CULTURE & LIFE

映画と『FUDGE』のコラボレーションを記念したWEB限定インタビュー
vol.3 監督/脚本|谷口悟朗/吉田玲子

発売中の『FUDGE』4月号では、100年前のパリを舞台に、夢を追いかける少女たちの物語を描いた劇場アニメ『パリに咲くエトワール』を大特集しています。

スペシャルインタビュー第3弾は、監督の谷口悟朗さんと脚本家の吉田玲子さんの対談をお届け。谷口さんは『コードギアス 反逆のルルーシュ』シリーズや『ONE PIECE FILM RED』などでダイナミックで印象的な世界観を創出し、吉田さんは『けいおん!』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』をはじめとした作品で人物の繊細な感情を丁寧に描き、それぞれ数多くのヒット作を生み出されてきました。『パリに咲くエトワール』の物語はどのようにして生まれたのか?パリのロケーションやファッションなどディテールへのこだわりは?ヒロインのフジコと千鶴に込めた想いなど、映画の舞台裏を語ってもらいました。

 

劇場アニメ『パリに咲くエトワール』ヒロインのフジコと千鶴

 

ーー劇場アニメ『パリに咲くエトワール』が生まれた経緯について教えてください。

谷口悟朗(監督)「プロデューサーからオリジナルの劇場アニメを作りませんか?というお話をいただいたんです。それだったら、アクションものとか異世界ものとか、ジャンルがはっきりした作品にせずに、男性でも女性でも、家族でも見てもらえる作品にしたいと思いました。そんななかで、絵になるパリを舞台にした作品はどうだろう、というアイディアが生まれたんです」

ーーそこでなぜ、100年前という設定にしたのでしょうか。

谷口「その時期のパリは文化的にも政治的にもいろんなことが起こっていて、いちばんパリらしいと思ったんです。でも、どんな物語にするのか、なかなか着地点が見出せなくて、脚本家の吉田さんに入ってもらうことにしました。吉田さんが考える素敵なものをいろいろ挙げてもらって、それを物語に反映させていったんです」

吉田玲子(脚本)「私がアイディアを出させていただいたことのひとつは、2人のヒロインの物語にするということでした。1人より2人の方がキャラクターの感情やドラマを描きやすいかなと。そして、その2人の対比をどうするのか、を監督と一緒に考えました。1人は活発でコミュニケーションを取るのがうまい子。もう1人は胸に情熱を秘めた子、みたいな対比があると、2人出す意味があると思いました」

ーーもしかしたら、バレエというのも吉田さんのアイディアですか?

吉田「そうです。1人は『動』。もう1人は『静』という風にしたくて、2人の夢をそれぞれバレエと絵にしたんです。バレエは動きがあって華やかで女の子の憧れでもありますからね。私自身、バレエ漫画が好きだったんですよ(笑)。私は脚本家なので言葉のやりとりで人間の感情を表現しますが、バレエは言葉を使わずに肉体の動きで表現する。そういうところにも惹かれるんです」

ーー今回、映画ではバレエの動きに関してはかなり力を入れて表現されていましたね。アニメでバレエの動きを正確に描くのはかなり難しいのでは?

谷口「大変でしたね。バレエの動きは嘘がつけないんです。腕や足が正しいラインを正しいスピードで通らなければいけない。関節の動かし方、重心の位置、あらゆることを意識しないといけない。しかも、今回はロシアとフランスのバレエの違いも描く必要がありました。そこでロシアのバレエをメインにやられてきた田北志のぶさん。パリのオペラ座のバレエ・ダンサーだったウィルフレード・ロモリさんに振り付けをお願いしたんです」

ーー映画のために振り付けを考えてもらうというのも贅沢ですね。

吉田「本番のシーンだけではなく、レッスンの時の踊りもあるじゃないですか。そういうのも含めて、バレエの動きを丁寧に描いてくださって感動しました。パリだったらバレエ、と思い、提案してしまって申し訳なかったです……」

谷口「いやいや、それでいいんですよ(笑)。脚本家は何が大変かなんて考えずに面白いと思ったことを書けばいいんです」

 

千鶴にバレエを教えるオルガはロシア出身。ここではロシアバレエでの表現となっている

パリ、オペラ座バレエ団による優美なバレエ公演の様子

少女たちの憧れ、バレエのシーンはレッスン中まで丁寧に描かれている

 

ーーパリの風景やファッションも素敵でした。実際にパリにロケハンに行ったそうですね。

谷口「吉田さんやスタッフと空港や現地で集合して見て回りました。フジコが画家を目指すからモンマルトルは描きたいと思っていたんですけど、私よりも吉田さんの方がパリに詳しかったですね」

吉田「若いころ、初めてパリに行ってカルチャーショックを受けたんです。昔の建物がそのまま残っていて、パリというテーマパークみたいな感じがしました。モンマルトルはとても印象に残っていて。パリの北のほうなんですけど、坂道が多くて高台になっているのでパリを一望できるヴューポイントがあるんです。だから絵描きが多かったのかもしれませんね」

ーー映画でフジコがモンマルトルに引っ越すのは、画家が多い街だったからなんですね。

吉田「あと、モンマルトルは坂が多いので家賃が安いというのも、売れない画家にとってはよかったのかもしれません」

ーーそういう事情があったんですか。実は『FUDGE』4月号で映画に登場した場所で撮影をしているのですが、映画で実際の風景が丁寧に描かれていることが分かります。

吉田「実は私、以前から『FUDGE』を愛読しておりまして(笑)。『FUDGE』で紹介するファッションはもちろん、パリで撮影した写真も好きだったんです。『FUDGE』の読者の方には、この映画はきっと楽しんでもらえると思います。パリの街並みを見るだけでも楽しいし、映画を見ながらパリを散歩している気分になれるので」

ーーご愛読ありがとうございます!本作はパリの街並みに加えてファッションも見どころのひとつですよね。

吉田「パリはファッションの街でもあるのでシンプルなデザインでも可愛いですよね。今回、衣装や小物が映画の世界観を作るうえですごく貢献してくださっていると思いました」

ーーフジコと千鶴のドレスはシンプルで可愛いデザインでしたが、当時の女の子たちはこういうドレスを着ていたのでしょうか。

谷口「当時使われていた日本で言うと婦人雑誌のような本があるんですけど、それを見てどんなドレスが売られていたのかを調べました。第一次世界大戦が近づくに連れて、お姫様っぽいドレスからだんだんシンプルなものになっていくんです。帽子に関しては、ドレス以上に流行が変化するのでかなり調べました」

 

ドガやピカソも愛したパリで一番高い丘「モンマルトル」は、画家を志すフジコも魅了された

 

100年前のパリのファッションを感じられる洋服や帽子にも注目して

 

ーー『FUDGE』4月号は、キャラクター原案の近藤勝也さんによる描き下ろしイラストの表紙、そしてクリアファイルが付録としてついています。近藤さんは『魔女の宅急便』や『崖の上のポニョ』などのキャラクターデザインを手がけられていましたが、本作でもシンプルな線でフジコや千鶴を魅力的に描かれていますね。

吉田「まだ脚本を書いている段階で、近藤さんから最初のラフが上がってきたんですけど、”こういう子達だったんだ!”ってすぐ個性が分かるくらいぴったりの絵でした」

谷口「近藤さんが最初に出してきたラフは限りなく正解に近いものでしたね。デザイナーさんの中には、作品が求めているよりも自分の個性を出そうとする方も多いんですよ。でも、近藤さんはまっすぐにデザインする。線が少ないのが近藤さんの良いところであり、デザイン的にもレベルが高いところなんです。絵って上手くなるほど線が減っていきますからね」

ーーデザインが研ぎ澄まされていく?

谷口「そうです。限られた線で描いているものの構造や柔らかさも表現できる。ただ、あまりにも線が少ないと技量的におぼつかないアニメーターには描けない。アニメの制作にはキャラクター原案とは別にキャラクターデザインという仕事があって、近藤さんの絵には描かれていなかった角度でキャラクターを描いたり、線を補足したりして集団作業をしやすくしてもらっています」

ーーキャラクター原案とキャラクターデザインが協力して、キャラクターが動き出すんですね。フジコと千鶴に声を吹き込んだのが當真あみさんと嵐莉菜さん。キャスティングの際に大切にしたことはありますか?

谷口「まず、声の存在感というか説得力ですね。當真さんの場合、彼女の声の根っこにある透明感、それを私は”嘘をついていない声”という風に言ってるんですけど、それが良いと思ったんです。そして、そういう當真さんの声に対して、どんな声がいいのかを考えて嵐さんを選びました。オーディションしたなかで嵐さんの声がいちばん存在感があったんです。上っ面の声じゃないというか。それは彼女の役に対する意気込みもあったのかもしれませんね」

ーー嵐さんは声の演技に初挑戦でしたね。

谷口「まず彼女に言ったのは、頑張って声を出してください、ということです。アフレコの時ってマイクとの距離が30cmくらいなんです。そうすると画面の中で相手との距離がかなり離れているのに、目の前のマイクに向かって声を出してしまう人がいる。そうならないように、しっかり声を出して欲しい。そうすれば、ちゃんと伝わるから、という話はしました」

吉田「最初、千鶴は親の言うことを聞いて生きているように見えるんですけど、芯の強さを持っていて、それがフジコと仲良くなることでどんどん表に出てくる。その変化を、嵐さんはうまく表現してくださっていました」

ーー當真さんは声の演技は2回目でしたが、前作とは反対のキャラクターを生き生きと演じられていましたね。

吉田「當真さんが『かがみの孤城』で声をあてたキャラクターは大人しい女の子の役だったので、真逆のフジコをどんな風に演じるのか、すごく楽しみにしていたんです。當真さんはフジコの明るさだけではなく、彼女が自分の中に抱えている葛藤も表現してフジコの光と影をしっかりと見せてくれました」

 

近藤勝也さんによる描き下ろしイラストの『FUDGE』4月号の表紙

フジコと千鶴を演じた當真あみさんと嵐莉菜さん。彼女たちのインタビュー記事もチェックして

 

ーーフジコと千鶴がお互いに影響を与えながら自分も相手も変化していく。そうやって2人が成長していく姿が映画で描き出されていました。

吉田「自分でないものと出会う。それは違う国でも、違う人でもいいんですけれど、違うものとの出会いは自分を見つめ直させてくれるのかな、と。海外に行くと日本がよく分かったりすると思うんですけど、違うものとの出会いが対立を生むこともあるけれど、それが良い作用を生み出すといいな、と願っています」

谷口「相手に依存してしまうわけではなく、それぞれが自立しながらも、だからと言って完全に分離しているわけでもない。そういう関係性ってリアルだと思うんですよ。男性同士でもあることだと思うし」

ーー確かにそうですね。そして、そんな2人が夢を追いかける中で、それぞれが抱く葛藤が物語の核になっています。

吉田「この物語でいちばん重要なのは、2人が外国で自分が生まれ育った国とは違う文化を学ぼうとしていることです。2人は常に自分の国の文化と外国の文化の間で揺れ動いている。その揺れを大切に描きたいと思いました」

ーー吉田さん自身が、かつて夢を追いかけた時の体験とか、そこで感じたことも物語には反映されているのでしょうか?

吉田「それはありますね。夢を追うって、ただハッピーなことじゃないと思うんですよ。”こんな風になりたい!”って理想を思い描く度に自分の現実に向き合わないといけない。その辛さも、この作品で描きたいと思っていました」

谷口「今回、スタッフには『夢を叶える』のと『夢を追う』というのは違うから、そこは気をつけてほしいと言ったんです。夢を追う、というのは人が動き出す出発点。でも、夢が叶うことがゴールじゃなくてもいい。映画で描かれる物語は主人公の限られた期間にすぎないわけで、重要なのはその期間にどんなことが起こったかなんです」

ーー夢が叶うということより、夢を追いかけようと心が動いた時のことの方が大切?

谷口「そうです。最初に心が大きく動いて、その気持ちはそのまま変わらないのか、それとも、なにかの事情でまた動いてしまうのか。そういったところが物語の大きなポイントなんです。人間というのは周囲に影響されて気持ちが変化するじゃないですか。逆にいうとそこが人間らしいところで。少年漫画の主人公だったら、夢を目指して突っ走ればいいんですけど(笑)、この映画では2人の心が揺れ動くところを描こうと思ったんです」

ーー2人の女の子の等身大のドラマが描かれている。だからこそ、100年前の話でも身近に感じることができるんですね。

吉田「100年前でも人間の感情って今と変わらないと思うんです。人間の感情がいろんな出来事を生み出す……というのを描くのが好きなので、今回の題材はすごくやりがいがありましたし、監督の丁寧な演出のおかげでリアルな作品になったと思います」

谷口「難しいことは考えずに、まずは映画館で楽しんでもらえると嬉しいですね。友達とでもいいし、恋人でもいいし、家族とでもいい。映画館で見る方が絶対、100年前のパリの世界に没入できるし、可愛い犬も猫も出てきますからね(笑)」

 

パリの美しい景色を映画でも楽しめる、詳しくはこちらの記事でもご紹介

 

PROFILE

谷口悟朗
愛知県生まれ。日本映画学校(現・日本映画大学)を経てアニメーション業界へ。1999年『無限のリヴァイアス』でTVシリーズ初監督。大ヒット作、2001年『コードギアス 反逆のルルーシュ』シリーズを筆頭に見る人の感情を大きく揺さぶる骨太なエンターテインメントを得意とし、熱狂的なファンを持つ。2022年『ONE PIECE FILM RED』は歌と映像を駆使した圧倒的な迫力で、国民的大ヒットとなったことは記憶に新しい。

吉田玲子
1993年、NHK創作ラジオドラマに入選し、同入選作で脚本家デビュー。キッズ向けから深夜アニメ、原作ものからオリジナルまでと幅広い作品を手掛けるが、キャラクターの会話やその雰囲気が多くのファンを魅了。代表作に『けいおん!』『ガールズ&パンツァー』『夜明け告げるルーのうた』『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』などがある。

 

interview & text_Murao Yasuo
edit_Oguchi Eiko

 

『FUDGE』4月号は『パリに咲くエトワール』大特集!表紙はスペシャルな描き下ろし

3月12日発売の”スペシャル”な『FUDGE』4月号は、100年前のパリを舞台に、夢を追いかけた少女たちの物語『パリに咲くエトワール』を大特集。

表紙は『FUDGE』だけの完全オリジナルの描き下ろし。イラストを手がけているのは、スタジオジブリ作品『魔女の宅急便』や『崖の上のポニョ』などで多くの人に愛されるキャラクターを生み出してきた、本作のキャラクター原案を務める近藤勝也さん。『FUDGE』と映画を繋ぐようなパリの世界観を詰め込んだ唯一無二なイラストになっています。最新号について詳しくはこちら

 

劇場アニメ『パリに咲くエトワール』ってどんな作品?

©「パリに咲くエトワール」製作委員会

20世紀初頭のパリ。幼い頃に横浜で出会った2人の日本人の少女・フジコと千鶴は、時を経てパリで運命的な再会を果たします。将来よき妻になることを望まれながら画家を志すフジコと、ナギナタの名手ながらバレエに魅了された千鶴。異国の空の下、東洋人、そして女性であることで時に困難にぶつかりながらも、それぞれの夢に向かって進んでいきます。

 

劇場アニメ『パリに咲くエトワール』

監督:谷口悟朗
脚本:吉田玲子
キャラクター原案:近藤勝也
キャスト:當真あみ、嵐莉菜、早乙女太一、門脇麦、尾上松也、角田晃広、津田健次郎
主題歌:「風に乗る」緑黄色社会(ソニー・ミュージックレーベルズ)
配給:松竹

2026年3月13日(金) 全国公開

 

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『FUDGE.jp』では、『パリに咲くエトワール』のインタビュー記事やプレゼントキャンペーン企画を展開中。関連記事は以下URLにまとめていますので、ぜひ一緒に読んでくださいね。

▶︎『パリに咲くエトワール』記事一覧はこちら

 

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