CULTURE & LIFE
外山夏緒さんの物語の連載【誰かの話】10話めは、「トモコさん」のお話です。
10. 幸せのコーヒー豆の数
トモコさんが仕事を辞めて、早1カ月。
お金もないので旅行など行くわけでもなく、
かといって、昼間に家にいるのは忍びなく、
トモコさんは、この1カ月、駅前のコーヒーショップに来ては、
毎日コーヒー一杯で、何時間もそこで時間を潰していた。
仕事を辞めた時にもらった花束はとうに干からび、
ドライフラワーの成り損ないみたいなオブジェが、
朝、家を出る時に玄関先でトモコさんを見送っている。
トモコさんはいつも、お店の一番奥の席でぼんやり店内を眺め、
少しでも昨日と違う部分がありはしないかと探してはいるが、
今のところ、この1カ月の間、特別な変化は見当たらない。
だからトモコさんはお店の壁に大きくかかっている
コーヒー豆のありがちな写真を眺め、
写真の中の「コーヒー豆の数」を数えることで、
毎日コーヒーショップで時間を潰していた。
しかし、もしかしたら、
このお店に飾られている、そのコーヒー豆のありがちな写真の中の
「コーヒー豆の数」を正確に把握しているのは、
今のところ、この世界にトモコさんたった一人だけかもしれない。
もし万が一、
他にもその写真の中の「コーヒー豆の数」を知っている者がいたら、
それはきっと奇跡だから、
トモコさんの生涯で一番の親友になれる人であろう。
つまりそのコーヒー豆の数を、誰も知らなかった場合は、
「この広い世界の中でトモコさんだけが知っている」という称号を得られるし、
誰か一人でも知っていたら、
「この広い世界の中で奇跡に値する生涯の親友」を得られることになる。
だからトモコさんは、これから生きていく世界に期待をすることを
簡単に辞めてはいけない。
1カ月の間、玄関先に放置されている干からびた花束が、
トモコさんを讃えている。
絵をはじめ、詩や物語の制作、それらで展開したインスタレーションを行うなど、多岐にわたって活動をしている、gungulparmanの外山夏緒さん。この連載は、彼女が自身のWEBで発表していた「誰かの話」を「ラジオと火星人とコーヒーフロート篇」として、新たにグラフィック作品を加えてお届けしていきます。この世界のどこかにいるかもしれない「誰か」の日常を切り取ったお話を、お楽しみください!
Text & Illust_Toyama Natsuo
外山夏緒
2015年より、絵や詩、物語で展開したインスタレーションなどの美術活動をスタート。他、イラストレーション、空間装飾、グラフィックデザインなどで活動中。その他、自身のプロダクトブランドgungulparmanでの商品制作やアートワークなども行う。
WEB:gungulparman.com
Instagram:@gungulparman
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