FASHION
オーバーオールとタンクトップでヘルシーな夏を楽しむ【FUDGE 7月号連動企画-夏を楽しむための11のアイデア-No.005】
連載『お洒落さんのためのファッション用語辞典』では、トラッドファッションから最新のファッションまで、FUDGEでおなじみのファッション用語についてわかりやすく解説します。第58回目は「リュックサック」「ディパック」「バックパック」の違いについて。いまでは区別せずに使われることが多い3つの名称も、ルーツはひとつでした。始まりは同じでも、なぜ3つに分かれていったのか。今回はそのわけを探ります。この連載を読んでファッション用語の背景や起源を知れば、毎日のお洒落がより楽しくなること間違いなし!
Index
【用語解説】まずは「リュックサック」「デイパック」「バックパック」を知ろう。
「リュックサック」はドイツ語のruk(背中の)とsack(袋)が一緒になった言葉で背嚢(はいのう)、つまり背中に背負うかばんを意味し、もとは登山用の背負い袋の総称でした。現在は、素材の開発により機能化、軽量化されて、使う用途によっていろいろな種類が揃っています。
「デイパック」は日帰り旅行用の小型リュックサックのことをさします。物の取り出しに便利なように、ジッパーで大きく開閉ができるようになっています。本格的な登山用からタウンで使うものまで種類は多数あります。
「バックパック」はアルミニウム合金のフレームの取り付けられた、大型のリュックサックです。体型や目的、技術に合わせて機能的に考えられています。生活用具一式を背負い、自然の野山を旅するスポーツ、バックパッキングのためにアメリカで開発された道具です。
とはいえ今や、ファッション、タウン仕様においては、大きく区別せずに使うことがほとんどです。
【歴史】漁師が獲物を運ぶのにいちばん楽だったからこのカタチが生まれた?!
パッと目を引く鮮やかなバックパックとスニーカー。彼女のトレードマークは小物にあり!
「リュックサック」「デイパック」「バックパック」をまとめて、‟背中に背負うかばん”と考えた時、その起源は山岳地帯の猟師達がしとめた獲物を背負って運ぶために考案した袋状のものではないかと思われますが、はっきりとしたことはわかっていません。初期は、一方の肩にのみ掛ける、ショルダーバックのような仕様で、そのうち、運搬時の安定的に運搬しやすく、肩への負担を軽減するには、「背中に背負う」ほうがいいだろうと、形状が変化していったとも言われています。
【雑学】ルーツは同じ「背負い袋」が3つの呼び名が分かれたわけは?
「リュックサック」はワンダーフォーゲル(青少年の野外活動)の発祥の地、ドイツでの‟背負い袋”の呼び名です。日本では登山と言えば山岳信仰だったのが、明治以降スポーツとしての側面を持つようになっていきましたが、その際、手本にしたのがワンダーフォーゲルと言われ、近代登山文化が定着するにつれ、「リュックサック」そのもの、また「リュックサック」という名称も、一般的に知られるようになりました。カラビナやアイゼンなど登山で使われる道具はさまざまありますが、その大半がドイツ語由来だと聞くと、納得できるのではないでしょうか。
一方で「 バックパック」は、ドイツ語の意味をなぞって、バック(背中)パック(袋)という2つの英語がくっつき、英語圏内、特にアメリカで使われるようになった言葉で、今でもアメリカ国内では「リュックサック」ではなく「バックパック」が一般的に使われています。誕生したのは1952年の南カリフォルニア。アウトドアブランドである《KELTY(ケルティ)》の創業者であるディック・ケルティによるアイデアでした。当初はアルミ製フレームにナイロン製のコンパートメントが取り付けられたデザインで、それが時間をかけて変化していき、やがてプロの登山家たちに使用されるようになりました。たとえば「バックパッカー」は、ヒッチハイクをしながら低予算で旅をする人々のことをさしますが、彼らが愛用したのがまさに「バックパック」。日本では1980年代にバックパッキングが知られるようになり、それと同時に、「バックパック」という言葉も広まっていきました。
「デイパック」も「バックパック」の生みの親、ディック・ケルティが開発したものです。「Day(1日)」と「Pack(袋)」の2語を融合させた言葉で、断崖絶壁に挑むクライマー向けに作られたものでした。身軽な装備で断崖の頂きを目指すクライマーは、いざ登頂すれば、その絶景を眺めながら自然を楽しむための食料や衣類を袋にまとめて崖の下に置いていき、タイミングを見計らい、くくりつけておいたロープで引き上げていました。このときに使いやすいようにと、「バックパック」より軽量かつコンパクトにデザインされたのが、「デイパック」の原型です。
いま、私たちは「リュックサック」も「デイパック」も「バックパック」も、そう違いがないものだと思って使っていますし、言い分けることもほとんどありあせん。その背景として考えられるのは、アウトドアとタウンに大きく線を引かないようになり、街中でもアウトドアスタイルをファッションとして楽しむようになったことが挙げられるでしょう。いずれにも、「両手が空いてラク!」「手さげより背負ったほうが荷物の重さを感じない!」……というメリットが多く、どこにいたって使いなくなるのは当然です。
ただ、もしも本格的に山登りやハイキングなどを楽しみたい時がやってきたら、その時には、「あ、じゃあ、リュックサックじゃなく、デイパックにしようかな」とか「バックパックを背負って、ヒッチハイクに挑戦してみるか」といったふうに、本来の用途を思い出してみるのも、悪くないかもしれませんよ。
監修:朝日 真(あさひ しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。早稲田大学文学部卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』共同監修。NHK『テレビでフランス語』テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。文化出版局『SOEN』他ファッション誌へ寄稿多数。NHK「美の壺」他テレビ出演。
illustration_Sakai Maori
edit & text_Koba.A
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