CULTURE & LIFE
外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】25話めは、「コージ君のあきらめられないこと」のお話です。
25. 曲がれスプーン
コージ君は小学生の頃、近所のお祭りの屋台で、
「あきらめなければ必ず曲がるスプーン」
と言われてとてもワクワクしながら
「ユリゲラーのスプーン」を買ってもらったことがある。
実はあれから三十年もの間、
大人になった今も、それをカバンに入れて持ち歩き、
暇さえあればこっそりスプーン曲げに挑戦しているが、
コージ君は一向に、スプーンを曲げられないでいる。
二十一世紀になり、それもすでに二十年も過ぎているのに、
コージ君は一向に、スプーンを曲げられないでいる。
自分には徳が足りないのかと思い悩み、
いつの日だったか、横断歩道で
大きな荷物を持ったおばあさんを手助けしてあげたあの日の夜、
帰宅後、チャレンジしてみたが、
コージ君はスプーンを曲げられなかった。
いつの日だったか、近所の川で
川に流されそうになった犬を助け、
この辺りでちょっとした英雄になった日の夜にもチャレンジしてみたが、
コージ君はスプーンを曲げられなかった。
いつの日だったか、奥さんに誘われて
仕方なしにパワースポット巡りに旅行中ずっと付き合った時、
一言たりとも文句を言わなかったが、
コージ君はスプーンを曲げられなかった。
コージ君はスプーンを曲げるために、
今週末は「街のゴミ拾い」がいいか、
「公園の雑草取り」がいいかを思案しながら、
「あきらめなければ必ず曲がるスプーン」で
今夜はカレーを食べている。
だってユリゲラーはまだ生きているのだ。
絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください!
Text & Illust_Toyama Natsuo
外山夏緒
2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。
WEB:gungulparman.com
Instagram:@gungulparman
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