kiitos.

たくさん動けば身体が疲れるように、脳にも疲労は蓄積されるもの。しかし、疲れ具合やそもそも疲れているのかどうか判断する術を知らない人も多いのでは? 実は疲労でも働けないパンク寸前の脳を、自覚なく酷使しているケースも。脳の疲れの原因とその休め方について、脳生理学と脳科学の側面から解説します。

脳の疲れを取る涙のメカニズムを活用した「涙活(るいかつ)」というリフレッシュ方法を紹介。泣いてすっきり爽快に。今日だけは、“涙くん”にSay hello!

教えてくれたのは…

セロトニンDojo代表 東邦大学医学部名誉教授
有田 秀穂先生

医師・脳生理学者。セロトニン研究の世界的権威として、セロトニンの分泌に効果的な身体運動を含んだヨガプログラムを日本ではじめて認証。著書に『脳科学者が教える「ストレスフリー」な脳の習慣』(青春新書インテリジェンス)など。

早稲田大学理工学術院教授
枝川 義邦先生

脳科学者。研究分野は脳神経科学、人材・組織マネジメント、マーケティングと多岐に渡る。2017年度ユーキャン新語・流行語大賞を「睡眠負債」にて受賞。著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)など。

涙活(るいかつ)で脳をリセットする

泣くことで脳のストレスは瞬時に解消されるーーその仕組みを利用した脳の回復方法のひとつが「涙活(るいかつ)」です。涙活とは、“意識的に泣くことで心のデトックスを図る活動”のこと。みんなで一緒に泣く「涙活」イベントが各地で開催されていたり、社員同士で「涙活」をする企業もあるといいます。一緒に涙を流すことでコミュニケーションが取りやすくなるだけでなく、感動を共有することで“共感性”も高まるのだとか。

「ただし、琴線が触れる場面は一人ひとり違います。泣けるかどうかは、過去に似たような経験や体験をしてきたかどうかがポイントなので、あの人はこの場面で泣いているのに自分は泣けない……と思う必要はありません」

年齢によって泣けるポイントが変わったり増えることも。また、オチが分かっていたとしても、涙が出やすいシーンでは何度でも泣くことができるので、自分だけの“涙のツボ”を押さえておけば、涙活もはかどるはず。ひと昔前は「男が泣くのは女々しい」などと言われた時代もありましたが、いまは男性だってTPOをわきまえた涙なら、 人間性が豊かな証。涙はもう女の武器だけじゃありません。疲れたときにはひと泣きしてスッキリ。涙を上手に活用したいものです。

上手な涙活【虎の巻】

  • 自分の“涙のツボ”を探す
  • 涙が出やすい“泣きのネタ”をいくつか持っておく
  • 涙を我慢しない
  • 一粒でも泣けたらOK!
  • 泣いた後のケアも怠らない

涙活はたくさん泣けばいいというわけではなく、「泣く」という行為こそが重要。わんわん声を出して大泣きする必要はなく、一粒でも涙がこぼれたら脳はストレス状態から癒しに切り替わります。

また、泣いた後には心をケアすることも大切。「泣いた後、眠くなったり、お腹が空けば、いい切り替えができている証拠──にも関わらず、すぐに仕事を再開してしまうと、また脳を混乱させてしまう恐れがあります。涙を流してすっきりしたら、その後は自分の気持ちのままに行動することを心がけましょう」

さらに、泣きそうなのに涙を我慢してしまうのもNG。涙が出そうなときは思い切って泣いてしまうこと。我慢することでストレス値が余計に高まるから注意しましょう。

“週末号泣”で脳の疲労をデトックス

泣いた後は頭の中を鎮めていくことが大切。例えば、映画館でたくさん涙を流してすっきりできても、帰りの電車が混雑でギュウギュウだと、またストレスフルな状態に戻っ てしまいます。しっかりと脳を切り替えた後、その効果を持続させたいなら、「泣く・食べる・寝る」が自然な流れでできるような環境を整えたいもの。

そこでおすすめなのが「週末号泣」。好きなだけ泣いた後、お腹が減ったらご飯を食べてそのまま眠れる! 次の日に仕事がなければゆっくりと朝寝坊できて、泣きすぎて目が腫れてしまっても休日なので気になりません。しかも自分の“泣きのツボ”に合わせた映画や本、音楽などを自由に選んで泣けるシーンばかりリピートして号泣することもできます。こうして“週末号泣”すれば、一週間分の疲れが解消。涙の効果は一週間続くので、また次の週末に涙を流せば、ストレス脳をデトックスするいいサイクルに。脳を休めると決めて泣いた後は、存分に休むこと。頭と心がクリアになれば、週明けはベストコンディションでスタート!

こんなシーンも“涙のツボ”

スポーツで感動を共体験

スポーツの世界は涙の宝庫。オリンピック・パラリンピック大会をはじめ、甲子園・フィギュアスケート・サッカーなど誰かと一緒に観戦することで一体感が生まれ、感動を共有しやすくもなります。普段は涙のツボが違う人同士でも、スポーツの感動だけは同じものを観て聞いて、一緒に盛り上がれるはず。

熱い友情にジーン

仲間を思いやる友情シーンには否が応でも涙が出てきてしまう。そんな人も少なくないのでは? ピンチのとき、いつも助けてくれた心強い味方。学生時代のあの頃、あの景色、あの言葉──ふと脳裏をかすめては胸がぐっと詰まり、青春時代の切なさが蘇って、思わず熱いものが込み上げてきて……。友達の存在は懐かしく、そして尊いもの。

結婚式のスピーチや手紙

参列の度に「今回は泣かないぞ」と思ってもやっぱり泣いてしまうのが結婚式。式から披露宴まで全編に渡って琴線に触れるシーンがあり、涙腺は常に崩壊しがち。特に新婦が読む家族への手紙は鉄板。「お父さん、お母さん……」と冒頭からすでに号泣。幸福感であふれ出る涙に、気持ちもほんのり温かくなりそう。

illustration:Kaoru Konagai edit&text:Kaoru Bansho re-edit:Yuri Iwata[press lab]
※kiitos. vol.21(2021年9月21日発売)より抜粋。

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