CULTURE & LIFE

隔週にてアーティストに登場いただき、新譜「インタビュー」、アーティスト自ら掲げたテーマによる「プレイリスト」、ファッションにおける「マイ・ルール」をお届けする、連載《火曜日のプレイリスト》。

今回はデビュー10周年を迎える、柴田聡子のインタビューをお届け!

ニューアルバム『ぼちぼち銀河』の制作秘話、パンデミックを体験して想像力が銀河までいったこと、10年という節目に芽生えた”自我”、”音楽”と向き合う変化についてなど現在進行形の柴田聡子をお届けします。

柴田聡子
《柴田聡子

今年でデビュー10周年という節目を迎えたシンガー・ソングライター、柴田聡子。独特の歌詞の世界、ポップでオルタナティヴなサウンドは作品ごとに進化してきた。前作『がんばれ!メロディー』では、イトケン、かわいしのぶ、岡田拓郎といった面々が「柴田聡子 inFIRE」というバックバンドを結成。ますます音楽性が豊かになるなかで、新作『ぼちぼち銀河』ではバンド・メンバーに加え、KanSano、谷口雄など多彩なゲストを迎えて、これまで以上に表情豊かな歌声を聞かせるアルバムに!

 

ーーアルバムを作り始めたのはいつ頃ですか?

去年の6月頃からちょこちょこ録音していたんですけど、エンジンがかかったのは10月くらいですね」

 

ーーパンデミックの真っ只中で作っていたんですね。精神的にキツくて創作活動が大変だった、というアーティストもいますが、柴田さんはどうでした?

「めちゃくちゃ食らいましたね。2020年の頃は訳がわからない状況を〈えいっ!〉って気合いで乗り越えていたんですけど、2021年になって落ち着いていくると、だんだん物事が見えるようになってきて、それがキツかったんです。そのキツさが極まったのが8月頃で、そこでギューッってなっていたものがバーン!ってハジけた。そうなることで、気持ちがアルバムに向かって行ったんです」

 

ーーふっ切れた、ということですか?

「あれは何だったんだろう。吹き飛ばされたって感じでしたね。それまで他人を軸にして考えてきたことを、もう何も気にせずに自分一人で決めていっていいのかも、と思うようになったんです。それって、ちょっと悲しいことじゃないですか。人との繋がりを考えないなんて」

 

ーーそうですね。繋がりが切れて銀河まで吹き飛んだ?

「そうなんですよー。まあ、私の想像力の限界が銀河だったんですけど(笑)。遠い場所の表現としては、ちょっと古いですよね。『銀河鉄道999』とか『スターウォーズ』を知っている世代の限界。今の若い世代だったら、もっと違う場所を目指していたかもしれない」

 

柴田聡子

 

ーーアース・ウィンド&ファイアとかサン・ラとか、R&Bやジャズの世界では宇宙をテーマにした作品が多いですよね。

「みんなギャラクシーに行っちゃいますよね(笑)」

 

ーーそういえば、今回のアルバムはこれまで以上にグルーヴが力強さを増しているような気がしました。今回初めてデモテープに柴田さんが打ち込みを入れたそうですね。

「パンデミックで時間があったんでプログラミングを勉強したんですよ。まだ初心者の段階なんですけど、どんな曲にしたいのか、大まかなイメージをバンドに伝えることができるようになったのは大きいかもしれないですね。これまでは自分で作った曲をじっくり考えたりすることはなくて、バンドの皆さんにお任せしていたんです。〈こんな曲にしたい!〉という欲があんまりなかった。でも、このアルバムからは、自分が何をやりたいのかちゃんと考えて曲を作ることにしたんです。そうすることが、バンドにとっても良いんじゃないかと思って」

 

柴田聡子

 

ーー確かに方向性が明確な方がアイデアを出しやすいかもしれません。

「ですよね。だから今回のアルバムではキャプテンとして頑張ろう、と思いました。キャプテン度を高めるには、曲のイメージをしっかり持って、そこにデモテープを近づけていくことが大事だと思ったんです。そう考えた時に、これは制作後に感じたことなんですけど、リズムが曲を作る上で一番大事なところだなって気がついたんですよ。多分、バンドのみんなが一番知りたいのはリズム。そのうえで、どうやって曲をカラーリングしていくか考えていくから」

 

ーー今回のアルバムを聴くと、柴田さんのキャプテン感が出てますね。そう感じたのは、歌の存在感が強まっているからかもしれません。音域、表現、いろんなところで挑戦している感じがします。

「今回のアルバムでは歌をすごく意識したんです。これまでは発声とか全然気にしていなかった。私は高音が尖りやすい傾向にあって、それをどうしたら良いのかと思って、アリアナ・グランデの歌を聴いて勉強したりしていました。高音の声の響かせ方、長く歌っても疲れない歌い方とか、いろいろ練習しましたね。歌声のコントロールを学ぶということは楽器の練習と同じで、やって良かったです。あと、曲を書く段階で自分の声のキーを意識しました。私は無理目なメロディーを書くことが多いので、ちゃんと出せるかどうか考えて」

 

ーー柴田さんの曲のメロディーはアクロバティックというかアップダウンが激しいですからね。

「そうなんですよね。レコーディングでなんとかなる、と思って割り切ってたんですけど、今回はライヴでもぎりぎり歌える、ということを考えて曲を書きました。でも、〈ぼちぼち銀河〉は歌えないかもしれないなあ(笑)」

 

柴田聡子

 

ーーヴォーカルに加えてコーラスもすごかったです。変なコーラスが満載で小さな柴田聡子が飛び回っているみたいでした。

「今回のコーラスは大変でしたね。歌入れとコーラスは1曲に1日かけていました。コーラスって大変だけど最高に楽しいんですよ。私が好きな女性シンガーの曲には、必ず凝ったコーラスが入っている。曲を書く時、私は楽器でメロディーが考えられないタイプで、まずコーラスを考えていくんです」

 

——変わったコーラスが多いですよね(笑)

「変わったコーラスこそ入れたい! それは野心としてありますね(笑)」

 

——思えば今年でデビュー10年目ですが、音楽に対する向き合い方に変化はありますか?

「ファースト・アルバム(『しばたさとこ島』)を出した時は何も考えてなくて。アルバムを出せたのは嬉しかったけど、なんで自分が音楽をやりたいのか、何がしたいのか、まったく考えていなかったんです。でも、4枚目のアルバム(『愛の休日』)を出した頃から大勢の人に聴いてもらいたいと思うようになった。いろんな人が手助けしてくれているのに、なんでバチっとしたアルバムが作れないんだろうと思うようになったんです。ようやく自我が芽生えてきたというか(笑)」

 

——それは大きな変化ですね。

「あと、最近になればなるほど、音楽をやっていることが自分にとってどれだけ大事なことなのかっていうのがよくわかってきました。昔はそういう意識は全然なかったんですよね。時が経てば経つほど、自分は音楽に救われてるな、と思うようになりました。作るだけじゃなく、聴くことでも救われている。感謝しかないですね」

 

——パンデミックとか戦争をとが起こると、なおさらそう思いますね。

「ほんとですよ。大事にしないとなあって思います。自分のことだけじゃなく、いま世界で音楽がどんな風に聞かれているのか。それがどういう状態なのかっていうのも、しっかり考えなきゃなって思うんですよね。音楽の世界の末端に携わっている者として。そして、バチッとした名盤を作りたい!って思ってます(笑)」

 


 

柴田聡子『ぼちぼち銀河』発売中!

デビュー10周年を飾る新作は、前作『がんばれ!メロディ』で聞かせたバンド・サウンドがパワーアップ。ロック、フォーク、R&B、ファンクなど、様々な音楽性を盛り込みながら躍動感溢れるグルーヴを生み出し、曲ごとに様々なアイデアが散りばめられていて、遊園地に迷い込んだような楽しさ満載。思いがけない展開をみせるメロディーを柴田聡子は自由自在に歌い、シュールな歌詞が日常を銀河に変えていく。アートな感性とポップな親しみやすさが絶妙なバランスで溶け合っていて、間違いなく現時点での最高傑作!

 

柴田聡子

photograh_Osada Kasumi

《柴田聡子 》シンガー・ソングライター/詩人。北海道札幌市出身。武蔵野美術大学卒業、東京藝術大学大学院修了。2010年、大学時代の恩師の一言をきっかけに活動を始める。2012年、三沢洋紀プロデュース多重録音による1stアルバム『しばたさとこ島』でアルバムデビュー。2016年、第一詩集『さばーく』を発売。同年、第5回エルスール財団新人賞<現代詩部門>を受賞。文芸誌や新聞への詩作の寄稿や『文學界』でのエッセイ連載など、詩人としても注目を集める。自身の作品発表以外にも、NHKEテレ『おかあさんといっしょ』やadieu(上白石萌歌)やRYUTistなどへの楽曲提供、映画『ほったまるびより』やドラマ『許さないという暴力について考えろ』への出演、ミュージックビデオの撮影・編集を含めた完全単独制作など、その表現は形態を選ばない。2022年、ニューアルバム『ぼちぼち銀河』のリリースとツアーが開催中。7月18日「柴田聡子 Tour 2022 “ぼちぼち銀河” 追加公演 (東京)」が決定。チケット発売中!https://shibatasatoko.com/

 


 

text_Murao Yasuo

design_Koinuma Kenichi

edit_Takehara Shizuka

 

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