kiitos.

メイクアップアーティスト・yUKIさんの旅模様を綴る連載企画「温泉にいこうよ。」。ふたり、ときどきひとりで日本各地に点在する温泉へ。その土地でしか体験できない“あたらしい”を見つけに。

今に息づく伝統文化を愛でる旅へ

千古の伝統を誇り、北陸随一の温泉地として知られる石川県・山代温泉。高僧の行基が霊峰白山へ修行に向かう途中、一羽の八咫烏が羽の傷を癒す水溜りを見つけたのがおよそ1300年前と伝えられている。多くの文化人に愛された老舗旅館「白銀屋」の歴史を受け継いだ「界 加賀」は1624年から続く伝統を守りながら、新しい感性を散りばめた温泉旅館。伝統建築に触れながら加賀友禅、水引などの工芸に彩られた客室、美食家・北大路魯山人の料理哲学を宿す料理など、華やかな加賀文化に浸る滞在を叶えてくれる。

[旅する人]

yUKIさん|メイクアップ・アーティスト&ビューティーイノベーター

1990年渡仏、CHRISTIAN CHAUVEAUを卒業しディプロム取得。1998年帰国。ファッション誌やショー、広告で活動、女優・モデルからの指名でメイク担当することも。2009年には独自のメイクブラシブランド「yUKI MAKEUP」を立上げ、2019年「yUKI TAKESHIMA」としてリニューアル。その人本来の美しさを引き出すクリエイションに定評がある。Instagram: @yukimake

 

【DAY1】加賀文化に染まり、湯に癒される

15:00 美と歴史に心を馳せる旅時間のはじまり

2024年3月に開業した北陸新幹線・加賀温泉駅より車に揺られること約10分。山代温泉街に佇む「界 加賀」へ到着。眼に映るのは鮮やかな色彩を放つ“紅殻(べんがら)格子”。 “湯の曲輪(ゆのがわ)”と呼ばれる温泉情緒あふれる街並みをのんびりと歩きながら、新しい旅のはじまりに心弾むyUKIさん。

エントランスでは白銀屋の家紋である”ねじ梅”の暖簾がお出迎え。加賀藩主・前田利家公の家紋「梅鉢紋」と同じ梅が取り入れられ、前田家とのつながりも感じる。

伝統的な建築構法「枠の内」に触れられるフロントホール。金物を一切使用せず、大黒柱と大きな丸太梁で組み上げた吹き抜け天井の眺めは壮観。再現することは難しいとされ、その希少性の高さから「界 加賀」の伝統建築棟が、さらに国土の歴史的景観に寄与しているという理由から茶室「思惟庵」が国の登録有形文化財にも登録されている。開放感あふれるフロントを優美に彩る水引アートは、金沢に工房を構える「自遊花人」が手がけたもの。ダイナミックな空間との新鮮なコントラストで旅人たちを迎えてくれる。

館内の至るところに散りばめられているのが、伝統とモダンが融合したデザインやディテール。ふとした瞬間の視線の先にも旅の記憶に刻まれるような絵になる眺めが広がる。

15:15 チェックイン後、山の自然を映す茶庭を散策

京都の「植彌加藤造園」によって手がけられた「茶庭」は、白銀屋時代の植物を残しながら石川原産の椿、西王母など山の植物を調和させている。手取川から採石した石で白山から日本海へ注ぐ川の流れが表現され、傾斜が付けられた小径を歩くと山奥にある茶室へ足を運ぶようなイメージが浮かぶ。「物語のあるお庭からもお宿の素敵な雰囲気が伝わってきます」と丁寧にお手入れされた茶庭を散策するyUKIさん。

庭の奥にひっそり佇むのが書院造りの茶室「思惟庵」。青々とした緑と古の時が刻まれた庭石。

15:30 美と粋を奏でる「加賀伝統工芸の間」でひと休み

ローベッドとソファーを備えた和モダンな客室「加賀伝統工芸の間」。室内には石川・金沢エリアが誇る4つの伝統工芸「九谷焼」「山中塗」「水引」「加賀友禅」の魅力が散りばめられ、華やかな空間を演出。客室の表札やお部屋の鍵のキーホルダー、茶器なども「界 加賀」のために地元作家が手掛けたオリジナルで、伝統工芸の息吹きを肌で感じながら、五感を潤すひとときを過ごしたい。

七宝の紋様で加賀友禅をイメージしたベッドライナー(左)、ヘッドボードにあしらわれた「自遊花人」の水引(右)。どちらも加賀の工芸がもたらす繊細なニュアンスで快適な寝室空間を彩る。

(左)上品な輝きを放つ水引を施した障子が空間のパーテーションでもあり、モダンなアクセントに。(右)アメニティを包んだ風呂敷の藍色は凛とした城下町、加賀をイメージ。

全48室中、露天風呂を備えたお部屋は18室。滞在中、好きなタイミングでのんびりと温泉を堪能できるのも嬉しい。

16:00 山代温泉の泉質や湯治文化を学ぶ「温泉いろは」

湯守りとなったスタッフが山代温泉の歴史や泉質、1泊2日で温泉の効果を高める「現代うるはし湯治」について教えてくれる有意義なプログラム。“美人の湯”としても知られる山代温泉の泉質は弱アルカリ性。肌や皮脂の汚れを中和して落としてくれるので、身体を洗う時は泡立てたソープでやさしく撫でる程度で良いのだそう。温泉について勉強中のyUKIさん。熱心にメモを取りながら、旅先でもしっかりインプット。

16:30 九谷焼のアートが彩る至福の温泉タイム

九谷焼のアートパネルで歴史あるお湯に華を添えた大浴場。伝統的な4つの様式「色絵」「青手」「赤絵」「藍九谷」で、それぞれ加賀の「春」「夏「秋」「冬」を表現。男湯、女湯あわせて計8名の開業当時からご縁のある九谷焼作家が自由な発想でデザインした作品を眺めることができる。温泉の温度は副交感神経を刺激しない40〜41℃に調整されているのでゆったり浸かることができ、芯から温まって湯あたりしないのも魅力。「お湯が肌にも馴染んで、旅の前に荒れ気味だったお肌の調子も滑らかになりました。さすが美人の湯」。ギャラリーにいるような感覚でリラックスしながらお湯に浸かって、温泉旅の至福を満喫。

浴室の正面に飾られているのが四季を表す九谷焼のパネル。「青手」による道場八重さん作『夏の風景』(上)は、大胆でエネルギッシュな季節を表現。赤一色で緻密な細描を施す「赤絵」で秋を描いた『とわに』(下)は、福島武山さんと有生礼子さんの合作。

美しい自然光が降り注ぐ露天風呂は、さわやかな風を感じながら内湯とはまた違った雰囲気で湯浴みを堪能できる。

17:30 入浴後、加賀提灯を眺めながらリラックス

湯上がり処の天井には、金沢の希少伝統工芸に指定されている「加賀提灯」が並ぶ。白銀屋の家紋「ねじ梅」を囲むように雲と桜の花びらが描かれ、自然界の天と地を表現。入浴後は金沢の養蜂場で作られている蜂蜜と石川県の柚子をブレンドした「加賀柚子みつ」でしっかり水分補給を。

温泉のメカニズムや湯治の歴史、泉質の解説などを紹介したパネルを展示した「温泉ギャラリー」。「温泉いろは」で教わったことのおさらいにもぴったり。

19:30 美食家、魯山人の思想が受け継ぐ特別会席

白銀屋時代から縁の深い北大路魯山人が唱えた「器は料理の着物」という料理哲学を軸にした「器と料理のマリアージュ」で加賀が誇る九谷焼はじめ、山中塗の漆器が北陸の旬の味を運んでくれる。夏の季節はのどぐろや鮑、冬の漁解禁と共に会席の一品として提供される名物料理「活蟹のしめ縄蒸し」など、新鮮な食材を腕に寄りを掛けて仕立てた献立は口福と眼福の極み。彩り豊かな八寸の一品、宝楽盛りの小箱は九谷焼の工房「萌窯」のもの。形や柄もそれぞれ少しずつ違っていて、手づくりの温かみが器からも伝わってくる。

先付けは白山地方特産「堅豆腐昆布茶〆め」。重たい石で水分を押し出して手作りされた豆腐は枕にもなると言われているほどの堅さで、この地方の伝統食。加賀野菜の金時草味噌を添えて自然の風味をじっくりと味わいたい。小花のモチーフが添えられた水引の籠は「自遊花人」のもの。九谷焼との調和が美しいプレゼンテーションにも注目。

蓋を開けた途端、木の芽の香りがふわっと広がる「のどぐろの土鍋ご飯」。“白身のトロ”とも呼ばれる脂が乗ったのどぐろは、夏はもちろん一年中美味しくいただけるお魚。日本海の恵みをご飯でも召し上がれ。

21:00 「べんがらラウンジ」で美酒に酔いしれる

2024年3月、伝統建築棟にオープンした「べんがらラウンジ」で食後酒を。山代温泉を象徴する「古総湯」を同じ眼線で眺められるのは「界 加賀」のこのラウンジだけ。「九谷焼」「山中塗」など約100種類の器から好みのものを選んで、北陸のお酒とおつまみをオーダーできる。「美味しいお酒をいただきながら、紅殻格子越しに“湯の曲輪”の街並みを眺める。加賀で育まれてきた時の流れに心を馳せながら、伝統とモダンが融合したエキセントリックな空間で贅沢な時間を過ごせました」。

yUKIさんが選んだ器は花詰様式の鈴木朋子さん、唐草模様が印象的な道場八重さんのお皿。それぞれに煌びやかさと繊細さを併せ持つ九谷焼ならではの魅力にあふれる。

金沢の方言で「はべん」と呼ばれるかまぼこをアレンジしたピンチョスと香の物を組み合わせたおつまみ、お酒をこよなく愛するスタッフがセレクトしたメニューの中からオーダーしたのは、金沢にある「アレンビック大野蒸留所」のクラフトジン「Alembic Gin HACHIBAN」。世界3大コンペティションで金賞受賞を果たした銘酒の味わいにyUKIさんもうっとり。

「“九谷五彩”の赤、緑、黄、紫、青の色彩の九谷焼の器は食事を華やかに際立たせるだけでなく、小さなお皿一枚一枚を愛でながら、料理をいただくことの豊かさを教えてくれたように思います。おすすめのクラフトジンも柑橘系の華やかな香りが口の中に広がって、これからの季節にぴったりな美味しさでした」

■日程:通年(20:00〜22:30)
■料金:3,500円
■定員:4組(1組2名まで。要予約)

21:30 平穏無事を願う”ご当地楽”「加賀獅子舞」を鑑賞

“神付く”という縁起担ぎと語呂合わせによる魔除けの効果から、獅子舞に噛まれると邪気が払われ、縁起が良いとされて親しまれてきた金沢市無形民俗文化財の加賀獅子。「八方睨み」と呼ばれる独特な風貌の獅子頭は、一度見たら忘れられないほどのインパクト。初代加賀藩主、前田利家の時代より受け継がれてきた勇壮な武家文化の伝統を今に伝えてくれる。

「ご当地楽 加賀獅子舞」
■日程:通年(21:30〜 ※冬季は9:45〜)
■料金:無料

22:30 日々の疲れリセットし、快眠を誘うマッサージ

入浴後、全身が温まり筋肉の凝りが解された状態で受けるマッサージは、質の良い睡眠への導入に効果的。「身体もほぐれて旅の移動疲れもすっかり解消しました。今晩はぐっすり眠れそうです」

23:30 快適な睡眠は上質な旅に欠かせないエレメント

寝室のベッドは、星野リゾート×日本ベッドが“心地よい和”にこだわった「ふわくもスリープマットレス」。芯で身体を支え、ふわっとした雲のような寝心地が感じられるベッドが極上の眠りを約束。

加賀の伝統文化に触れ、北陸の豊かな恵みをいただいて五感が喜ぶ贅沢な時間を過ごした一日目。次回は「界 加賀」で迎える朝の過ごし方、伝統美の世界をさらに深める「茶の湯」「金継ぎ」体験などをお届けします。楽しい湯治旅の続きをお楽しみに!

TIPS FOR TRAVEL|旅服コーディネート&メイク事情

旅もおしゃれも大好きなyUKIさん。1日目の旅スタイルとメイクのこだわり、愛用のトラベルアイテムをご紹介。

[DAY1]

✔︎旅服コーディネート

「デニムonデニムのワントーンコーディネートにステンカラーコートを重ねました。コートはパリ時代に出会った70年代のヴィンテージ。フレッシュなデニムの表情と正統派クラシカルな雰囲気をミックスさせた旅スタイルです」

・コート/バーバリー
・ジャケット/ヘルムート・ラング
・パンツ/ヘルムート・ラング
・シューズ/コンバース
※すべて本人私物。現在販売を終了している商品もあります。

✔︎旅メイク

「夏のきれいな光を意識して、ビビッドなオレンジ色のリップをアクセントにしました。ピアスの色をリンクさせて、遊びを添えています。偶然ですが紅殻格子の色とリンクしていて嬉しい驚きでした。旅先の街の色や感じたエネルギーをおしゃれやメイクに反映すると、自然や街の風景と一体感を感じられてまた違った旅の楽しみが広がります」

・リップ/エルメス ウルトラヴィオレ レ マン
・アイブロウ/ジルスチュアート ムースブロウマスカラ(15 pink beige)
・マスカラ/ユエリーニュ サロゥ フィルム マスカラ[クレイ]
・チーク/hince トゥルーディメンションレイヤリングチーク(ベアハーモニー)
※現在販売を終了している商品もあります。

✔︎旅の必需品

「旅に欠かせないナイトセットです。シルク100%のインナーは温泉で肌を整えた後、保湿成分で肌を保護してくれる優れモノ。肌に一番近いものだからこそ心地いいものを選んでいます。旅先で疲れた肌を休ませてくれるフェイスマスクも必須のアイテム。美容液は季節の変わり目など荒れやすい肌や赤みを整えてくれます」

(左から時計まわりに)
ランジェリーク/シルクフライス
コンダンセ パリ/コンソントレ アペザン アンティ ルージュ(敏感肌用美容液)
ルハク/美容乳液シートマスク
※すべて本人私物。現在販売を終了している商品もあります。

今回のお宿は…「界 加賀」

多くの文化人を迎えてきた老舗旅館「白銀屋」を受け継ぎ、加賀友禅や水引など伝統工芸を散りばめた客室、迫力の加賀獅子舞など伝統とモダンが融合した温泉旅館。高級魚ののどぐろや『ミシュランガイド富山・石川(金沢)』に紹介された名物料理「活蟹のしめ縄蒸し」など、日本海の幸をふんだんに味わえる季節の会席料理を九谷焼や山中漆器とのマリアージュで楽しめる。

住所:石川県加賀市山代温泉18-47
電話:050-3134-8092(界予約センター)
アクセス:【電車】JR加賀温泉駅より車で約 10 分【車】北陸自動車道 加賀ICより約15分【飛行機】小松空港からレンタカー・タクシーで約30分
料金:1泊 31,000円〜(2名1室利用時1名あたり、サービス料込・税込、夕朝食つき)
URL:https://hoshinoresorts.com/ja/hotels/kaikaga/

 

photograph:Makoto Shamura
design:Atsushi Aihara
text:Ayako Watanabe
edit:kiitos.

 

 

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