暮らしのなかに「揺らぎ」を灯すモビール作家【わたしのまちのつくり手 vol.2 札幌】 | FUDGE.jp

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「自分って流されやすい人間だな」なんて思うのは、たいてい夜。

なんとなくSNSをスクロールしていると目に止まったのが、モビールの動画でした。

針金の羊が揺れている様子を見ていたら、だんだん眠くなって。朝起きるともう、夜に悩んでいたことは小さくなっていました。

 

動画の投稿者は、札幌のモビール作家jobin.さん。

 

風で揺らいだり、日光や照明に反射したり、影を映し出したり。様々な表情を見せるモビール。その繊細さは、まるで私たちの心のように見えるのです。

 

 

そばにあるけど気づいていないものを見つける楽しさ

 

モビールは、動きを楽しむ立体インテリア。夜が長い北欧の冬に、家の中で切り紙などを吊したものが起源とも言われています。

 

同じく冬が長い札幌で、建築を学んでいたjobin.さん。北欧インテリアをとおしてモビールを知ったそう。

 

初めて作ったモビールは、切り紙で小さな鳥を3つほど繋ぎ合わせたもの。それから今まで、ずっと大切にしているのは「生活の時間を、より楽しくしたい」という想いです。

 

最近ではモビールの影に注目し、ほとんどの作品に針金を使っています。

その理由は、ふだん意識していないものに目を向けることで、楽しさが生まれるから。

 

「『そばにあるけど気づいてなくて、気づいたらちょいと嬉しい』ものってあると思うんです。だから、影の見え方を気にするってこと自体、もう楽しいと思うんですよ。飾られる方の空間で、その人が思う『ベストな影』に気づけるようになるのも、モビールの良さですね」

 

「みてみて!」と、思わず誰かに伝えたくなるような嬉しさ。いつも見ている景色には、宝物がまだ無数に隠れていることを、モビールは教えてくれます。

 

同じ場面はもう二度とみれないかもしれない

 

空気の流れや光と影。モビールは、いつもそばにある自然の存在にも気づかせてくれます。 jobin.さんはモビールの魅力について、さらにこう語ってくれました。

 

「例えばモビールが一つであれば、回るシーンは同じかもしれないです。ただ、これが2つになった途端に、同じシーンになる確率が一気に下がります。それぞれが回って、かつ全体も回って。

"同じ場面はもう二度とみれないかもしれない"ということに気づいてくると、どんどんモビールって面白くなります」

 

「手癖」で作ることの怖さと、作家としての「揺らぎ」

 

近年は東京や名古屋などで展示会を行ったり、札幌の『DONO』というショップとの企画で山の壁掛けをつくったりと、活動の幅を広げているjobin.さん。

順調に見える歩みですが、「このまま同じことをやっていたら先が見えちゃうのが嫌で、意識的に色々な所へ出向いています」と、つくり手としての「揺らぎ」を語ってくれました。

 

「以前、『jobin.さんだったら、もはや針金でなんでも作れちゃいますよね』みたいなことを、同じ日に別々の人に言われたことがあって。その時に『これはヤバい』と思いました。そういう印象がついてるってことは、もう何を作ってもその人たちにとっては想定内ってことだから。

 

その頃自分でも『針金なら何でも形にできる』ってうっすら感じていただけに、自分の奢りみたいな部分が作品に出てたのかもしれない、って思ったんですよね。それはマズイなって。だからその年の年末、今まで全くやったことのない刺繍の展示をしました。『それ、どうすんの』って感じなんですけど。笑 やらずにいられなかった。

 

つくり手としての危機感みたいなものは、多分、常々感じていますね。このままじゃ先が見えちゃうな、という、天井が見えてしまう怖さ、みたいなものはいつもあります」

 

 

自分のことって、自分でそんなにわかっちゃいない

 

「つくり手そのもの」が作品をとおして伝わってしまう怖さ。しかし不思議と、jobin.さんからは「不安」が感じられませんでした。「不安も面白がってしまう節がある」と話すその考え方は、過去の経験からきているといいます。

 

「以前、古道具屋で働いていたことがあって。その時にすごく思ったのが、一辺倒な考え方って勿体無いなってことなんです。一見ガラクタのような物が、見る人が見たら『宝』になるってことが、色んなジャンルにあるなって。『こんなのに何万円も出すの?』みたいなことが、ザラにあるんですよ。

そういうのを知ると、作品とか芸術一般にしても、評価とか見方ってたくさんあるんじゃないかっていうのは、すごく気付かされました」

 

「こうあるべき」と自身のやり方を定めずに、「こういう見方もあるんだ」と、ゆるやかに周りからの意見や評価を取り入れて、頭に浮かんだものを形にしてきたというjobin.さん。

作品にバラつきが出てきた時も周りからの声を参考にして、力を入れる方向性を調整しているそう。

 

「そもそも軸って言えるほど、自分は自分のことをわかっちゃいないと思うんです」

 

つくり手=「自分の軸がある人」というイメージも、「こうあるべき」に捉われていたことに気づかされました。

 

 

スープを配るように作品を届けたい

 

唯一変わらないことは「ずっとつくり続けていくこと」。つくり続けていくと、どんな作品であっても不思議と「jobin.さんらしいよね」という声をいただくそう。

これからも続けていくための根源は、何なのでしょうか。

 

「『あったかい物を食べてホッとする』みたいな役割って、どんな職種の人でもあると思うんです。自分も、自分にできる方法でそういったことが出来たらいいなと思っています。

 

だから僕にとっての作品を届けることって、きっと『スープを配る』みたいなこと。渡したあとは好きなところで食べてください、みたいなイメージです。じんわりじんわり、スープみたいに、身体に心に沁みていく。そんな物をこれからもつくっていけたら良いなと思っています」

 

窓を開けると入り込む風や、刻々と変わっていく太陽の光。

コントロールできないものに呼応して揺れるモビールは、

二度とない今を、ただ生きている。その奇跡を、そっと伝えてくれます。

 

 

 

▶︎プロフィール

  jobin.

・Instagram:https://www.instagram.com/jobin55/

・Twitter:https://twitter.com/jobin55

・Webサイト:https://888jobin.themedia.jp/

 

撮影協力:東洋カメラハウスhttps://toyocamerahouse.com

 

▶︎Text:本間 幸乃

ライター。精神保健福祉士。 福祉職、企業での障害者雇用担当を経てライターに。

“その人の体温が伝わるような文章を届けたい” という思いで、インタビューやコラムを書いています。https://note.com/onelifeyuki

 

▶︎イラスト:ひだまりdesign

 

 

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