売ってくれ

 

次に鹹豆漿(シェントウジャン)。

ザーサイやら干しエビやらが入った豆乳スープで、黒酢の作用で豆乳が固まっていておぼろ豆腐のようになっている。味も食感も体に沁み入る優しさで、風邪をひいた時に食べたい。

いや、風邪でなくても食べたいか。

 

そして、魯肉飯(ルーローハン)。

本場台湾の五香スパイスで煮込んだ挽肉のその独特な味に「少し癖のある〜」と頭の中のaikoが歌い出す。

たしか脳内でaikoが流れたらそれは恋の始まりって誰かが言ってた。

…うん、恋やね。

 

すべて平らげて温かな台湾茶でほっとする。

台湾料理ってすごい。

この誰からも好かれる愛され上手なところとか、じんわりと内側から来る温かみとか、少しパンチの効いた個性とか。

そうだ、台湾のあの子に似てるんだ。

 

 

年季の入った重い引き戸を開けて店を出ると、外はすっかり明るくなっていた。満たされてほかほかになった体に冷たい風が気持ちよかった。

台湾と日本の時差は一時間。

あの子も今頃、新しい一日をきっと始めたところだろう。

 

【四知堂kanazawa】

台湾の朝食や屋台料理などを提供する台湾レストラン。

人気観光地・金沢の新名所になること必至。是非チェックしてみてください。

 

カトートシ

1991年生まれ

大学時代は文学批評を専攻。

書店員や美術館スタッフ、カナダでのライター経験を経た後、

2018年よりカトートシとして活動を開始。

現在は大学で働く傍ら、カルチャー関連のエッセイ等を執筆。

カトートシという名前は、俳人である祖父に由来するもの。

Instagram:@toshi_kato_z

 

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