CULTURE & LIFE

クリエイティブチーム Do it Theater(ドゥイット・シアター)がテーマごとにおすすめの映画を3作品紹介する、連載《土曜日のシネマサロン》。
第119回目のテーマは、「20代のうちに観たい映画3選」です。

Do it Theaterの郡司恵(ぐんじ めぐみ)です。この連載はDo it Theater女子部が様々な切り口のテーマで、おすすめ映画をリレー方式でご紹介しています。

気がつくと2024年も折り返し地点にきていて、夜歩いているとふと夏の匂いを感じるようになってきました。20代後半に入ってからというもの、時間が過ぎていくスピードが上がった気がします。今回は『ソウルフル・ワールド』『わたしは最悪。』『夜明けのすべて』と、夢や人生の悩みに寄り添ってくれる、20代のうちに観たい映画3選をご紹介します。

 

生きる目的とは

Illustration_skpn

title:『ソウルフル・ワールド』

【story】
ニューヨークでジャズピアニストを夢見ながら音楽教師をしているジョー・ガードナーは、ついに憧れのジャズクラブで演奏するチャンスを手にする。しかしその直後に事故に遭い、人間が生まれる前の「ソウル(魂)」たちの世界に迷い込んでしまう。そこでジョーは、22番と呼ばれるソウルと出会う。22番は生まれることを嫌がり長年ソウルのままだった。ジョーが元の世界に戻るためにはこのソウルの心のときめき(=人生の目的)を見つけることが条件。そこから人生の意味を見つけるための冒険が始まるのだが…

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『インサイド・ヘッド』『カールじいさんの空飛ぶ家』を手がけ、ピクサー・アニメーション・スタジオのチーフ・クリエイティブ・オフィサーも務めるピート・ドクター監督の作品。公開当時から大絶賛を受け、アニメ界のアカデミー賞と言われるアニー賞を制したほか、第93回アカデミー賞でも長編アニメーション賞、作曲賞を受賞している大傑作です。

ピクサーらしい柔らかくて可愛らしいアニメーションに、子供向けのアニメと想像するかもしれませんが、むしろこの作品はピクサー史上もっとも深いメッセージを持つと言われるほど、大人に見て欲しい作品なのです。
「人生の目的とは何か」という哲学的テーマを扱っていて、見ている中でも色々と考えさせられます。
生きる意味って普段生活をしているとあまり考えないですが、実は日常にこそ心のときめく瞬間がたくさんあって、そんな瞬間を大切に生きていきたいと思わせてくれる素敵な作品です。

実はこの作品、当初は劇場公開予定だったのですが、コロナ禍により劇場公開を断念し、2020年の末からDisney+で配信されていました。そして2024年に入り、コロナ禍で劇場公開できなかった他のピクサー作品とともに劇場公開が実現しました。今は引き続きDisney+で観ることができるので、ぜひ見てみてください。

 

自分の人生は自分のもの


© 2021 OSLO PICTURES – MK PRODUCTIONS – FILM I VÄST – SNOWGLOBE – B-REEL – ARTE FRANCE CINEMA

title:『わたしは最悪。』

【story】
30歳という節目を迎えたユリヤ。これまでいくつもの才能を無駄にしてきた彼女は、いまだ人生の方向性が定まらずにいた。年上の恋人アクセルはグラフィックノベル作家として成功し、最近しきりに身を固めたがっている。ある夜、招待されていないパーティに紛れ込んだユリヤは、そこで若く魅力的なアイヴィンに出会う。ほどなくしてアクセルと別れ、新しい恋愛に身をゆだねたユリヤは、そこに人生の新たな展望を見いだそうとするが……。
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デンマークのヨアキム・トリアー監督が手がけ、2021年・第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で女優賞を受賞、2022年・第94回アカデミー賞では国際長編映画賞と脚本賞の2部門にノミネートされた異色の恋愛ドラマ。単純な男女の恋愛視点ではなく、女性の人生について色々と考えさせられる作品です。

作中、外科医を目指していたユリヤは、学んでいるうちに自分は心理学の方が向いていると方向転換をしたり、やっぱり写真家になりたいと言ってみたり。自分に合う“天職”は何なのかと、自分探し真っ只中。
恋愛には積極的で、いつかは子供が欲しいと言いつつも、パートナーに結婚を迫られるとまだ今じゃないと思ってしまう。
人によりけりですが、特に20代の女性は恋愛、仕事、結婚、出産、育児と多くのライフイベントを経験していく中で、ユリヤのように悩むことがたくさん出てくることでしょう。
数々の経験を通して悩み抜き、時には失敗したり、大切な人を失ったり、そんなことを繰り返して自分の人生を生きる覚悟を決めていくユリヤの姿をみると、迷ってもいいし、失敗してもいいと力強く背中を押されるような感覚になります。

昔よりも選択の幅が広がり、多様性が尊重されるようになったからこそ迷うこともあるのかもしれません。だけれど、この映画は一生懸命に自分と向き合う大切さを教えてくれます。
この先、どんな人生を送りたいか、ユリヤのようにたくさん考えて向き合って、自分の好きな自分を目指せるといいですね。

 

若者がつくる優しい世界


©瀬尾まいこ/ 2024 「夜明けのすべて」製作委員会

title:『夜明けのすべて』

【story】
社員6名の小さな金物卸会社で働く藤沢美紗。PMS(月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる美紗は、会社の同僚で入社して間もないのに、やる気のない態度の山添とのある事件をきっかけに、彼がパニック障害を抱えていることを知る。職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、2人はお互いを理解していき、自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考えるようになる。

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『そして、バトンは渡された』などで知られる人気作家・瀬尾まいこの同名小説を、『ケイコ 目を澄ませて』の三宅唱監督が映画化した作品。三宅監督といえば大人気の『きみの鳥はうたえる』も有名ですよね。そんな監督の最新作は、“生きづらさ”を抱えた2人の男女の特別な関係性を描いた作品で、第72回ベルリン国際映画祭のほか20以上の映画祭に出品され、国外でも注目を浴びました。

この作品の注目ポイントは、若い男女を描いているけれど、全くと言っていいほど恋愛要素がなく、お互いに支え合う関係が成立しているところです。それだけ“人として寄り添うこと”にフォーカスしている作品ともいえます。

普段仕事をする中で、悩みや、障害って、あまり触れられないことですよね。まして周りから理解されづらいものであれば、なおさらかもしれません。でも、この映画で2人がお互いにお節介や親切を重ね、それぞれの症状に対処して距離を縮めていく様子を観ていると、こんなふうに頼ればいいのか、こんなふうに支えることができるのか、と寄り添い方を知ることができるのです。

1人で悩んでいる人には、うまく付き合いながらやっていく道もあると知って欲しい。周りにそういう人がいたら、変に気を遣うのではなくてもっとコミュニケーションをとることで解決策を考えて欲しい。そんなメッセージのこもった、どこまでも温かい映画です。これからの社会をになっていく20代の皆さんに観て欲しい、近年の秀作です!

 

今回は、「20代のうちに観たい映画3選」をテーマに3作品をご紹介しました。社会人として働き始め、ライフイベントが多く待ち受ける20代。映画をみることで自分と向き合ったり、人生の示唆を得たりすることもあるかもしれません。今回紹介した映画は悩める20代を温かく応援してくれること間違いなしの作品ばかりなので、ぜひ観てみてくださいね!

『ソウルフル・ワールド』

監督:ピート・ドクター
出演:ジェイミー・フォックス、ティナ・フェイ、グレアム・ノートン
2020年 アメリカ 101分
Disney+で配信中

『わたしは最悪。』

監督・脚本:ヨアキム・トリアー
出演:レナーテ・レインスヴェ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ハーバード・ノードラム
2021年 ルウェー・フランス・スウェーデン・デンマーク合作 128分
Blu-ray:5,280円(税込)
発売・販売元:ギャガ

『夜明けのすべて』

監督:三宅唱
出演:松村北斗、上白石萌音、渋川清彦
2024年 日本 119分
大ヒット上映中
配給:バンダイナムコフィルムワークス=アスミック・エース

郡司 恵(ぐんじ めぐみ)
学生時代にミニシアターでアルバイトをしていました。新卒でマネージャーとして映画館に勤めたのち、
現在はDo it Theaterでシアタープロデュースに携わっています。『あん』『人生フルーツ』『パターソン』など、日常にある幸せを思い出させてくれる作品が好き。
実家のゴールデンレトリーバーが暑いのか日中溶けたように寝ています。

 

●Do it Theater(ドゥイット・シアター)
“あたらしいシーンは、Theaterからはじまる”をテーマに、シアター体験を作り出すプロデュース&クリエティブチーム。FUDGE主宰の「Holiday Circus(ホリデーサーカス)」ではコンテンツクリエイションとして参加。また 累計5万人以上が来場した野外シアター「品川オープンシアター」や横浜赤レンガ倉庫・マリンアンドウォークヨコハマなど5会場同時開催の「SEASIDE CINEMA」、ミニシアター支援を目的とし全国5箇所でキャラバン開催したクラウドファンディングプロジェクト「ドライブインシアター2020」など、映画を観るだけではない、総合演出された新しいスタイルのシアター体験を全国に作り出しているチームです。
www.ditjapan.com

 

design_Koinuma Kenichi

edit_Takehara Shizuka

 

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