kiitos.
たくさん動けば身体が疲れるように、脳にも疲労は蓄積されるもの。しかし、疲れ具合やそもそも疲れているのかどうか判断する術を知らない人も多いのでは? 実は疲労でも働けないパンク寸前の脳を、自覚なく酷使しているケースも。脳の疲れの原因とその休め方について、脳生理学と脳科学の側面から解説します。
Index
教えてくれたのは…
セロトニンDojo代表 東邦大学医学部名誉教授
有田 秀穂先生
医師・脳生理学者。セロトニン研究の世界的権威として、セロトニンの分泌に効果的な身体運動を含んだヨガプログラムを日本ではじめて認証。著書に『脳科学者が教える「ストレスフリー」な脳の習慣』(青春新書インテリジェンス)など。
早稲田大学理工学術院教授
枝川 義邦先生
脳科学者。研究分野は脳神経科学、人材・組織マネジメント、マーケティングと多岐に渡る。2017年度ユーキャン新語・流行語大賞を「睡眠負債」にて受賞。著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)など。
脳が疲れる原因って?
いま目にしている情報をすべて取り込むと、脳はたったの5分もしないうちにパンクするのだそう。情報量が多すぎる毎日は、実は脳疲労の原因の温床だった!
✔︎デジタルデバイスの使いすぎ
「脳を休める①、脳を休める②で話したとおり、脳が疲れる大きな原因はデジタルデバイスの使いすぎです。特にスマートフォンの普及が大きな要因と考えられています。そのため、いま多くの人の脳が過労状態なのです」(枝川先生)
確かに目覚めてから夜寝るまで、常にスマホが傍らにある。連絡手段はLINEやメール、必要な情報はインターネットで…といったように、情報収集もコミュニケーションもすべてがスマホで完結するため、1日中手放せませんよね。
「この習慣があるうちは、脳の疲れは取れにくいです。しかも、デジタルデバイスはマルチタスクがしやすいアイテム。動画を見ながらSNSをチェックしたり、バックグラウンドで音楽を流しながらアプリを起動するなど、ふたつ以上のタスクが同時に行いやすいもの。パソコンとスマホを同時に使う場面も多いのではないでしょうか」
マルチタスク中の脳はわざと注意を分散させている状態だが、実はタスクを行っている本人は注意が分散していることにすら気がついていません。それほど素早く情報処理を行っているのです。処理スピードが早い分、当然脳への負担が大きく、脳は疲れすぎると判断ができなくなります。頭で考えられなくなると、ふと目にした看板の文字をそのまま口に出してしまうなど、必要性の判断もなく目の前のものを反射的に答えたりしてしまうのです。このような反応が出てくると、脳がかなり疲れているサイン。早めに休ませましょう。
✔︎認知負荷が高いと脳は疲れる
脳が情報を取り込んだ後に処理が進み、「それは何か、どういう意味なのか」を知ることを“認知”と呼びます。そして、取り込んだ情報を処理する“負荷”のことを「認知負荷」と言います。脳は限られた資源をうまく分配しながら働いているため、かかる負荷が高いとその分、資源の消費量も激しくなります。
「分厚い資料を読むときに負担だなと感じるのは、認知負荷が高いからです。デザインで例えるなら、すっきりとシンプルな方が負荷は低く、逆に色を多く使うデザインは複雑で負荷が高いので、心理的に避けたくなる傾向があります」
また、仕事でも認知負荷が高い職種があるといいます。例えば、接客業や営業職など初対面の人とコミュニケーションを取る仕事は、相手が「この人はどういう人か」と考えながら会話をしたり、行間を読んだりしなければいけないため、高い認知負荷がかかります。会社で役職に就いている人も、曖昧な情報から素早い判断を求められるのでプレッシャーも大きく、負荷がかかります。ただし、このような仕事や役割に就いても、学習することによって慣れていくかスキルが向上することで、負荷は低減していくのだそう。
1日に何度も、しかも長時間デジタルデバイスを使うだけでなく、認知負荷の高いリモート会議に参加することまで当たり前になってしまった現代の日常生活では、想像以上に脳を酷使しているのかもしれません。
脳が疲れる日々のルーティンをチェック
1日の行動を見直してみるとデジタルデバイス三昧&認知負荷の高いことばかり。気づいた今日から脳にも休息を!
複数タスクの切り替えは脳に負担
脳は意思決定をするのにもエネルギーを使っています。そのため、短い時間の中でタスクをガチャガチャと切り替えていると、じわじわとストレスホルモンの量が増加。しかも、タスクを切り替えて次の行動に移るまでにも時間がかかるので、総合的には作業スピードが遅くなるのです。タスクは少量ずつ、時間を決めてひとつに集中を!
複雑な内容は認知負荷が高い
状態を把握しながら近い将来像を予測し、価値判断をして対処策を練り、それを講じる──こんな難しい会議は間違いなく認知負荷が高まります。特に、先回りしながら考える脳の使い方をする人は疲れやすいそう。認知負荷が高い会議があった日にはサロンでリフレッシュもいいけれど、はじめて行く場所で初対面の人と交わす会話も負荷が高いのでご注意を。
情報から取り残されることへの恐怖
インターネットでいつでもどこでも情報を収集できる環境が整っているからこそ「知らないと乗り遅れてしまう!」と強迫観念が生まれやすいといいます。このような状態を「FoMO(Fear of Missing Out・フォーモ)」と呼び、すべてを網羅しようとすると脳も心も疲れきってしまいます。ときどきは情報を見逃す「JoMO(Joy of Missing Out・ジョーモ)」でもIt’s all good!
illustration:Kaoru Konagai edit&text:Kaoru Bansho re-edit:Yuri Iwata[press lab]
※kiitos. vol.21(2021年11月7発売)より抜粋。
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