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海の復権を掲げた「瀬戸内国際芸術祭」は今年で5回目を迎えます。島に住む人々と、島の美しい風景に魅せられたアーティストや建築家が、ともに新しい何かをつくることで、改めて島の魅力に気づき、誇りを持ち、島に元気と活力が戻ってくる。9月、直島に新しく誕生したギャラリーを訪ねました。

 

安藤建築×杉本博司作品

思索をめぐる《杉本博司ギャラリー 時の回廊》

安藤忠雄氏の建築空間で、杉本博司氏の代表的な写真作品やデザイン、彫刻作品などを継続的かつ本格的に鑑賞できる展示施設だ。 作品は初期のものから近代のものまで、およそ30点。自然の中に溶け込む安藤建築と普遍性や時間という概念を追求し続ける杉本作品、自然の変化や壮大な時間の流れを体感しながら、ゆっくりとめぐることができる。

エントランスでは、写真作品「華厳の滝 (1977年)」がお出迎え。杉本氏が水に興味を持ち、後の代表作である「海景」が生まれるきっかけになった作品だ。

ジオラマシリーズ、劇場シリーズ、建築シリーズ、彫刻作品をじっくり堪能しながら、回廊のようにギャラリー内をぐるっとまわり、屋外へ。世界各地の海を撮影した「海景」シリーズは屋内外どちらも展示されているため、違った視点で楽しめる。

「海景」は、カリブ海、エーゲ海、地中海、太平洋など、世界中の海を1対1の割合で撮影した作品だ。船に乗ればおそらく簡単に撮影する事ができるが、杉本氏が見たい風景は原始時代や文明の前の世界。その時代の人々がどのような世界を見ていたのか、という事に興味を持ち、時間をかけて取り組んでいる。船は人が発明したもの、だからその上で撮影するのではなく、地面に両足をつけて海を見るという事にこだわったそうだ。時には大きなカメラを担ぎ、山奥にも入る。小さい島さえも写ってしまわないように、純粋に空と海のみの景色を探す。

作品と対峙すると、ここには説明書きがないことに気がつく。これは「見る側がそれに左右されてしまう。説明に頼るのではなく、自分の目で見れば、新しい発見があり、新しい喜びがある。自分の中に湧いてくる思いを大事にしてほしい」という施設側の思いから。作品が何を表しているのか、その答えは人それぞれなのだ。

ギャラリーの外に展示されている『硝子の茶室「聞鳥庵」』は、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展のためにつくられたもので、その後 ヴェルサイユ、京都を巡回し、終の住処として直島にたどり着いた。ベネッセアートサイト直島の代表である福武總一郎氏が、ヴェルサイユの作品展で直接杉本氏に会い、この茶室の中で会談が行われたという。茶室の奥には愛らしい花々と穏やかな瀬戸内の海が広がっている。

 

ひと息つくなら、ラウンジへ。

杉本氏主宰の新素材研究所によって改修された空間で、この場所のために制作されたテーブル「三種の神樹」や近年のプロジェクトである「Opticks」も展示されている。

木のうつわも古木を使った作品(テーブル)の素材の一部を使用。茶碗は陶芸家 内田鋼一氏、菓子は香川県の老舗和菓子店のもの。建築家のトップである安藤氏と、現代美術のトップである杉本氏、双方の世界観に浸りながら、いただく茶と菓子は格別だ。

 

Information

住所:香川県香川郡直島町琴弾地(ベネッセハウス パーク内)

開館時間:11時~15時 (最終入館は14時)、年中無休  ※オンライン予約制

鑑賞料金:1,500円 ※お茶とお菓子付き

 

 

安藤建築×草間彌生作品×小沢剛作品

祠をイメージした建物と周囲の屋外エリアで構成された《ヴァレーギャラリー》

次に向かったのは、《杉本博司ギャラリー 時の回廊》と 地中美術館のちょうど真ん中に位置する《ヴァレーギャラリー》。

瀬戸内と言えば 海、という印象が強いが、じつは山も自然の美しさを満喫できる場所だ。訪ねた9月はちょうど鈴虫が鳴き、樹木の色も変わり始めていた。この辺りは春になるとツツジが咲き誇るそうだ。海と山をつなぐ意味でもこの谷間を選び、自然の豊かさや共生、祈りの心や再生の意識を込めて祠をモチーフに建てたという。

ギャラリーのオープニングを飾ったのは、草間彌生作品の《ナルシスの庭》。1966年のヴェネチア・ビエンナーレでジャルディーニ会場の芝生に大量のミラーボールを敷き詰め、世界的注目を集める事になった記念すべき作品だ。ミラーボールは屋内外の至るところに点在。屋内に入れば、奥に向かうほどに期待感が増す。

球には自然や鑑賞者の姿が映り、私たち一人一人は自然と一体化している事を教えてくれる。単純な形が膨らませるイメージは限りなく豊かだ。

草間彌生「ナルシスの庭」1966/2022年

二重の壁構造、スリットの入った屋根が特徴で、自然を屋内にいても体感できるような空間となっている。夏は日差しや風が通り、秋には落ち葉、冬には雪が入り込むだろう。施設内はすべて自然光なので、季節や天候、時間帯によって異なる印象を与えてくれ、決して飽きる事がない。

このギャラリーの恒久展示である《スラッグブッダ88-豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88体の仏》は、2006年の展示作品としてこの場所で公開されていたものだ。

小沢剛《スラグブッダ88― 豊島の産業廃棄物処理後のスラグで作られた88 体の仏》2006 /2022年

江戸時代から続く四国のお遍路を島の中でもできるようにと、直島に残る八十八ヶ所の仏像をモチーフに作られた。その材料として選ばれたのが、スラグだ。かつて豊島で産業廃棄物の不法投棄という問題があり、その処理の一部を直島でも請け負っていたという歴史がある。焼却するときに、最後に残る燃え滓(スラグ)は瀬戸内の負の歴史を内包している部分があり、これが仏像をつくるための材料となった。また、下に敷き詰められた石は豊島石と言われるもので(瀬戸内は石の生産が盛んだった事もあり、島によって特有の石がある) 、豊島と直島とのつながり、過去そして未来のつながりを表現している。芸術の秋。島のくらしやアートを堪能しに、ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。

 

Information

住所:香川県香川郡直島町京ノ山

開館時間:9時半~16時 (最終入館は15時半)、年中無休

鑑賞料金:1,300円 ※ベネッセハウス ミュージアムの入館料に含む

 

 

 

photograph:Tamami Tsukui

edit & text:Minako Shimaoka 

 

 

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