南フランスへの夢はすでにかなっていた。【SHORT BREAD STORY vol.7】 | FUDGE.jp

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お客さんとお店の人とのあいだで交わされることば、寄せあうこころ、言えなかった胸のうち。そんなささいなエピソードを、ショートストーリー仕立てでお届けする連載。ホントかウソかさえもあいまいな、それさえもふわふわと楽しんでください。
※今回はお店にいけないので、特別編となります。

 

たいていの人は、たいていの夢がすでにかなっている。かなっても、かなっても、かなっていないものに、つい目がいく。だから終わりがないのだということに、彼女はあの日気づいた。

彼女の夢は、南フランスにいくことだった。とりどりの花に囲まれながらまどろんで、シュールな夢を見ていたかった。

たとえば、裸足でエスカレーターに乗っている。たどり着いたそこはショッピングモールで、ティーカップを物色する。そして素敵なものを見つける。うすづくりの、アンティークのようなティーカップ。なのにそこに店員さんはおらず、買うことはできない。

かわりに誰かにすすめられた、よく分からない歯ブラシを買う。いざレジに行って財布を開けると、見たことのない紙幣がたんまり入っていて、店員さんは聞いたことのない言葉で値段を告げる。

仕方がないので、財布を広げてみせ「ピックアップ!ピックアッププリーズ!」と叫ぶ。でも店員さんはやってくれない。仕方なく適当に紙幣を抜いて渡すけれど、受け取ってもくれない。それが足りないのか、大きすぎてお釣りがないのかも分からない。途方に暮れているうち目覚める……

そんな夢を見る、南フランスへの夢をかなえたいと。

しかしそれは、かなうことのないまま時は過ぎ、ここ数ヶ月ほど、彼女は家からほとんど出ない生活をしていた。平日は家で仕事をし、休みの日もずっと家にいた。

これまで休日は、外に出なきゃ!と、なぜか思い込んでいた。街へ買い物に行かなきゃいけないと。欲しいものは、いくらでも思いついた。たとえば今日は、いいにおいのするハンドクリームを買おうとか。南フランスっぽいにおいのするやつがいい。すでにいくつもあるハンドクリームは、どこかに行ったか、見ないふりして。

それもできない今、彼女はすでに持っているハンドクリームをつけて、ごろりとソファに寝転んだ。するとまぶたがだんだん重くなって、いつのまにかまどろんでいた。

そこはとりどりの花が咲き乱れていて、あふれるほどの光で、それぞれがめいっぱいの色を放っていた。

バラがわんさと絡むアーチの向こうには、2組の親子連れがいた。少女たちは花と花のあいだを縫うようにきゃっきゃと走りまわり、その後ろからお父さんがついてまわった。

彼は手にウクレレを持ち、とろんとしたメロディを奏でなが。そう、彼は少女の遊びに、生音のBGMをつけていた。夢のようなできごとが、もっと夢になるように。

そして目覚めて、彼女はハッと気づいた。あの夢のなかにあった光景は、歩いていける公園のだったことを。

夢はすでにかなっていた。

 

Text and Photo by Mituharu Yamamura(BOOKLUCK

 

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