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山へ行ってみたい。でも、ちょっぴり不安もある。

山の澄んだ空気を吸って、どこまでも続く景色の中を歩いてみたい。そんな憧れはあっても、いざ出かけようとすると、「何を準備すればいい?」「山のトイレやお風呂は?」「きちんと眠れるかな」「体力に自信がなくても大丈夫?」と、いくつもの不安が浮かんでくる。山に慣れていない人にとっては、小さなハードルの積み重ねが最初の一歩を遠ざけてしまうことがある。

そんな山旅の入口で迷っている人の背中を押してくれるのが、星野リゾート初の山ホテルブランド「LUCY(ルーシー)」。その第1号施設として、群馬県・尾瀬国立公園の玄関口、鳩待峠に誕生したのが「LUCY尾瀬鳩待 by 星野リゾート」だ。

コンセプトは「最高の尾瀬ハイクがはじまるホテル」。快適に泊まれることはもちろん、歩き出す前の準備から、山で過ごす夜、朝早くからのハイク、歩き終えたあとの休息まで。これらをひと続きの体験として支えてくれる。山を“頑張って登る場所”に留めず、感覚をひらいて未知の景色に出会う旅先へと変えてくれる場所だ。

尾瀬の代表的な玄関口・鳩待峠に位置する「LUCY尾瀬鳩待 by 星野リゾート」。星野リゾート初の山ホテルブランド「LUCY」の第1号施設。

そもそも、尾瀬ってどんなところ?

福島県・栃木県・群馬県・新潟県の4県にまたがる尾瀬国立公園。至仏山(しぶつさん)や燧ヶ岳(ひうちがたけ)をはじめとする山々に囲まれ、尾瀬ヶ原と尾瀬沼を中心に、湿原・森林・清流が織りなす豊かな自然が広がっている。2007年に日光国立公園から分離し、周辺地域を編入して、日本で29番目の国立公園に指定された。

なかでも尾瀬ヶ原は、東西約6km・南北約2kmに及ぶ本州最大の高層湿原。雪解けのあとにはミズバショウ、夏にはニッコウキスゲ、秋には湿原が草紅葉に染まる。湿原を貫くように延びる木道を歩けば、視界を遮るものの少ない大きな空と山々が、感覚を広げていってくれるよう。

尾瀬は、ダム計画や道路建設など幾度もの開発の危機を多くの人の働きによって乗り越えてきた場所でもある。その歴史から「日本の自然保護運動の原点」とも呼ばれる。美しい景色の背景に、自然を次の世代へ手渡そうとしてきた人々の積み重ねがあることも、歩く前に知っておきたい。

”最高の尾瀬ハイク”は、前日からはじまっている。

「LUCY尾瀬鳩待 by 星野リゾート」のある鳩待峠は、尾瀬入山者の約6割が利用する代表的な入山口。尾瀬ヶ原や至仏山へ向かう起点であり、関越交通の乗合バス「鳩待峠」停留所から徒歩約3分というアクセスのよさも魅力だ。

多くの人が日帰りで通り過ぎる玄関口に、あえて泊まる。すると、ハイクの前後に余白が生まれる。前日に現地へ入り、天候やルートを確かめながら準備を整えて夜はしっかり休む。翌朝は混雑がはじまる前に歩き出す。帰ってきたら汗を流し、荷物を整えてから帰路につく。LUCY尾瀬鳩待が提案しているのは、宿泊を目的にする旅というより、翌日の自然体験をより深く味わうための“前泊”だ。

今年からは、チェックアウト後も14時までシャワー&パウダールーム、Food & Drink Station、ロッカーを宿泊者が利用できるように。散策に不要な荷物を預け、軽い身体で歩き、戻ってから身支度を整えられる。山での一日は、歩き終えた瞬間に終わるものではない。余韻まで心地よく持ち帰るための環境が用意されているのが嬉しい。

尾瀬ヶ原や至仏山への起点となる鳩待峠。ここに泊まることで、朝の時間をゆったりとハイクに使える。

なぜ「LUCY」? ”未知”へ踏み出した女性旅行家の名を受け継いで

「LUCY」という名前は、19世紀英国の女性旅行家であるイザベラ・ルーシー・バードに由来する。日本が開国へ舵を切って間もない1878年に来日し、東京を起点に北海道から関西までを旅した人物だ。旅や日本への好奇心を携え、未知の世界へ飛び込んでいった彼女の姿にインスピレーションを受け、「より多くの人が新しい旅体験へ踏み出すきっかけになりたい」という思いから、その名の一部がブランド名になったという。

山を見つめる女性を、やわらかなラインで囲んだブランドロゴにも「山で出会う感動を、快適性とホスピタリティで支える」という考えが表れている。未知へ踏み出すことと、安心して戻れる場所があること。その両方がそろって、はじめて好奇心がのびのびと動き出すのかもしれない。

山の不安をひとつずつほどく「6つのプロミス」

LUCY尾瀬鳩待が掲げるのは、「心地よい山時間のための6つのプロミス」。山では仕方がないと思っていた小さな我慢を取り除いてくれる。安心できる場所があるからこそ、不安に意識を奪われすぎず、目の前の光や風、音へ感覚を向けられる。

1|プライベートな寝室

客室は、ひとり旅に適したドミトリー・友人同士やカップルで利用しやすいツインルーム・ファミリーやグループ向けのフォースルームの3タイプで、全25室を備える。限られた山の空間でも、自分だけの領域を確保して休める造りだ。ドミトリーも壁に囲まれたひとり用の空間で、翌朝のハイクに備えて静かに過ごしたい人に心強い。

2|“いつも通り”が嬉しい温水洗浄トイレ

山へ行くとき、口に出しづらいけれど気になるのがトイレ事情。館内のトイレには温水洗浄機能が備えられ、普段に近い感覚で使える。こうした“いつも通り”があるだけで、初めての山滞在の緊張はやわらぐ。

3|シャワー&パウダールーム

客室フロアには、脱衣スペースを含めたゆとりのあるシャワールームと、大きな鏡、ドライヤーを備えたパウダールームを用意。ハイク後に汗を流せるだけでなく、早朝の身支度も落ち着いて整えられる。チェックアウト日の14時まで利用できるのも嬉しい。

4|肉・魚・卵の贅沢ごはん

夕食は、肌寒い山の夜にうれしい「LUCY豚汁ご膳」。大きめの野菜と豚肉、すくい豆腐を合わせた具だくさんの豚汁に、香ばしく焼いた鯖、半熟卵の揚げ出しなどを添え、歩く身体に必要なたんぱく質と満足感を届けてくれる。山の上であたたかい食事をゆっくり味わえることも、明日への大切な準備に。

5|ホテル内にラストコンビニ

24時間セルフレジで利用できる「Food & Drink Station」は、山へ入る前の“ラストコンビニ”。朝食向けの5種のいなり寿司やパン、行動中の栄養補給に便利なエナジーバーやゼリー、夜を楽しむビールやスナックまでが並ぶ。その日の体調と予定に合わせて必要なものを選べるので、「買い忘れたらどうしよう」という不安も軽くなる。

6|充電・Wi-Fi無制限

客室のベッドサイドからラウンジまで、館内各所で電源やUSBポート、Wi-Fiを利用できる。地図アプリを確認するスマートフォンも、旅の記録を残すデジタルカメラも、心置きなく充電できる。便利さを山へ持ち込むことは、自然から離れることではなく、安全に楽しむための土台にもなる。

レンズつきフィルムカメラを手に、1泊2日の尾瀬へ

今回の滞在には、レンズつきフィルムカメラを持っていった。シャッターを切っても、すぐには画像を確認できない。光量は足りているのか、ピントは合っているのか、現像するまでわからない。その不確かさごと旅の一部に。

予測できない自然の中で、仕上がりを予測できないカメラを構える。見慣れたデジタル画面をいったん手放したとき、一瞬を見つめる時間が少しだけ濃くなる。ここからは、LUCYで過ごした1泊2日の流れをたどってみよう。

旅のお供は昔懐かしいフィルムつきカメラ。現像するまで仕上がりがわからないことも、今回の旅の楽しみに。

DAY 1|到着した瞬間から、山時間へ

東京駅から上越新幹線で上毛高原駅へ。そこから車で鳩待峠を目指す。標高が上がるにつれ、車窓の緑は次第に深くなり、午後いちばんにLUCY尾瀬鳩待へ到着。まずは隣接する「はとまちベース Cafe & Shop by 星野リゾート」で昼食をとり、移動のリズムを山の時間へと切り替える。

鳩待峠に到着したら、まず、はとまちベース Cafe & Shopへ。山へ入る前後の食事や買い物に立ち寄れる。

〈mont-bell〉をはじめ、アウトドアブランドの商品も揃うのでハイクに繰り出す前に必要なものを購入することもできる。LUCY尾瀬鳩待オリジナルのグッズも必見だ。

14:00|チェックイン。館内を巡り、明日の準備を整える

14時、いよいよチェックイン。フロントで滞在について案内を受け、翌日の尾瀬ハイクを支えてくれる「LUCYハイクセット」もここで受け取る。必要なものが前日のうちに手元へそろうため、朝になってから慌てる心配がない。部屋でチェックリストを見ながら荷物を整えられることも、山に慣れていない人には大きな安心材料だ。

レンタルリュックや行動食などが入った「LUCYハイクセット」。

✔︎自分の旅にちょうどいい、3タイプの客室

まず向かったのは、山での一夜を過ごす客室。LUCY尾瀬鳩待には、ドミトリー・ツインルーム・フォースルームの3タイプがある。ひとり用のドミトリーは約2平方メートル。コンパクトながら壁で囲まれ、金庫やハンガー・歯ブラシ・バスタオル・スリッパを備えた自分だけの空間だ。一般的な相部屋の山小屋に慣れていない人も、人目を気にせず身体を休められる。

2名定員のツインルームは約6平方メートルで、友人同士やカップルの旅に。4名定員、約13平方メートルのフォースルームは家族やグループでも過ごしやすい。ツインとフォースには冷蔵庫も用意されている。どの部屋も明日の山へ向かうために、眠る、着替える、荷物を整えるという動作が気持ちよくできるよう、必要な機能が端正に収められている。

客室はひとり用のドミトリー(写真上)、2名用のツイン(写真中)、4名用のフォース(写真下)の3タイプ。旅の人数やスタイルに合わせて選べる。

✔︎山の景色を眺めながら過ごす、パブリックスペース

客室を出たら、宿泊者が自由に過ごせるパブリックスペースへ。大きな窓の外には鳩待峠の緑が広がり、ゆったり腰かけて翌日のルートを確認したり、同行者と話したり、ひとりで静かに過ごすこともできる。電源やUSBポート、Wi-Fiが整っているので、スマートフォンやカメラを充電しながら撮った写真を眺める時間にもいい。

山の施設では、客室に戻るか屋外へ出るかの二択になりがち。けれど、ここには“部屋でも外でもない場所”がある。天候が変わりやすい山で、予定を詰めずに待つ時間さえ、滞在の一部として受け止めてくれる空間だ。

尾瀬にまつわる書籍も。知識を深めながらゆっくり読書する時間が気分を整えてくれる。

✔︎24時間頼れる、山の“ラストコンビニ”

パブリックスペースに併設されているのが、24時間セルフレジで利用できるFood & Drink Station。朝食に選びたい5種のいなり寿司やパン、ドーナツのほか、ハイク中の行動食になるエナジーバーやゼリー、飲み物、夜のビールやスナックまでが並ぶ。オリジナルパッケージの「のむあんこ」は、歩く途中のエネルギー補給にも、お土産にも。

“最後に買い足せる場所がある”と思えるだけで、忘れ物への緊張は小さくなる。チェックアウト後も14時まで利用できるため、ハイク前の補給だけでなく、戻ってきてからの休憩や雨風を避けて荷物をまとめる場所としても頼りになる。

24時間利用できるFood & Drink Station。朝食、行動食、飲み物から夜のおやつまで、その日の予定に合わせて選べる。

一押しの行動食は「のむあんこ」(500円)!

軽食に加え、タオルをはじめとしたLUCYオリジナルアイテムが並ぶ。尾瀬を訪れた記念として手に入れたい。

旅に忘れ物はつきもの。「困った!」ときにあると便利な生活用品も。

✔︎シャワー、パウダールーム、温水洗浄トイレ。いつもの快適さを山でも

水まわりもじっくり確認しておきたい。シャワールームは脱衣スペースを含めてゆとりがあり、パウダールームには大きな鏡とドライヤーが。汗を流すだけでなく、スキンケアや髪を乾かすまでを落ち着いて済ませられる。すべてのトイレに温水洗浄機能が備わっていることも、普段の生活とのギャップを小さくしてくれる。

翌日は、チェックアウト後も14時までシャワー&パウダールームを無料で利用可能(貸出バスタオルは有料)。朝のうちに部屋を出ても、ハイク後に汗や泥を落とし着替えてから帰れる。山の帰り道まで気持ちよく過ごせることを知ると、明日の一歩がますます軽く感じられる。

身支度を整えられるシャワー&パウダールームと温水洗浄トイレ。山の中でも、普段に近い快適さがある。

✔︎荷物を預けて、歩く身体を軽くするロッカースペース

館内にはダイヤル式のロッカーも完備。ハイクに必要のない着替えや荷物を預け、身軽な状態で出発できる。チェックイン日の早朝から滞在中、さらにチェックアウト日の14時まで自由に使えるため、宿泊の前後を含めた行動が組み立てやすい。

館内をひと巡りすると、個室で眠れる、食べ物を補充できる、汗を流せる、荷物を預けられる、充電できる——出発前に気になっていたことへ、ひとつずつ答えが用意されているのがわかる。LUCY尾瀬鳩待の快適さは、余計な不安を手放し、自然へ意識を向けるためにある。

15:00|豆を挽く音と香りに耳を澄ます「はとまち珈琲時間」

宿泊者専用テラスで楽しめる「はとまち珈琲時間」では、道具を借りて自分の手で豆を挽き、コーヒーを淹れる。オリジナルブレンドは、尾瀬の広がりを思わせるような、のびやかな味わいを目指したもの。豆を挽く手触りや香り、山の午後の光。ひとつずつに意識を向けていると、目的地へ急ぐ旅ではこぼれ落ちてしまう感覚が戻ってくる。

コーヒーと焼き菓子を手に、これから歩く尾瀬へ思いを巡らせる時間。何もしないのではなく、明日の体験を受け取るために、感覚の速度をゆるめているようでもある。

豆を挽くところから楽しむ「はとまち珈琲時間」2,500円(1セット2名4杯分)。宿泊者専用テラスで、尾瀬の自然を感じながら一杯を味わう。

17:00|歩くための身体を満たす「LUCY豚汁ご膳」

夕食には、湯気の立つLUCY豚汁ご膳を。具だくさんの豚汁を中心に、肉、魚、卵をしっかり摂れる献立は、“山の食事だから簡素”というイメージを心地よく裏切る。温かい汁物が身体に染み込み、お腹が満たされていくと、翌朝への緊張感も少しずつ落ち着いていく。

野菜と豚肉、豆腐がたっぷり入った豚汁を中心に、鯖や卵も味わえる「LUCY豚汁ご膳」。

18:00|明日使うものを、自分の手でつくる

夕食後は、「オリジナル熊鈴作り~パラコード編み体験~」に挑戦。好きな色のパラコードを選び、手を動かして編んでいく。パラコードは軽く丈夫で、緊急時には物を結んだり、けがの応急処置に役立てたりできる山の道具。完成した熊鈴は翌朝のハイクですぐに使える。

完成品を買うのとは違い、自分でつくったもので山に備えること自体が旅の記憶になる体験だ。

好きな色のパラコードを選んでオリジナルの熊鈴を制作。涼やかでよく通る音が心地いい。「オリジナル熊鈴作り〜パラコード編み体験〜」1,200円

20:00|明るさが消えると、見えてくるもの

宿泊者限定の無料アクティビティ「夜のはとまち星めぐり」が通年開催されている。標高1591m、街の明かりが届きにくい鳩待峠では、空の暗さそのものが新鮮に感じられる。望遠鏡で月をのぞいたり、天の川や流れ星を探したり。

望遠鏡にスマートフォンを取りつけて撮影する体験も用意。撮影後は館内のプリンターで印刷し、旅の記念として持ち帰ることもできる。

滞在した日はあいにくの雨模様。施設スタッフが自慢する星空を拝むことはできなかったものの、都会では味わうことのできない「夜の闇」とともに、静かな時間を過ごせたことも記憶に残る。

街明かりの届きにくい鳩待峠で、空と森の静けさに浸るアクティビティ「夜のはとまち星めぐり」。雨天中止。無料。

DAY 2|朝いちばんの尾瀬へ

朝5時30分、Food & Drink Stationで朝食を選び、6時15分にホテルを出発。前日に受け取ったLUCYハイクセットには、22Lのリュック、ドリンク入りの水筒、行動食、尾瀬ハイクの栞、携帯用クッションなどが揃う。初めてでも準備の抜けを確認しやすく、荷物をイチから買い揃える負担も軽減してくれる。

ガイドの目を借りると、景色はもっと面白くなる

この日の案内役は、尾瀬登山ガイドの資格を持つ館山美和さん。長く尾瀬を歩いてきたプロフェッショナルだ。今回たどったのは、鳩待峠から山ノ鼻へ下り、尾瀬ヶ原に入って牛首分岐付近まで進み、同じ道を鳩待峠へ戻るルート。途中で山の鼻ビジターセンターと植物研究見本園にも立ち寄った。

自分たちだけで歩いていたら、きっと「きれい」と通り過ぎてしまった風景も、館山さんの言葉が加わると見え方が変わる。足元に咲く小さな花、葉の形や生育する場所の違い、湿原を行き交う昆虫たち。名前だけでなく、なぜここで生きているのか、周囲の環境とどう関わっているのかを聞くたびに、ひと続きに見えていた景色の一つひとつが目に飛び込んでくる。

ガイドと歩く楽しさは、答えを教えてもらうことだけではない。ひとりでは見落としていた小さな変化に気づき、自分の目でも次なる発見をしたくなる。尾瀬を知る人の目を一時的に借りることで、こちらの観察する力まで目覚めていく。

ここからは、フィルムつきカメラで撮影した写真とともに。

ガイドの館山美和さんと尾瀬ヶ原へ。植物や昆虫の話を聞きながら歩くと、風景の解像度がぐっと上がる。

鳩待峠から山ノ鼻へ。森の中を下っていく

鳩待峠を出発すると、まずはブナやダケカンバなどが生育する樹林帯へ。山ノ鼻までは、木道や木の階段をたどりながら下っていく。尾瀬と言えば平坦な木道というイメージが強いかもしれないが、湿原までの道のりでは、しっかりと高低差がある。帰りはこの道を上ることになるため、スタートから飛ばさず自分の身体の調子を確かめながら進みたい。

朝の森には、湿った土や葉の匂い、川の音、木々の間を抜ける光が満ちている。館山さんは歩みを止めながら、道のそばの植物や昆虫を次々と見つけていく。小さな存在に立ち止まるたび、ゴールへ向かうための道だったはずの樹林帯が、それ自体を味わう場所に変わっていった。

山の鼻ビジターセンターで、歩く前に尾瀬を知る

山ノ鼻に着いたら、尾瀬ヶ原の西端に位置する「山の鼻ビジターセンター」へ。館内には職員が常駐し、その時季に見られる自然や登山道の状況などを発信している。展示を通して、尾瀬の成り立ちや動植物、自然を守るための取り組みを知ることができるのも大事な学びの機会だ。

目の前の自然を、ただ美しい風景として眺めるだけでなく、その背景にある時間や人の働きを知ってから歩く。すると、この先に広がる湿原が、少し違って見えてくる。ビジターセンターは休憩地点であると同時に、尾瀬を見るための“予備知識”を受け取る場所でもある。

尾瀬ヶ原の西端にある山の鼻ビジターセンター。自然や登山道の旬な情報を得られる。

植物研究見本園で、季節の変化を間近に

ビジターセンター周辺の植物研究見本園にも立ち寄った。木道を歩きながら湿原を巡ることができ、季節ごとの植物や、湿原と水辺の環境を間近に観察できる。広大な尾瀬ヶ原へ出る前に、植物へ目を慣らすのにもぴったりだ。

花が咲いているときだけでなく、つぼみ、実、葉の色づきと、植物は絶えず姿を変えている。館山さんの解説を聞きながらじっくり眺めると、「いま、ここで見られるもの」は、長い季節の流れのほんの一場面なのだと気づかされる。

山ノ鼻にある植物研究見本園。木道を巡りながら、湿原に生きる植物を間近に観察できる。

視界がひらけ、尾瀬ヶ原へ。池塘(ちとう)が映すもうひとつの空

山ノ鼻を抜けると、樹林帯から一転して視界が大きくひらく。木道の先には湿原が続き、前方には燧ヶ岳(ひうちがたけ)、振り返れば至仏山(しぶつさん)。写真で見ていた景色が、風や温度、匂いを伴った立体的なものとして迫ってくる。

湿原のところどころに点在する、小さな水面=「池塘(ちとう)」。尾瀬ヶ原では、冷涼な気候と水分の多い環境によって枯れた植物が完全には分解されず、泥炭となって長い時間をかけて積み重なり、高層湿原を形成してきた。池塘は、その泥炭地に見られる特徴的な微地形のひとつだという。

遠くから見れば小さな水たまりのようでも、水面には空や山が映り込み、水生植物や昆虫などの生きものの営みの場所にもなる。館山さんの話を聞くまで、景色の一部として眺めていた池塘。成り立ちを知ったあとでは、約1万年という尾瀬の時間を内包する、特別なものなのだということがわかる。

牛首分岐付近まで。立ち止まるごとに、見えてくるもの

木道をたどり、牛首分岐付近まで進む。山ノ鼻から先は大きなアップダウンが少ない一方、日差しを遮るものも少ない。視界いっぱいの湿原に目を奪われながらも、木道から足を踏み外さないよう、一歩ずつ進んでいく。

館山さんが植物や昆虫を見つけるたびに、足を止めて耳を傾ける。早く遠くへ行くことよりも、その場所にある「生」へ目を向けることで、歩いた距離以上に尾瀬が深くなっていく。ガイドと一緒に歩くハイクは、“目的地へ着く旅”から“気づきを集める旅”へと変わっていた。

フィルムつきカメラの撮影枚数には限りがある。何を撮るか迷いながらファインダーをのぞき、「いまだ」と思ったところでシャッターを押す。きちんと撮れたかどうかを確認できないから、すぐ次の写真を探すのではなく、撮ったあとの景色をもう一度、自分の目で見る。そんな時間もこの旅で出会った新しい感覚だった。

来た道を戻り、鳩待峠へ

牛首分岐付近からは、同じ木道を山ノ鼻へ戻る。往路では燧ヶ岳へ向かって歩いた道も、帰りは至仏山を正面に望む道へ。同じ場所なのに、進む方向と時間が変わるだけで光も山の表情も違って見える。

山ノ鼻から鳩待峠までは、朝に下ってきた樹林帯を上り返す。湿原でひらいていた視界が再び森に包まれ、身体には一日の疲れがじわりと現れる。それでも、朝には名前も知らなかった植物や池塘を思い返すと、帰り道の景色はもう、出発時と同じ“知らない自然”ではなかった。

12:20|歩いたあとの時間まで、心地よく

ハイクを終えてLUCY尾瀬鳩待へ戻ったら、シャワールームで汗を流し、身支度を整える。軽くなった身体ではとまちベース Cafe & Shopへ向かい、二種の湯葉ときのこを合わせた十割蕎麦「湯葉きのこあんかけ蕎麦」(1,880円)と、尾瀬名物の花豆を使った濃厚な「花豆ソフト」(700円)をいただく。

歩き切ったあとの温かい蕎麦と、ひんやり甘いソフトクリームは、身体へのご褒美。急いでバスに乗るのではなく、歩いた景色を振り返りながら、旅の輪郭をゆっくり自分の中へなじませていく。

「何が写るかわからない」が、心を動かす

慣れた場所、慣れた人、いつもの手順。日常を滞りなく進めるためには、予測できることが安心につながる。一方で同じことの繰り返しが続くと、感覚も思考もいつの間にか決まった道筋をたどりやすくなる。

実は、この山旅のテーマとして「”新奇(しんき)体験”をすること」を掲げていた。”新奇体験”とは、これまで話したことのない人と話すことや、ひとりで海外旅行をすることなど、少しの緊張を伴う新しい経験のこと。新しい状況に出会った脳は、これまでの記憶を総動員しどう向きあうかを学ぼうとするのだという。(詳しくは「kiitos. vol.32」のP065で紹介しているので、読んでみてもらいたい)

大切なのは、無理を重ねることではなく、安心できる範囲から少しだけ外へ踏み出してみることなのだろう。初めての尾瀬を歩く。朝早く出発する。自分で熊鈴をつくる。そして、撮れた写真をその場で確認できないカメラを選ぶ。今回の旅には、ささやかな「初めて」がいくつも散りばめられていた。

フィルムつきカメラは、シャッターを押した瞬間に答えを返してくれない。だからこそ、光を読み、距離を考え、偶然にゆだねる。現像を待つ時間まで含めて、写真になる。その不便さは、すぐに正解を求めがちな日常から少し離れ、わからなさを面白がる練習にもなる。

そしてLUCY尾瀬鳩待が用意する快適さは、新奇体験と反対側にあるのではない。眠る・食べる・整えるという基本が守られているから、人は未知へ向かう余裕を持てる。安心と冒険の間に架けられた橋。それが、この山ホテルの役割なのかもしれない。

ブレも予想外の色も、そのときにしか生まれなかった旅の表情。

COLUMN|最高の尾瀬ハイクは、睡眠から。「スリープチャージステイ」

早朝に歩き出し、長い時間を自然の中で過ごす尾瀬ハイク。その前夜のコンディションづくりに着目したのが、寝具ブランド「ヒツジのいらない枕®」とLUCY尾瀬鳩待による「スリープチャージステイ」プランだ。コンセプトは「尾瀬を、一番軽い身体で歩く。」。

1日最大2室のドミトリールームを「ヒツジのいらないお部屋™」として整え、体圧分散性を特徴とする枕とマットレスを用意。誰にも気を遣わないひとり空間で、翌日のハイクへ向けて身体を休められる。

さらに、ホーリーバジルのハーブティー、クロモジの香り袋、首元を冷やす・温める両方に使える冷温ネックバンド「脳深凍ポータブル Produced by ヒツジのいらない枕®」を、オリジナルのコラボトートバッグに詰めた「スリープチャージセット」も進呈。味・香り・温度といった感覚から、眠りへ向かう時間を整える。

Food & Drink Stationには期間限定で、「ヒツジのいらない枕® ーマジックドームー」と「ヒツジのいらない尻枕®」を設置。プラン利用者以外も、夕食後のくつろぎやハイク後の休息に自由に試すことができる。最高の体験は、予定を詰め込むことからではなく、十分に休むことからはじまる。kiitos.が大切にしてきた休養の視点とも響きあう前泊体験だ。

「スリープチャージステイ」プラン概要
期間:~2026年10月24日(土)
部屋:ドミトリールーム/1日最大2室
料金:12,750円~(税込・夕食付)
内容:宿泊・夕食・3つの快眠グッズ(冷温ネックバンド、ハーブティー、香り袋)
予約:LUCY尾瀬鳩待 公式サイト
※内容や提供アイテムは変更となる場合があります。

新しい景色が、いつもの自分に風を通してくれる

新奇体験というと、遠い国への旅や大きな挑戦を思い浮かべるかもしれない。でも、いつもより早く起きること、知らない道を歩くこと、結果が見えないままシャッターを切ることも、日常の外側へ伸ばす小さな一歩だ。

尾瀬では、天候も光も咲く花も、同じ姿のままとどまってはいない。自分の思い通りにならない自然に触れると、ものごとをすぐに判断せず、まず受け取ってみる余白が生まれる。

「山へ行ってみたい」という好奇心が芽生えたなら、その気持ちを“不安だから”だけで遠ざけなくてもいい。眠る場所、温かい食事、身支度を整える環境が待つLUCY尾瀬鳩待を起点にすれば、山は少し身近な旅先になる。

知らない景色に出会うことは、いつもの自分に新しい風を通すことなのだ。

安心できる場所から、まだ知らない景色へ。LUCY尾瀬鳩待から、新しい山の旅をはじめてみよう。

INFORMATION|LUCY尾瀬鳩待 by 星野リゾート

所在地:群馬県利根郡片品村大字戸倉中原山898番14
電話:050-3134-8099(LUCY予約センター)
客室:全25室/ドミトリー12室、ツインルーム10室、フォースルーム3室
料金:1泊14,050円~(2名1室ツインルーム利用時1名あたり、税・サービス料込、夕食付)
施設:パブリックスペース、シャワールーム、ロッカースペース、Food & Drink Station、はとまちベース Cafe & Shop(※日帰り利用可)
アクセス:関越交通 乗合バス「鳩待峠」停留所から徒歩3分
2026年営業日:~2026年10月24日
公式サイト:https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/lucyozehatomachi/
Instagram:@lucy_ozehatomachi
※料金、営業日、各体験の内容・時間・料金は変更となる場合があります。最新情報は公式サイトをご確認ください。

edit&text:kiitos.

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