CULTURE & LIFE
隔週にてアーティストに登場いただき、「インタビュー」と「プレイリスト」をお届けする、連載《火曜日のプレイリスト》。
今回はシンガーソングライターの折坂悠太さんに2021年3月10日に発売する新作『朝顔』についてインタビューをお届け!テレビドラマ『監察医 朝顔』のために書き下ろした『朝顔』や、新たな挿入歌『鶫(つぐみ)』を含んだミニアルバムは混沌とした今だからこそ聴き惚れたい一枚。自粛期間を経て、「服装に気を配ることは心の健康」と言う、折坂さんのファッションにおける3つのMYルールも伺いました。
ブラジル音楽や民謡など様々な音楽性を取り入れた、どこか懐かしくも新しい歌の世界が注目を集めるシンガー・ソングライター、折坂悠太、新作『朝顔』は、テレビドラマ『監察医 朝顔』の主題歌「朝顔」など5曲を収録したミニアルバム。昨年初めて映画のサントラに挑戦するなど、幅広い分野で活動する折坂に新作に込められた想いを訊いた。
ーー「朝顔」は初めてドラマの主題歌として提供した曲ですね。
折坂:月曜の9時という枠で、震災という重い題材を扱うということに惹かれました。ドラマの中で(ヒロインの)お母さんが震災で亡くなるのですが、そのお母さんを中心に話が進んでいくドラマだと思ったんです。これまで、自分は「今はもうないものに対して歌う」ということをしてきたので、自分の歌の世界とリンクするところもあると思いました。それで曲を書く時、自分がこれまで聴いて来たJ-POPや歌謡曲みたいなマイナーコードのメロディーがパッと浮かんで、そこからドラマ側の意見も伺いながら試行錯誤して作り上げていったんです。
ーー今回のミニアルバムには、『監察医 朝顔』の新しい挿入歌「鶫(つぐみ)も収録されていますが、つぐみはドラマのヒロインの朝顔の娘の名前ですね。
折坂:ドラマの中心が娘の話に変化した気がしたんです。「朝顔」が今はもういない人を想う気持ちを歌った歌だとしたら、「鶫(つぐみ)」は未来に向けた歌にしようと思いました。この曲を書いたのがコロナでどんどん大変になっていった時期で、自分自身も過去を振り返るよりも、これから先のことに目を向けたいという気持ちになっていたんです。
ーー「朝顔」が過去への想い。「鶫(つぐみ)」では未来への想いが歌われているんですね。
折坂:ミニアルバムの1曲目に「朝顔」、最後に「鶫(つぐみ)」を入れているのですが、過去から未来に繋がる時の流れを意識していて。この2曲に間に入れた「針の穴」は過去と未来を繋ぐ役割もあるんです。「朝顔」を作ったのが2019年だったので、今の気持ちを歌った曲も入れておこうと思って。
ーーこの曲にはどんな思いが込められているのでしょうか?
折坂:今って、一見、穏やかに見えるけど実は見えないところで風が吹き荒れているような感じなんですよね。そんな中で、自分ならどんな歌を聴きたいか考えた結果、希望を歌うより、そういう中にいますっていうことをシンプルに伝える歌にしようと思ったんです。だから、最初は「それでも生きていたい!」という歌詞だったんですけど、最終的に「生きていけるのか これから」という終わり方になっているんです。
ーーこういう時期にどんなことを歌うのか。シンガー・ソングライターにとっては難しい問題ですね、
折坂:そうですね。先が見えない状態で自分に向き合っていると、家族の問題や自分の問題がいろんな形で噴出してくるんですよ。もともと抱えていた問題を直視しなくてはいけなくなる。普段だったらライヴをやって憂さを晴らしたり、飲みに行って散財したりして気を紛らわせることができるんですけど、それもできないじゃないですか。そういう状況の中で感じたことを、どんなふうに歌にしたら聴く人に共感してもらえるのかな、と考えながら曲を書いていました。
ーーそんな中で、インスト曲の「のこされた者のワルツ」は、どこか安らぎを感じさせる曲です。
折坂:このミニアルバムに収録された曲はエモーショナルに聞こえるものが多いと思うんですよ。そんななかで、今の生活のBGMになるような、フラットな気持ちで聴ける曲を入れたかったんです。
ーー「朝顔」「鶫(つぐみ)」とドラマの主題歌を手掛けて、昨年は『泣く子はいねえが』で初めて映画のサントラを手掛けられました。主題歌やサントラの曲作りの面白さはどんなところでしょう。
折坂:自分がその物語をどんなふうに見ているかが、曲作りを通じてわかるところですね。『泣く子はいねえが』の曲を書いた時、監督から「そんなふうに感じてくれたんですね」と言われて、お互い面白がって作業することができたんです。「朝顔」や「鶫(つぐみ)」ではドラマ側から色々と要望はあったけど、最終的に「俺はこの物語をこんな風に見ている」というところで曲を作った。もともと物語がすごく好きなので、そんなふうに自分が感じたことを曲にするのは楽しいですね。
ーー物語や監督のやりとりを通じてインスパイアされることもあるんでしょうね。
折坂:あります。例えば「朝顔」や「鶫(つぐみ)」の歌詞を書いた時、自分一人で曲を作っていると、ここはもうちょっとオシャレにしようとか、もっとラディカルに、とか考えるところを、ドラマ側の要請で素直な言葉で表現することになって。「こんな風に見られたい」という下心を取り去った結果、ああいう歌詞になった。とても面白い作業でした。そういえば昨日、初めてドラマに「鶫(つぐみ)」が流れたんですよ。
ーー歌詞の中で描かれる鳥の飛翔感と折坂さんの力強い歌声があっていて、「飛んでいく 次の季節へ」という最後のフレーズに希望を感じました。
折坂:僕の歌詞に出てくる鳥のイメージってボーダーラインを超えていくものなんです。明日を絶たれた気持ちになることもあるけど、そういう不安を乗り越えて未来に向かって進みたい、という願いを歌詞に込めたんです。ちゃんとドラマにハマってた、と僕は思うんですけど。とにかく曲ができるまで大変だったので、よくここまで来たなって、ひとまず安心しました(笑)。
”折坂悠太”が教える、ファッションの【Myルール】とは?
アーティストにお洒落の極意を教えてもらう【MYルール】。自粛期間を経て、「服装に気を配ることは心の健康」と言う、折坂さんにファッションにおける3つのルールを伺いました!30代になって開けたピアスの秘密。
Rule1:なるべく、昨日と同じものを着ない。
「コロナで家にいることが多くなると、 面倒くさがりなので毎日同じ格好になりがちでなんです。そうなると、いざ《今日はおしゃれしよう》と思っても上手くいかない。だから最近は家にいる日でも、取材を受けられるくらいの心もちで服を選んでます。服装に気を配る、というのは、心を健康に保つことにも繋がると思うし、一緒にいる相手に対して《あなたと接する時に、僕はこれくらい着るものに気を配っていますよ》という敬意の表れでもあると思うんですよね。最近、家族に対してもそういう気持ちは必要だなって思うようになったんです。」
Rule2: ピアスを毎日つける。
「昨年9月、誕生日の翌日に左耳にピアスを開けました。友人と冗談半分で《身体に何か刻もうか》って話した事がきっかけで、その翌週くらいに本当にやってみようと。タトゥーっていう話もあったんですが、ちょっとハードルが高かったのでピアスにしました。20代は自分を飾ることに抵抗があったんです。でも、昨年ある出来事をきっかけに、生きている限り毎日お祝いだと考えるようになりました。自分の身体にきらりと光るものを見るたび、そのことを忘れずにいられるんです。」
Rule3: 人の趣味を笑わない。
「ブラック・ライヴス・マターとかMeTooとかが話題になるなかで、自分は人に対する偏見はないと思ってたんです。でも、よく考えると、昔は派手だったり、自分の趣味と違うファッションの人に対して少し冷笑していた部分があった気がします。今思えば、心ない言葉をかけたなと反省することもあるんですよね。いろんな格好をした人が街に溢れている方が絶対に良いはずなのに、無意識のうちに自分と違う人に対する偏見を持っていたんです。意見を交換するなかで相手のことを批判するのはいいんですけど、見た目だけで判断するのは本当に良くないと思って。自分と異なる価値観を受け入れられた時に初めて、自分自身も自由になれる気がしています。」
折坂悠太『朝顔』
2021年3月10日発売
〈初回盤CD+DVD〉¥3850、〈通常盤CD〉¥1650
『朝顔』MV
《折坂悠太》平成元年、鳥取県生まれのシンガーソングライター。幼少期をロシアやイランで過ごし、帰国後は千葉県に移る。2013年よりギター弾き語りでライヴ活動を開始。2018年にリリースした2ndアルバム『平成』がCDショップ大賞を受賞するなど各所で高い評価を得る。2019年7月クールのフジテレビ系月曜9時枠ドラマ「監察医 朝顔」主題歌としてシングル『朝顔』を発表。2020年3月ワンマンライブ中止に伴い、配信ライブ”折坂悠太 単独配信 2020 (((どうぞ)))”を開催。2020年4月1日に新曲『トーチ』をリリース、8月にライブ盤『暁のわたし REC2013-2019』を発売。同年11月「監察医 朝顔」続編の主題歌を前作に引き続き担当。また映画「泣く子はいねぇが」の主題歌・音楽を担当。2021年最初のミニアルバム『朝顔』を3月10日に発売する。https://orisakayuta.jp/
text_Murao Yasuo
design_Koinuma Kenichi
edit_Takehara Shizuka
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