CULTURE & LIFE

クリエイティブチーム Do it Theater(ドゥイット・シアター)がテーマごとにおすすめの映画を3作品紹介する、連載《土曜日のシネマサロン》。
第125回目のテーマは、「まだ間に合う?!期待の若手監督、山中瑶子、奥山大史、内山拓也 のおすすめ新作映画」です。

Do it Theaterの郡司恵(ぐんじ めぐみ)です。この連載はDo it Theater女子部が様々な切り口のテーマで、おすすめ映画をリレー方式でご紹介しています。

長かった夏も過ぎ去り、心地よい秋の風を感じられるようになってきました。食欲の秋、芸術の秋の到来ですね! 私は秋が一番好きな季節なので、嬉しくてたまりません。どうかできるだけ長く秋が続きますように。さて、今回は『ナミビアの砂漠』『ぼくのお日さま』『若き見知らぬ者たち』と、今話題の若手監督による新作映画3選をご紹介します。

 

繊細かつ大胆、圧倒的な映像表現力

©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

title:『ナミビアの砂漠』

【story】
世の中も、人生も全部つまらない。やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている、21歳のカナ。退屈なホンダから自信家で刺激的なハヤシに乗り換えて、新しい生活を始めてみたが、次第にカナは自分自身に追い詰められていく。もがき、ぶつかり、彼女は自分の居場所を見つけることができるのだろうか・・・?

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本作の監督・脚本は、初監督作『あみこ』でベルリン国際映画祭フォーラム部門に史上最年少で招待されるなど、海外からも高く評価されている山中瑶子。本格的な長編デビューとなる本作は、第77回カンヌ国際映画祭の監督週間に出品され、女性監督として史上最年少で国際映画批評家連盟賞を受賞しました。

この作品の注目ポイントは、なんと言っても現代日本の若者たちの恋愛観や人生観を高い解像度で描いている点。「うわ、紙ストローだ」とか、「甘いのとしょっぱいの、うれしー」といったセリフに宿るリアルに、監督の鋭い洞察力が表れています。

そんな繊細さの反面、大胆だなと思ったのは映像の表現。手持ち撮影という撮影手法が用いられており、揺れる画面はカナの心情を表すなど、非言語的な表現にも工夫が凝らされていました。

タイトルの「ナミビアの砂漠」は、実際にアフリカのナミビア共和国にある場所で、今も動画サイトで定点カメラの映像が24時間配信されています。その映像を観るのと同じように、この作品は若者の日常を覗き見る面白さがあります。主人公のカナは、世の中をどこか俯瞰して見る “令和の若者”そのもの。自由奔放で、自分のやりたいことも、自分が何者かもどんどんわからなくなっていく、若さゆえの危うさが絶妙に描かれています。大ブレイク中の女優、河合優実による気だるい演技も見どころ。新進気鋭の若手俳優と若手監督のタッグは見逃せません!

 

▶︎『ナミビアの砂漠』河合優実インタビューはこちらをチェック!

 

映像に宿る、奇跡のような美しさ


(C)2024「ぼくのお日さま」製作委員会/COMME DES CINÉMAS

title:『ぼくのお日さま』

【story】
田舎街に暮らす、吃音持ちの小学6年生タクヤ。小学校に通う男子はみんな、夏は野球、冬はアイスホッケーの練習に励んでいる。タクヤはある日、フィギュアスケートを練習する中学生のさくらに心を奪われ、フィギュアの練習を始める。さくらのコーチの荒川は、何度も転びながらステップを練習するタクヤの姿を見て、彼の恋を応援しようと練習につきあうことに。やがて荒川の提案で、タクヤとさくらはペアでアイスダンスの練習を始めることになり…

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2019年、『僕はイエス様が嫌い』で第66回サンセバスチャン国際映画祭最優秀新人監督賞を史上最年少で受賞し、世界的に注目を浴びた、奥山大史。ドラマ『舞妓さんちのまかないさん』では5、6、7話の監督・脚本・編集(5話は是枝裕和監督との共同監督回)を務めており、是枝監督からも評価されているそう。長編2作目となる本作は、第77回カンヌ国際映画祭オフィシャルセレクション部門へ日本から唯一出品され、「ある視点」部門に日本人監督としては史上最年少で選出されました。

本作のおすすめしたいポイントは、映像に閉じ込められた温度と、捉えられた美しい光です。
スケートリンクに差し込む窓の光、蛍光灯の青白いぼやっとした光、吐く息の白、真っ白な雪道。美しい、と思うと同時に、スケートリンクや外気の冷たさがとても印象的で、映像からあれほど温度を感じたのは初めてでした!

実はこの作品、『ナミビアの砂漠』と同じく、スタンダードサイズと呼ばれる1.37:1の比率で撮影されています。このサイズは昔のサイレント映画時代の16mmフィルムの比率で、ノスタルジックな雰囲気を演出する意図があるそう。映像がフィルムのように少しざらついているので、作品全体からあたたかみと懐かしさを感じるんですね。
観る人を魅了する美しい作品を作る奥山監督の今後にも注目です!

 

滲み出る、力強い“生き様”


(c)2024 The Young Strangers Film Partners

title:『若き見知らぬ者たち』

【story】
風間彩人は、亡くなった父の借金を返済しながら、 難病を患う母の介護をしている。昼は工事現場、夜は両親が開いたカラオケバーで働く日々。弟の壮平も同居し、父の背を追って始めた総合格闘技の選手として、日々練習に明け暮れている。懸命に生きる彼らだったが、彩人の親友の結婚パーティーの夜、 思いもよらない事件に巻き込まれ…

* * * * * * * * * * * * * * * *
本作を監督したのは、2020年の『佐々木、イン、マイマイン』で劇場長編映画デビューを果たした内山拓也。2020年度、新人映画監督に贈られる新藤兼人賞や第42回ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞し、注目を浴びました。その後もMVの演出や短編映画、広告映像を手がけて話題を集め続け、「2021年ニッポンを変える100人」に選出された期待の星で、本作は待望の商業長編初監督作です。

この作品の見どころは、監督自身の体験を元にしたという物語の生々しさ。やりきれない現実に向き合い続ける主人公たちの力強い生き様が、印象深く映像に刻まれていました。
磯村勇人演じる主人公は、親の介護をするヤングケアラーなのですが、監督本人もヤングケアラーだったそう。周りから見ると、主人公の置かれている状況はどう考えても限界を越えているように思えますが、当事者にとってはそれが日常であり、使命感や周りに知られたくない心理から助けを求めることをしないんです。経験者にしかわからない部分がしっかりと落とし込まれている分、地獄のような状況がリアルに描かれています。

今もどこかで、登場人物たちと同じ思いを抱えている人がいることを忘れないように…。そんなメッセージをこの映画で見事に発信した内山監督は、これからも日本映画に大きな影響を与えていくでしょう。

 

今回は、「期待の若手監督 おすすめ新作映画」をテーマに、それぞれの監督の個性が光る3作品をご紹介しました。今期はこの3作品の他にも『SUPER HAPPY FOREVER』や、『HAPPYEND』など若手監督による素晴らしい作品が目白押しで、ぜひとも劇場で新たな才能を目の当たりにしてほしいと思います。
好きな監督ができると、その監督の作品を追ったり、似た作風の監督に興味を持つことができたりと、自分の世界が広がっていきます。日ごろからアンテナを張って、どんどん“自分の好き”に巡り会っていきましょう!

 

『ナミビアの砂漠』

監督・脚本:山中瑶子
出演:河合優実、金子大地、寛一郎
2024年 日本 137分
2024年9月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

 

『ぼくのお日さま』

監督・脚本:奥山大史
出演:越山敬達、中西希亜良、池松壮亮
2024年 日本 90分
2024年9月13日(金)より全国公開

 

『若き見知らぬ者たち』

監督:内山拓也
出演:磯村勇斗、岸井ゆきの、福山翔大
2024年 日本・フランス・韓国・香港合作 119分
2024年10月11日(金)新宿ピカデリーほか全国公開

郡司 恵(ぐんじ めぐみ)
新卒で劇場マネージャーとして映画館に勤めたのち、Do it Theaterでシアタープロデュースに携わる。
現在はミニシアタースタッフとして学ぶ日々。『あん』『人生フルーツ』『パターソン』など、日常にある幸せを思い出させてくれる作品が好き。
最近は愛犬のゴールデンレトリバーの顔をくしゃくしゃして遊ぶのがマイブーム。犬はめちゃ喜んでます。

 

●Do it Theater(ドゥイット・シアター)
“あたらしいシーンは、Theaterからはじまる”をテーマに、シアター体験を作り出すプロデュース&クリエティブチーム。FUDGE主宰の「Holiday Circus(ホリデーサーカス)」ではコンテンツクリエイションとして参加。また 累計6万人以上が来場した野外シアター「品川オープンシアター」や横浜赤レンガ倉庫・マリンアンドウォークヨコハマなど5会場同時開催の「SEASIDE CINEMA」、ミニシアター支援を目的とし全国5箇所でキャラバン開催したクラウドファンディングプロジェクト「ドライブインシアター2020」など、映画を観るだけではない、総合演出された新しいスタイルのシアター体験を全国に作り出しているチームです。
www.ditjapan.com

 

design_Koinuma Kenichi

edit_Takehara Shizuka

 

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