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はんてんやちゃんちゃんこなどのように、綿を入れて仕立てた防寒着のことを「綿入れ(わたいれ)というが、ひと昔前までは家庭で作られていた。茨城県つくば市にある「和布工房はんてん屋」を営む木村壽子(としこ)さんと娘の美希さんは、昔ながらの手縫いで綿入れを仕立て、工房内の教室でその技や知恵を伝え続けている。

学生向けのアパートを改築した工房は趣のある板張りの建物で、その1Fに店舗と教室がある。店舗にはさまざまな綿入れや木綿の織物などが並んでいるが、その数は多くはない。「なるべく残布・残糸が出ないように注文を受けてから作っている」と壽子さん。しかし、そこにはモノを大切にする姿勢や、誰かのために作るという思いをのせたモノづくりへのこだわりがたっぷり感じられる。

 

 

もめん綿と真綿、あたたかさの違い

はんてん屋では、木綿や絹などの天然素材を使う。綿入れの綿(わた)にも化繊綿は使用せず、もめん綿と真綿をそれぞれの特徴に合わせて使い分けているという。

もめん綿はコットンのことで、多年草のワタの実から採れる繊維で作られている。お布団に包まれているようなしっかりとしたあたたかさがあり、吸湿性も高い。綿を打ち直せば繰り返し使うことができ、洗って干して日に当てれば、またふっくらとしたあたたかさが蘇る。丈夫なので、動きまわる子どもの綿入れにも適している。


もめん綿を使った綿入れ

真綿は蚕の繭から作られたもので、つまりシルク100%。今では高級な印象だが、江戸時代以降にもめん綿が普及するまでは、綿といえば真綿のことだったそう。

真綿は軽くてじんわりあたたかい。吸湿性と放湿性も高く、あたたかくて蒸れないので汗をかきやすい赤ちゃんにも相性がいい。「とても軽くて薄い真綿は普段使いにも合う。使ってみたらこの良さがわかる」と生徒さんも太鼓判を押す。

 


生徒さんが赤ちゃんのために作った真綿のおくるみ。子どもが大きくなったら布団にもなる

 

壽子さんおすすめの「背負い真綿」は、真綿を何枚も重ねて伸ばしたもので、下着やシャツの間に挟んで使う。繰り返し使えて、カイロの代わりにもなるすぐれものだ。


実際につけさせてもらうと、空気のように軽かった

 

体になじむ、手づくりの綿入れ

はんてんを仕立てる上で、綿を入れる工程は山場になる。その様子を見学させてもらった。

まず、袖口に前もって綿を含ませておく。それを「含め綿」というが、そうすることで、袖口までふっくらと仕上げることができる。


あとで綿が抜けないように、綿の置き方や縫いとめる位置にまで気を遣う

含め綿を終えたら、裏地を上にして綿を置いていく。背中は綿を二重にすると丈夫であたたかい。肩や脇の下は綿が薄くなりやすいので、しっかりと綿を置く。

そうして裏地全体を綿でくるんだら、裏地と綿を一緒につかんで表地に被せるのだが、その動きはマジシャンのよう。あっという間に綿は裏地と表地の間に入ってしまった。

最後に、袖口と襟から手を入れてくるくるとまわし、表地と裏地と綿をよくなじませる。締めくくりに、壽子さんが背縫いをトントントンと引っ張った。「これは母から受け継いだおまじないなのよ。はい、できあがり」

「みなさん、やっぱり手づくりしたものが着やすいって言ってくれるの。既製品は体になじまないって。そう言っていただけると、手づくりの良さをあらためて感じるんです」

この日生徒さんが綿を入れたはんてんは、父親への贈り物。作り始めた頃に子どもが産まれてなかなか完成させることができなかったそう。3年越しの思い入れのあるはんてんだ。

 

母の時代の手しごとを学び、伝えていく

もともと壽子さんは和裁の経験はほとんどなかった。母のキヨエさんは和裁が得意で、日頃から家族のために綿入れを作ってくれたそう。やがて父を亡くした母を励ますために、綿入れを教えてもらったことがきっかけになり、和裁を本格的に学び始めた。

「習い始めてみたら、ひと針ひと針に工夫がされているのを知って、ぞくぞくっとしてね。きれいに丈夫に着れるように、という母の祈りのような細やかな気遣いを感じたの」

キヨエさんから教わったことは、最近の和裁の本にもあまり載っていないようなことだった。「なんとかこの技と知恵を残していきたい」と深く思ったことがはんてん屋に繋がった。


その形から、壽子さんが「猫の鼻」と愛着を込めて呼ぶはんてんの袖口部分の始末。母キヨエさんから教わった、きれいに丈夫に着れるように工夫しているひとつ

ときどき今の時代に昔の作り方を伝える必要があるのかと、悩むこともあるという。以前展示をしたときに、若い人から「こんなの初めて知った。とってもあったかい」という声をたくさんもらったことが励みになっているそう。「綿入れを懐かしいものではなく、新しいものとして見てくれる人がいる。それがうれしかった」と。

 

普段着に合う、新しい綿入れ

壽子さんと美希さんは、今の暮らしに合う綿入れも研究している。昔の本に載っていた子ども用のちゃんちゃんこを参考にした「だるまちゃんちゃんこ」、キヨエさんが長年愛用していた「腰布団」、足元を暖かく包む「綿入れブーツ」など。


だるまちゃんちゃんこ。ころんとした形がまさにだるまのよう

 

「おばあちゃんの腰布団を商品化しよう」と言い出したのは美希さんだった。腰布団は腰やおしりをあたためるためのもの。夏の冷房対策としても使える。「腰布団をチラ見せすれば、ファッションとしても楽しめる」と、生徒さんからもその愛らしい形が好評になった。


腰布団。「腰をあたためるのは大事」とは、壽子さんの口癖。もともとは母キヨエさんの口癖でもあった。いつも腰布団をしていたキヨエさんは本当に丈夫だったそう

 

工房内の本棚には、壽子さんが古本屋や骨董市などで買い集めた昔の和裁の本がたくさん並んでいる。「いろんな綿入れが載っているの。いつか全部再現してみたいと思っているんですよ。はんてん、ちゃんちゃんこだけじゃなくて、もっと気軽に外にも着ていけるものができたらいいなって」

母娘ふたりの綿入れは、昔のものでもあり、今のものでもある。その良さを知った人は、暮らしに欠かせない、日用の衣になるのだろう。

赤ちゃんからお年寄りまで、使えばあたたかくなる、元気になる、うれしくなる。そんな綿入れは、だれかのために作りたくなるものだった。

 

和布工房 はんてん屋

住所:〒305-0033 茨城県つくば市東新井24-13 丸木ハイツ101
電話:029-852-0774
営業日:火・水・木・金・土(祝日休み)
時間:10:00〜18:00
アクセス:つくばエクスプレス つくば駅より徒歩10分
※教室は木・金・土曜日に開講
※開講スケジュールは季節で変わる場合があるので、受講の際はお問い合わせください。​​

HP:https://www.hantenya.jp/
インスタグラム:https://www.instagram.com/hantenya.99/

 

真綿を中心に綿と共にある暮らしの実践やワークショップなども開催しています。

わたぐらし note:https://note.com/watagurashi/
ノラオコつくば インスタグラム:https://www.instagram.com/noraoko_tsukuba/

 

Text:roku
デザイン会社勤務。日々の楽しみは散歩とごはん

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