CULTURE & LIFE
今週の《火曜日のプレイリスト》は特別版!
先日、待望の新作アルバム『燦々』が発売となった、いま注目のシンガー・ソングライター、カネコアヤノのインタビューを先週から2回に渡りお届け!2回目となる今回は……彼女が歌い続ける理由とは? 子供の頃から好きだった音楽について……。お見逃しなく!前回のインタビューはこちら。
日々の暮らしのなかで、ふと訪れるささやかな喜びやワクワクする気持ち。そんなかげがえのない瞬間を力強いバンド・サウンドに乗せて歌うシンガー・ソングライター、カネコアヤノ。
自主制作盤が次々とソールドアウトとなり、昨年リリースしたアルバム『祝祭』が様々なメディアで絶賛されるなかで、待望の新作『燦々』が完成した。前作同様、林宏敏(ギター)、本村拓磨(ベース)、ボブ(ドラム)というカネコアヤノが信頼をおくバンド・メンバーがサポート。前作以上にバラエティ豊かで、聴けば聴くほど心に響くアルバムに仕上がった。
そんな、いま注目を集めるシンガー・ソングライター、カネコアヤノのインタビュー第2弾! 彼女が歌い続ける理由とは? 子供の頃から好きだった音楽との関係について語ってくれた。
曲を書くことは、日記とか私小説を書くみたいなこと
ーカネコさんの歌声って、すごくダイナミックですよね。ささやくような声から思い切り張った声まで振り幅が大きい。
「曲を作っている時、家では小さい声で歌ってるから、スタジオで大きな声で歌うとなると、どうやって歌ったらいいかわからないんですよ。とりあえず歌ってみて、キーを下げたり、コード進行を変えたりしながら、歌い方を発見していく。歌入れの時に歌い方を考えるんです」
ー曲を作っている時の気持ちと、歌っている時の感情はまた違うんですね。
「どんな風に歌うのかは歌っている時の感情次第です。〈寂しい歌だから寂しく歌おう〉とかじゃなく、歌っている時に悲しくなったら悲しく歌っちゃうし、悲しい曲でも歌っているうちに楽しくなってきたら〈パカーン!〉ってなっちゃう。その時、歌いたいように歌ってしまいますね。とにかく、歌うのがいちばん楽しくて」
ーでも、子供の頃はシャイで人前で歌うなんてとんでもなかったそうですね。
「親の前でも歌ったことないです! 今は子供の頃とは全然違う人みたいな感じですね」
ーそんなシャイな性格が変わったきっかけって何だったのでしょう。
「やっぱり、歌うようになったことですね。歌うことは人の後押しで始まったので、最初は〈どうしたらいいんだろう…〉って戸惑ってたんです。でも、もともと音楽は好きだったので、徐々に歌うことが楽しくなっていって。それで前の事務所を辞めて、しばらくフリーでやってたんですけど、その時期に歌うことの恥ずかしさがなくなって、自分の意見もしっかり言うようになりました。前の事務所にいた時は、思っていることが言えないまま話が進むことが多かったんです。今振り替えて、〈あの時、ちゃんと言ってたらな〉と思ったりすることもあって。今も思っていることを言うのは恐いけど、後悔しないように言っておこうと思ってます」
ー音楽が勇気を与えてくれたんですね。
「人によって勇気を与えてくれるものは違うと思うけど、私にとっては音楽でした。音楽をやってなかったらヤバかったかもしれない。私にとって曲を書くのは、日記とか私小説を書くみたいなことなんです。できるだけそれをさぼらないようにしたいし、目の間に流れて行く物事を見落とさないようにしたいと思ってます」
ずっと普通を歌っていきたい
ーカネコさんの歌詞は言葉を飾り立てたりせず、とてもシンプルな言葉で、すっと耳に入ってきます。そのあたりも日常的ですね。
「〈ずっと普通を歌っていきたい〉って思ってます。私はすごく普通の人間で、それがある意味、コンプレックスでもあるけど、同時に良かったと思うところでもあるんですよね。奇をてらったことは好きじゃないし」
ーカネコさんの歌は人生のスナップショットみたいな気がします。カネコさんの心に触れた日常の瞬間を歌で捉えているというか。
「〈みんな空見てよ!〉って思うんですよね。歩いてても、ずっと携帯を見ている人が多いし。この前、街を歩いてたら夕陽がきれいだったんで写真を撮ってたんです。そしたら、通りすがりの人が〈何撮ってるんだろう?〉って気になって、それで夕陽に気付いてみんな写真を撮り出した。それは結構嬉しかったですね」
ーカネコさんの歌って、そういう効果があるかもしれないですね。歌を聴いて日常にこんな素敵な瞬間があったんだって気付かされる。
「だったら嬉しいですね。みんなに目覚めてほしいとか、そんなたいそうなことは願ってないけど、ちょっとしたきっかけになってくれたら良いなって思ってて。小さなことに感動できる人生だったら最高じゃないですか」
ーそうですよね。「ぼくら花束みたいに寄り添って」に「ケンカの後のアイスは美味しいね」というフレーズがありますが、アイスひとつで幸せになれる。
「それだけで一日幸せな気分でいられるじゃないですか。それで充分だと思うんですよね。最近、猫を飼ってるんですけど、〈この人、いま何を考えてるだろう?〉って考えるだけでも楽しくて」
ー『燦々』のジャケットの猫ですか?
「はい。日の出っていうんですけど、これまで孤独に暮らしていた家に人間じゃない生命体がいるだけで面白い。私が泣いていようが笑っていようが日の出には関係なくて、そこに救われますね。ギターを弾いている時は必ず近くで寝ているんですよ」
ーへえ、カネコさんの歌を聴いているんですね。
「かもしれない。すごく酔っ払って帰ってきた時は一目散に逃げるんですけど(笑)」
ーあはは。やっぱり、よくわかってるんですね(笑)。これからも歌は続けたいと思いますか?
「意地でも続けたいと思ってます。私は飽きっぽいし、いつも不安だし、豆腐みたいに弱い性格なので続けるのってすごく大変なんです。でも、その大変さと闘うことを諦めたくない」
ー「不安なまま朝を迎えてしまった/だからギターを弾くしかないんだ」(「明け方」)という歌詞もありますが、不安になって音楽をやって、また不安になって……その繰り返しですね。
「不安に負けないようにしつつ、自分がやっていることに満足しないようにしようとも思ってます。満足したら終わっちゃうから。だから、これからもずっと、音楽に満足することはないだろうなって思いますね」
》》》前回のインタビューはこちら!
》》》以前紹介した、『燦々』のレビューはこちら!
カネコアヤノ『燦々』
《カネコアヤノ》シンガー・ソングライター。弾き語りとバンド形態でライブ活動も展開中。2016年4月には初の弾き語り作品『hug』を発表、その後、続々と新作をリリース。2016年以降、新たなメンバーと大胆なバンドサウンドを展開し注目を集め、着実にファン層を広げていた中、2018年に発表したアルバム『祝祭』が多くの著名人やリスナーの年間ベストアルバムに選ばれる。さらにCDショップ大賞入賞作品にも選出されて、新たな日本のロックシーンの流れを象徴するアルバムとしてロングセールス中。1年半ぶりの新作アルバム『燦々(さんさん)』が発売中!「光の方へ」は11月公開の映画『わたしは光をにぎっている』の主題歌として書き下ろした楽曲。
text_Murao Yasuo
design_Koinuma Kenichi
edit_Takehara Shizuka
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