FUDGENA

お金持ちなんて

お姫様を毛嫌いする子どもだった。

お姫様は無駄にでっかい豪邸に住んで、悪趣味な装飾品に囲まれて、

夜はふっかふか過ぎて逆に腰に悪いベッドで眠ったりするんだ。

そんなの阿呆らしい。お金持ちのお姫様なんて、ろくなもんじゃない。

 

「お金持ち=悪」という考え方は庶民中の庶民である我が両親による刷り込みの賜物であろうか。

お金持ちなんて。お金持ちなんて。

呪文のように繰り返す一方で、淡い期待を込めて年末ジャンボ宝くじをちゃっかり買ったりしているところが我ながらなんとも愚か。

羨望と偏見が入り混じる「お金持ち」に対する複雑な感情…。

 

コートールド美術館展 魅惑の印象派

今回の展覧会は愛知県美術館で開催中の「コートールド美術館展 魅惑の印象派」。

印象派、ポスト印象派の殿堂と言われるロンドンのコートールド美術館の名作が

一堂に会する今回の展覧会。

 

当時まだ駆け出しの画家だったセザンヌ、ルノワール、ゴーギャン、ドガといった

近代絵画の巨匠たちの作品をどんどん収集し、こうして後世に残したのは

コートールド美術館の創設者であるイギリスの実業家、サミュエル・コートールド。

「彼の実業家としての功績と卓越した審美眼が」うんぬんかんぬん…。

反射的にわたしの眉間にシワが寄る。

ロンドンにあるコートールド美術館

 

今回の展覧会に限らずだけど、芸術品や美術品は世俗的な側面をどうしたって持つ。

金、権力、富、所有、顕示欲、名声。

ただただ美しいだけの芸術品なんてものはなく、いつの時代だって芸術は人間のいやらしい部分と完全に切り離すことはできない。

長い歴史を見てみても、帝国主義や植民地統治は文化・芸術と仲良く手を繋いでやってきた。

まあ、そこまで責め立てずとも、今回のようにひとりの収集家にクローズアップした展覧会だと、

札束の山のシルエットがキャンバスの向こうにちらついてしまうのは

性根の曲がったわたしだけ?

 

金持ちおじさんこと、コートールドさん

こちらがサミュエル・コートールドさん。このドヤ顔ね。

「ワタクシめ、芸術を愛しちゃってます。全人類の文化的精神の発展を重んじちゃって、それに貢献しちゃってます」感が、どうも気にくわない。

わたし含め、自分の収集した絵を見に群がっている庶民をコートールドさんはきっとこんな顔してだいぶ高い場所から見ているのだろう。

さぞかし満足でしょうねと軽く地団駄踏みながら列に並び、無事、入場チケットを購入。

 

芸術の不思議

お金持ちに対するわたしの根深い嫉妬の渦のせいで、もう今回は記事書けないんじゃないか。

そう思ったけど、どっちを向いても名作続きの空間を進んでいくにつれて

次第にその渦は静まり、ため息の質が変わってくる。

ポール・セザンヌ「大きな松のあるサント=ヴィクトワール山」

ピエール=オーギュスト・ルノワール「桟敷席」

 

あーあ、どの絵もいい、やっぱりいい。

正確な現実の比率よりもキャンバス内の構図を最優先させたセザンヌも、

ルノワールが描く女性の溶けるような白肌の血色感も、

西洋画のモチーフを東洋美の中で再構築したゴーギャンの眼も、

不思議な吸引力で人を引き寄せるドガの土色の余白も。

あーあ、全部いいんだよなあ。

ポール・ゴーギャン「ネヴァーモア」

エドガー・ドガ「舞台上の二人の踊り子」

 

社会的しがらみからは切り離せない「芸術」。

けれど絵画の真正面に立ち、まっすぐに向かい合えば、

この絵がいくらで売れたとか、この絵の所有者は誰であるとか、

誰かの持てるもの、自分が持てないもの、

全部が無意味でどうでもいい。

絵とわたし。この約1メートルの間だけが世界という気がしてくる。

 

絵を飾るということ

これらの絵が自室に飾られてある生活。好きな絵が自分の空間に場所を占めているということ。

それは所有欲とも顕示欲とも違って、もっとシンプルで純粋なものなのかもしれない。

余計なものがそぎ落とされて、絵とわたしだけが存在する場所でぐわっと広がる思考。

そこを丸い風が吹き抜ける。

それは物質の豊かさではなく、精神の豊かさ。

コートールドさん、毒づいてごめん。あなたもこんな感情で絵の前に立っていたの。

絵が飾られたコートールド邸

 

絵のある生活

今回の年末ジャンボもやっぱり当たらず、今のわたしがせいぜい買えるのはミュージアムショップで売っている絵画のポスターくらい。

今回の展覧会の後、わたしはいびつなりんごの絵のポスターを買った。

それはコートールドが最も愛し、一番多く作品を所有していたセザンヌの絵。

 

狭い1LDKの部屋の壁に飾り、真正面に立つ。

これもなかなか悪くないね。

新たに絵が飾られたカトートシ邸(賃貸)

 

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