CULTURE & LIFE

クリエイティブチームDo it Theater(ドゥイット・シアター)がテーマごとにおすすめの映画を3作品紹介する、連載《土曜日のシネマサロン》。第121回目のテーマは「40代のうちに観たい映画」です。

Do it Theaterの洲崎真紀子(すさきまきこ)です。この連載はDo it Theater女子部が様々な切り口のテーマで、おすすめ映画をリレー方式でご紹介しています。

今回は「40代のうちに観たい映画」をテーマに、『それでも私は生きていく』『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』『マグノリアの花たち』をセレクトしました。

筆者は最近40代の仲間入りをした新米ですが、自分で選んだ“今”に後悔はなくても、ライフプランや自分らしい生き方といった類の悩みはいくつになっても尽きないものだと実感しています。これからご紹介するのは、この先も続いていく人生に悩んだり迷ったりした時こそおすすめの3作品。ぜひ、チェックしてみてください。

 

大切にしたい、ささやかな幸せ

©2022 LFP – LES FILMS PELLEAS / RAZOR FILM PRODUKTION / ARTE FRANCE CINEMA/ DAUPHIN FILMS / MUBI / CN6 PRODUCTIONS / BAYERISCHER RUNDFUNK / ZACK FILMS

title:『それでも私は生きていく』

【story】
夫を亡くし、8歳の娘リンとパリの小さなアパートでふたり暮らしをしているシングルマザーのサンドラ。彼女の父ゲオルグは、病を患い視力と記憶を失いつつあった。愛する父の変わりゆく姿に、無力感を覚えるサンドラ。仕事、子育て、介護と多忙な日々を送っていた彼女は、ある時旧友のクレマンと偶然再会して恋に落ちる。

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本作は、今やフランス映画界を代表する存在となったミア・ハンセン=ラブ監督が手がけたヒューマンドラマ。監督自身の経験を基に、仕事や子育て、介護、新たな恋に向きあう女性の心の機微が描かれています。

主人公のサンドラは、通訳、母親、娘、そしてひとりの女性というさまざまな役割を担っていて、感情のスイッチを切り替えながら日々を淡々と過ごしています。決して楽とは言えない状況に胸が苦しくなりつつ、そんな彼女の姿に現代女性のリアルを感じて強い共感を覚えます。無力感や未来への不安といった感情を繊細かつナチュラルに描く監督の手腕と、それを演じたレア・セドゥの表現力に魅了されますよ。さらに特筆すべきはラストシーン。優しい光が美しくて、それまで感じていたネガティブな気持ちを全てすくい上げてくれるような、忘れられないシーンとなっています。

劇的なドラマも奇跡も、そうそう起こらない。大人になると、そんな現実を受け止めなければいけない場面も多くなります。けれど、日常の延長線上のふとした瞬間、ささやかな幸せに出会えたりする。観たらきっと、そんな人生の一瞬一瞬が愛おしく感じられますよ。

自分の本当の望みについて、考えましょう。


Illustration_skpn

title:『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』

【story】
画家のアレックスと妻のルースは、愛犬のドロシーとニューヨーク・ブルックリンのアパートメントの最上階に住んでいる。新婚当初から暮らしているその部屋は、日当たりも眺めも最高で、エレベーターがないことだけが欠点。結婚生活も40年を超え、アレックスは年齢的にも階段の上り下りが辛くなってきた。ふたりは不動産エージェントである姪のリリーに頼んで、アパートを売りに出すことにする。

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続いてご紹介するのは、夫婦役を演じたモーガン・フリーマンとダイアン・キートンの軽妙な掛け合いが見どころで、思い合うふたりに心が温まるドラマです。

愛する夫のためにエレベーター付きの部屋に住み替えたい妻のルース。夫のアレックスは、思い入れのある家を売ることに気乗りしないが、愛する妻の提案を受け入れようとしている。「住まいの問題」に関してはちょっと気持ちにズレがあるふたりですが、たびたび差し込まれる過去の回想シーンからは、夫婦の強い絆を感じます。

大切だからこそ相手のためを思う気持ちが先走ってしまい、それが一方的な思い込みになっているなんてことは、家庭でも仕事でも友人関係においても、あるあるではないでしょうか。経験値が上がると、あまり考えずにそうした方が良いと決めつけたり、すでに答えを知っている気がして本質を見失ったり。長年連れ添った夫婦にも、同じことが言えるのかもしれません。

紆余曲折を経て、ラストでアレックスは自分の本当の望みに気が付き、夫婦は自分たちらしい幸せを選択します。人は誰しも一人では生きていけません。決めつけたり諦めたりせず、自分や相手が真に大事にしたいものについて考えることは、幸せな人生の第一歩になるかも。これから先のライフプランに迷った時におすすめの一作です。

 

一生大切にしたい人は、いますか?


© 1989 TriStar Pictures, Inc. All Rights Reserved.

title:『マグノリアの花たち』

【story】
アメリカ、ルイジアナ州の小さな町。イーテントン家の人々は、長女シェルビーの結婚式の準備で大わらわ。シェルビーと母のマリンは、町の女性たちの社交場になっているトルービィの美容院に行き、式のためにヘアメイクをしてもらいながらいつものようにお喋りを楽しんでいた。ところが突然、シェルビーは発作を起こしてしまう。実は彼女は糖尿病を患っていて…。

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最後にご紹介するのは、アメリカ南部の小さな町を舞台に6人の女性たちの絆を描いたドラマです。

結婚式で幸せいっぱいな娘の姿を見てどこか不安げな表情の母・マリンに、この後の展開が心配になってしまう物語序盤。その後、病を抱えた娘のシェルビーは、医者から止められていたにもかかわらず出産をして病状が悪化。悲しい展開が待ち受けています。

生きていれば色々あって、嬉しいこともあれば、悲しいこともあるのが人生。マリンの人生もまた然りで、時の流れとともに嬉しい出来事と悲しい出来事が訪れます。けれど、どんな時も彼女のそばには友人たちがいて、嬉しい時は自分のことのように一緒に喜び、悲しい時は心の痛みに寄り添って支えてくれるんです。友人だけでなく家族や職場の人間関係もライフステージに合わせて少しずつ変化することを知った身としては、彼女たちのような存在の大切さが心に沁み入ります。

 

今は人生100年時代。長い人生、良いこともあればそうでないことも同じだけたくさんあるはず。だからこそ、いつも自分のことを想って支えてくれる人をずっと大切にしたいものです。

今回は「40代のうちに観たい映画」をテーマに、『それでも私は生きていく』『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』『マグノリアの花たち』をご紹介しました。年齢とともに経験を積み重ねてきたからこそ気づける「大切なもの」を教えてくれる作品たち。映画を観ながら、自分にとっての大切なものに思いを巡らせて、これからの人生についてじっくり考えてみるのもいいものです。40代でも何歳でも、ぜひ、チェックしてみてください。

『それでも私は生きていく』

監督・脚本:ミア・ハンセン=ラブ
出演:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルヴィル・プポー
2022年 フランス・イギリス・ドイツ合作 112分
DVD:¥4,180
販売元:アルバトロス株式会社

 

『ニューヨーク 眺めのいい部屋売ります』

監督:リチャード・ロンクレイン
出演:モーガン・フリーマン、ダイアン・キートン、シンシア・ニクソン
2014年 アメリカ 92分
Prime Videoで配信中

 

『マグノリアの花たち』

監督:ハーバート・ロス
出演:ジュリア・ロバーツ、サリー・フィールド、ドリー・パートン
1989年 アメリカ 118分
Blu-ray::¥2619
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング

洲崎真紀子(すさきまきこ)
これまで興行会社やNPOで映画関連事業に携わる。現在は小学生の娘と一緒に映画を楽しむ方法を模索する日々。
今年の夏は、クレヨンしんちゃんとすとぷりの映画を一緒に観に行く予定です。

 

●Do it Theater(ドゥイット・シアター)
“あたらしいシーンは、Theaterからはじまる”をテーマに、シアター体験を作り出すプロデュース&クリエティブチーム。FUDGE主宰の「Holiday Circus(ホリデーサーカス)」ではコンテンツクリエイションとして参加。また 累計5万人以上が来場した野外シアター「品川オープンシアター」や横浜赤レンガ倉庫・マリンアンドウォークヨコハマなど5会場同時開催の「SEASIDE CINEMA」、ミニシアター支援を目的とし全国5箇所でキャラバン開催したクラウドファンディングプロジェクト「ドライブインシアター2020」など、映画を観るだけではない、総合演出された新しいスタイルのシアター体験を全国に作り出しているチームです。
www.ditjapan.com

 

design_Koinuma Kenichi

edit_Takehara Shizuka

 

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