CULTURE & LIFE
毎週テーマに合わせて、「アーティスト」が選曲したプレイリストを紹介してきた、連載《火曜日のプレイリスト》。今月から隔週にてアーティストに登場いただき、「インタビュー」と「プレイリスト」をお届けします。
今回は活動10周年を迎えた、青葉市子さんに登場いただき、新作『アダンの風』についてインタビューをお届け!“架空の映画のためのサウンドトラック”をコンセプトに創りあげ、幻想的な世界に浸れる一枚。そして、青葉市子さんにファッションにおける3つのルールも教えてもらいました。
2020年にデビュー10周年を迎えた音楽家の青葉市子。新作『アダンの風』は沖縄の島々に長期滞在した際に着想した物語をもとに、「架空の映画のためのサウンドトラック」として制作された。音楽家の梅林太郎を作編曲に、サウンドエンジニアには葛西敏彦を迎えて、これまで以上に多彩な音楽性が織り込まれた楽曲の数々。そして、写真家の小林光大が撮影した写真がイマジネーションを掻き立てる本作は、聴く者をどこか不思議な場所へと連れて行ってくれる。10年という節目を迎えた青葉市子が、表現者としての新境地を切り開いたアルバム。
Index
- 1 ーー『アダンの風』は架空のサウンドトラックとして制作されたそうですね。どんな風に作り上げていったのでしょうか。
- 2 ーー頭に浮かぶ映像を音楽に置き換えていった?
- 3 ーー音にしていく段階で、作曲家の梅林太郎さんが曲作りに参加されています。誰かと共同でアルバム制作をするというのは初めてですよね。
- 4 ーー違う感性が加わることで、アルバムに広がりが生まれているように感じました。使われている楽器もこれまで以上に多彩でイマジネーションを刺激します。
- 5 ーーアルバムを作る前に、南の島の文化や海の生き物など色々と下調べをしたそうですね。何か印象に残る発見はありましたか?
- 6 ーー光る海ぶどうが生き物みたいに見えた?
- 7 ーーなるほど。聴く人それぞれの胸の奥にクリーチャーがいるわけですね。そのユニークな物語を作っていく段階で面白いのは、アルバム制作をスタートした段階から、写真家の小林光大さんが参加されていることです。
- 8 ーー小林さんの写真を使ったCDのブックレットも凝っていますね。詩と写真で構成されたアートブックみたいな仕様になっていて。
- 9 ーーブックレットを見ながら音楽を聴くことで、さらに世界が広がりそうですね。
ーー『アダンの風』は架空のサウンドトラックとして制作されたそうですね。どんな風に作り上げていったのでしょうか。
「まず、私が物語のプロットを考えて、シーンごとに重要なことをメモしていきました。太陽の位置や気温なども考えながら、本当に映画を作るように細かくシーンを組み立てていきます。例えば台風が近づいているシーンならば、きっと雲はちぎれていて生ぬるい風が吹いている。それを表現するためのストリングスは、ただ美しいだけではなく、地響きのような不穏さを持つようなアレンジにしたり」
ーー頭に浮かぶ映像を音楽に置き換えていった?
「はい。(アルバムの1曲目の)〈Prologue〉の出だしから脳内にはカメラがあります。最初に空撮、次に船を撮って、別のカメラでは波を狙ってから少女の足、そして、顔へとのぼっていく。じゃあ、カメラは3ついるなと(笑)。プロットからわき起こるイメージや映像、五感で感じるものを、細かく音に置き換えていきました」
ーー音にしていく段階で、作曲家の梅林太郎さんが曲作りに参加されています。誰かと共同でアルバム制作をするというのは初めてですよね。
「これまでは歌とギターでの弾き語りでソロアルバムを作ってきましたが、実はアウトプットが弾き語りなだけで、頭の中ではいろんな楽器の音色が鳴っていました。今回は、楽器や楽譜の専門的な知識が豊富な梅林さんにそのことをお話しして、具現化するための素晴らしい魔法をかけて頂きました。一つのプロットを軸にして制作していくのですが、梅林さんの経験されてきた人生の記憶や癖などが混ざっていくことで、より物語が豊かになっていくのが、本当に楽しかったです」
ーー違う感性が加わることで、アルバムに広がりが生まれているように感じました。使われている楽器もこれまで以上に多彩でイマジネーションを刺激します。
「ハープが鳴れば何かが風になびいているような美しい風景が浮かびますし、そこにチャランゴという南米の楽器の音色が入ってきたりすると、どこにもないような不思議な場所が見えてくる。そういう音の組み合わせは、梅林さんの魔法です。今回は世界中のハーモニーやガムランの響き、島唄など、いろんな要素を取り入れています。それぞれの音楽が生まれた土地は違いますが、もっと広く考えてみると、同じ星で生まれた音楽たちですよね。星のかけらを混ぜることで、新しい星を作るような感覚がありました」
ーーアルバムを作る前に、南の島の文化や海の生き物など色々と下調べをしたそうですね。何か印象に残る発見はありましたか?
「プランクトンが光る理由です。プランクトンは求愛する時に、自分がここにいる、ということを知ってもらいたくて発光するそうなのです。それって、私たち人間も同じだと思ったんですよね。嬉しかったり、誰かに気持ちを伝えたいと思った時に胸が暖かくなったりする。そんなことを考えていた沖縄滞在中、居酒屋さんで海ぶどうを光に透かしてみたら、まるでプランクトンみたいに発光しているように見えたんです。それがクリーチャーに思えて……」
ーー光る海ぶどうが生き物みたいに見えた?
「クリーチャーといっても、映画に出てくる怪物みたいなイメージではないんです。例えばお母さんにだっこされた時のことや、何か嬉しかった時の記憶を思い出した時に、胸がホカホカしたり煌めいたりする。そういった輝きをクリーチャーと名付けて物語を作っていきました」
ーーなるほど。聴く人それぞれの胸の奥にクリーチャーがいるわけですね。そのユニークな物語を作っていく段階で面白いのは、アルバム制作をスタートした段階から、写真家の小林光大さんが参加されていることです。
「小林さんとは一緒に南の島を回りながら、その時々に心惹かれたものを撮影しました。小林さんが撮った写真に刺激を受けて梅林さんが曲を書いたり、その曲を聴いて私が詩を書いたり、プロットを書き直したり。みんなで影響を与えながら、ひとつの世界を作り上げていきました」
ーー小林さんの写真を使ったCDのブックレットも凝っていますね。詩と写真で構成されたアートブックみたいな仕様になっていて。
「CDのアートワークの中にも物語の流れを感じて頂けたら良いなと思いました。ブックレットでは、印刷屋さんも試したことがなかった薄い紙に印刷してもらって、2〜3枚先まで見えるようにしています。そうすることで、写真と詩が混ざり、1曲目を聴きながら4曲目の気配も感じられる。ペラペラと風に靡かせると、とても良い音がします」
ーーブックレットを見ながら音楽を聴くことで、さらに世界が広がりそうですね。
「そうですね。今回のアルバムは、聴いてくださった皆さんの心のなかに存在する島に行くためのサウンドトラックでもあるんです。その航海が素晴らしいものになりますようにと、願いを込めて」
”青葉市子”が教える、ファッションの【Myルール】とは?
アーティストにお洒落の極意を教えてもらう【MYルール】。”衣はまとうおまじない”と言う、青葉さんにファッションにおける3つのルールを伺いました!トレードマークのヘアスタイルについてなど、必見です。
Rule1:衣はまとうおまじない
「人が服を着るというのは不思議だな、と思っていて。私はおまじないを纏うような気持ちで服を着ています。今日は、このニットのセーターと「碧い10月」柄のパンツ。ニットはKa na taの加藤哲朗さんがデザインされたもので、パンツはKa na taが傘屋さんのCoci la elleのテキスタイルとコラボレーションした時のもの。まるで皮膚と同化するような肌触りで、加藤さんが長野で過ごされているご家族とのあたたかい時間を、お裾分けしていただいているような気持ちになります。衣服そのものももちろん素晴らしいのですが、服が私の皮膚までやって来た道のりや背景もが、時間や空間を超えて守ってくれているような気がするんです。」
Rule2: カルセドニーの指輪
「小説家の山下澄人さんが芥川賞を受賞された時に、授賞式に呼んでくださったのですが、一緒に行くことになった飴屋さん(演出家の飴屋法水)のパートナー、コロスケさんが「山下さんが受賞した記念に、思い出の指輪を買おう。」とおっしゃって。私が買ったのはカルセドニーの指輪で、それ以来ずっとつけています。細かく石がカットされていて、飛行機に乗っている時など、太陽が石に反射して、機内にプリズムが輝いて美しいのです。その景色に遭遇するたび、山下さんや飴屋さん家族のことが浮かびます。」
Rule3: 18歳の時から変わらないヘアスタイル
「子供の頃はショートの時もありましたが、18歳の頃からずっとこのヘアスタイルです。曲名やアルバム・タイトルに「腸髪のサーカス」や『檻髪』とつけたりするくらい髪のことは意識していて、髪もお守りのひとつかもしれませんね。思い立った時にセルフカットすることが多く、先日は信頼おける人に家で切ってもらって、おまじないをかけてもらったようで嬉しかったです。」
青葉市子『アダンの風』
『Porcelain』MV
☞今作のアートディレクションを務めた写真家・小林光大が監督、注目の若手映像作家・Pennackyがカメラを務めたミュージックビデオ。楽曲とシンクロした、力強く、美しい映像美を堪能できます!
《青葉市子》音楽家。1990年1月28日生まれ。2010年にファーストアルバム『剃刀乙女』を発表以降、これまでに6枚のソロアルバムをリリース。うたとクラシックギターをたずさえ、日本各地、世界各国で音楽を奏でる。弾き語りの傍ら、ナレーションやCM、 舞台音楽の制作、芸術祭でのインスタレーション作品発表など、さまざまなフィール ドで創作を行う。活動10周年を迎えた2020年、自主レーベル「hermine」(エル ミン)を設立。体温の宿った幻想世界を描き続けている。12月2日、”架空の映画のためのサウンドトラック”として、最新作『アダンの風』を発表した。https://www.ichikoaoba.com/
【news】
1月29日(金)に『アダンの風』配信コンサートを開催!
12月にニューアルバム『アダンの風』を発表し、デビュー10周年を盛り上げる特別な展示となった
Ichiko Aoba Exhibition “ Windswept Adan ” を締めくくるイベント。1月20日がデビュー記念日となる青葉市子の、これまで発表してきた楽曲の中から、当日コンサートで聴きたい曲のリクエストを受付中。イベントのお申し込み時に記入して、参加してみよう!
※リクエストの〆切は1月27日(水)までのものを反映させて頂きます。
イベントの参加・詳細は下記をご確認ください。
https://store.tsite.jp/daikanyama/event/music/18238-1356410119.html
text_Murao Yasuo
design_Koinuma Kenichi
edit_Takehara Shizuka
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