CULTURE & LIFE
こんにちは。
前田エマです。
連載「前田エマの東京ぐるり」は、今日が最終回です。
最後は、谷中にある小さな小さなお店。
いつか絶対にこの連載で訪れたいと思っていた《雑貨と本 gururi》です。
「あるひとりの架空の女性のために選んだ本と雑貨を置いています。自分の好みではなくて、この子だったらこの本を手に取るだろうか?と想像して、店に置くものを選ぶんです」
そうおっしゃる店主が選んだ店に並べられた本たちを見ていると、まさにひとりの女の子のこれまでの人生を見せてもらっているような、そしてそれが未来へと繋がっていくような気持ちになります。
この女の子は、幼い頃にこんな絵本を読んでいたのだろうな。
自分の生活を心地よくするために、“がんばりすぎない料理”を頑張っているのだろうな。
お皿も、可愛いものを少しずつ集めているのだろうな。
小さな物語を描いた小説が好きなのだろうな。
ああ。大人になって、今、この国で生きていくことに、心が疲れてしまった時があったのかもしれないな。
女の人が生きていくということは、それだけで色々な難しさを抱えなくてはいけないということに、直面してしまったのかな。
そのことをどうやって考えていけばいいのか、本を読むことで学びを広げているのかもしれないな。
猫を飼っているのかな?
・・・・・そんな、想像が膨らみます。
猫の本や雑貨、料理の本、お皿、絵本や小説、韓国文学やフェミニズムの本、アロマスプレーや靴下、レターセット…。
本のセレクトも素晴らしいのですが、すぐに自分の生活に取り入れられるような、背伸びをしない雑貨たちも、いいのです。
この原稿を書いている今、世界でも日本でも、私たちの日々はたくさんの悲しいこと、怒り、やりきれなさで、あふれています。
私は、誰かとふたりっきりで、おしゃべりをするのが好きです。
今、好きなこと。今、考えていること。
これまでのこと、これからのこと。
そんなとき、いつも私は、私のことをわかってほしいなんて、これっぽっちも思っていません。
ただ、話をしたいだけ。そして、あなたの話を聞きたいだけ。何かを少し、知ってみたいだけ。
誰かのことを許せなくても、理解できなくても、それは当たり前のこと。
ただ、そういう小さな対話を、いろんな人と繰り返していけたらな、といつも思うのです。
このお店の店主が架空の女性のために本を選び、心の中でその女性と対話を続けるように、私も想像して知ろうとすることをやめないでいたい。
自分の小さなぐるりと向き合い考え続けることは、どこかの誰かのぐるりと繋がっていると、私は信じています。
全89回、本当にたくさんのお店にお邪魔させていただきました。
お店に込められた人生の物語。お店を通して交わる、さまざまな人たちの物語。
たくさんの物語を教えてもらえたこの二年半は、私にとって宝物でした。
ありがとうございました。
あ!6月中旬に初めての書籍(ミシマ社)を出します!
今日書いたことと、とても繋がるような内容かと思います。
手にとってもらえたら嬉しいです。
ではまた、お会いしましょう。
《今週のぐるり服》
春です。お花模様がお気に入りのワンピースです。
ワンピース/DECO depuis1985、ソックス/靴下屋、シューズ/Repetto
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文・モデル:前田エマ Maeda Emma
1992年、神奈川県生まれ。東京造形大学卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーに留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、朗読、ナレーションなど、その分野にとらわれない活動が注目を集めている。本年6月中旬に初の著書をミシマ社より刊行予定。Instagram:@emma_maeda
写真:長田果純 Osada Kasumi
1991年、 静岡県生まれ。14歳の頃、実家の物置小屋から一台のフィルムカメ
information
《雑貨と本 gururi》
東京都台東区谷中2-5-14C
営業時間:12時~19時
定休日:火・水、第1・3月
Instagram:@gururi_yanaka
※最新の情報はInstagramをご確認ください。
最終回はこの連載でも数回訪れてきた「谷中」をぐるり。地元密着の小さな商店が集まり、都会の騒めきを程よく忘れさせてくれる、なぜかホームに帰ってきたような居心地の良い町。
今回は連載名とシンクロした《雑貨と本 gururi》。お店のアイコンにも描かれた「架空の女の子」をイメージして選ばれた、本やお皿、ポーチや文房具はその子の私物をこっそり覗いているかのような感覚。中でも顕著に感じるのは、本のセレクト。棚ごとに雑貨とリンクして並べられており、今話題の韓国文学やフェミニズム、料理本もあったり、きっと猫好きなんだな……と感じる猫関連の書物も豊富。店主はもともと、有名な本屋さんに勤めていたと伺い、センスの良さに納得。「架空の女の子」に向けたセレクトにした理由は、「独り善がりなセレクトよりも、誰かのために作ったほうが、一歩引いた目線で見れるから」とのこと。
またこの地域が好きで、長年住み続けている店主曰く、近隣のお店の方や知り合いの人たちはベタベタとした付き合いではなく、でも気軽に挨拶やおしゃべりを交わす、程よい距離感がちょうど良いのだという。それもあるからか、お店の雰囲気は付かず離れず、見放さない距離感で訪れた人を歓迎してくれる、余白があるような、心地よさを感じる。
また徳島の自家焙煎コーヒー店「アアルトコーヒー」の豆も置いており、希望があれば店内にあるグラインダーで挽いてくれる。そのグラインダーは近所のコーヒー好きのご老人から譲り受けたそうで、大切に引き継がれており、そんなストーリーもこの町に似合う。
〈担当より〉
約2年半、全89回も続いた連載は最終回を迎えます。ぐるりしたお店は、途中、番外編などもあったので81店舗になります。ご協力いただいたお店の皆様、本当にありがとうございました。そして、毎回、素敵な文章はもちろん、お店ごとに私服を代えるために大きな荷物を抱えて取材先まで来てくれた、前田エマさん。実は誰よりも東京のお店を巡っていた、猫好きカメラマンの長田果純さん。二人の文章と写真が共鳴し合ったことで、本当に素敵な連載となりました。お店を巡って感じたことは、エマさんと同様に、さまざまな人たちの物語を知ることができ、それがお店のエッセンスになっていること。ぜひ引き続き、この連載を参考にお店を巡っていただけると嬉しいです。では、またぐるりできる日まで。
edit:Takehara Shizuka
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