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大切な人への手土産には、わたしなりの「ここが好き」という要素を忍ばせて、ちょっと押し付けがましいくらいの品が丁度良い。互いの記憶に刻まれ、いつしか点が線に繋がったりするから。贈り物は、予期せぬ出会いをわたしたちに導いてくれる。
北海道は手土産の宝庫。中でも、愛らしい佇まいをした手土産がある。ミントグリーン色のキャップと真っ赤なフォントにどこか懐かしさを感じる〈北見のハッカ油〉をご存知だろうか。
化学合成を一切行わずに精製されるハッカ油からは無垢な香りが漂う。防虫や暑さ対策だけでなく、飲み物の香り付けとしても使えるので、虫除けスプレーを持ち歩くより賢くみえて、2倍も3倍も得した気分になれる。
そんな、愛嬌がある北のかおりを道産子として誇らしく思う。自然のかおりを好みそうな相手を思い浮かべて、シェアしたいひと品だ。
ハッカ油スプレーとわたし
かつてブラジルで暮らしていた頃は、北海道から持参した北見のハッカ油を常備していた。最初は虫除けとして使っていたが、爽快感が心地良くて暑い日にも活躍するようになった。もう、かれこれ何本消費しているだろう。使うたびに、商品カラーのミントグリーンが喜びをもたらすエメラルドにさえ思えてくる。
ブラジル サンパウロ市
灼熱の太陽の下で、ハッカ油をふわっと漂わせる。その正体を知らない周りの人々も「どこからか、ス〜ッと涼しい香りがする」と多幸感の輪が広がるのが分かる。そうやって、私は北見のハッカ油でエメラルドの至福を何度も味わってきた。
サンパウロ市内の公園にて
とはいえ、扱うときには周りへの配慮が要る。カメラの焦点を定めて半押ししてからシャッターを切るように、やさしくワンプッシュ。むやみに何度もスプレーを発射しようものなら、清涼感が強いので、虫除けどころではなく、人除けになってしまう。それだけは避けたい。
そもそも、爽快感はハッカの主成分であるメントール成分から生まれる。メントールを含むハッカの品種は、「ペパーミント」と「和種ハッカ」に大きく分かれ、北見のハッカ油は和種ハッカを使っている。ペパーミントと比べて、摂取できるメントールの量が多く、香りや清涼感の強さにも影響しているという。
刺激が強く感じる方もいるので、扱う際には「心遣い」を大切に。
ハッカと北見
北見のハッカの強みは、品質へのこだわりやデザインの心地良さに加えて、小さなまちから世界へと人々がハッカ産業を紡いできた伝統にある。
かつてハッカは、目薬や胃薬、湿布などの原料として海外に輸出されていた。
明治時代から始まった北見のハッカ産業は、昭和14年頃に全盛期を迎え、世界市場の70%を占めるまでに発展を遂げた。
しかし、より安価な外国産ハッカや化学合成されたハッカの普及により、生産量は次第に減少。そんな中、衰退するハッカ産業の立て直しを図ったのが〈北見ハッカ通商〉だった。同社は、ハッカ油をはじめ、飴や入浴剤などハッカ製品の開発から販売まで手掛けている。
北見ハッカ通商本社 直営店
ちなみに本社には直営店があり、至るところにミントグリーン色が散らばっている。よくよく見ると、会計で使うコイントレーやテープカッターの色まで同じ色ではないか。そんな細部までこだわる愛らしい一面に、ハッカへの親しみさえ覚えてきた。
何より驚いたのは、社屋に入る寸前から尋常ではない程にハッカの香りが充満していたことだ。社内を案内して下さった総務課長の岡本さんは、普段からハッカに囲まれて仕事をしているからか、そのことには全く気づいていない。
北見ハッカ通商本社 展示施設
さらに、展示施設で目に留まったのは、メントール成分でできた結晶。ショーケースの表面がひび割れしているように見えたが、実はこれもまた結晶であった。
大きな直方体に型取られたメントールの結晶。アート作品といわれても違和感がないほど、美しい。
岡本さんによれば、メントールが気化し、ケースの内部に付着することで、新たな結晶がつくられるという。「ここだけに留まるものか」と羽ばたくメントールの声が聞こえた気がした。
さながらメントールのように、北見のまちから良質なハッカを国内外へ届けようと、ハッカ栽培の研究や農地拡大に一層力を入れている北見ハッカ通商。人々に愛され続けるハッカ製品の裏には、地元の人々の情熱が灯されていた。
北見ハッカ通商 北海道北見市卸町1丁目7番地3
電話 (0157)66-5655
営業時間 平日10時〜17時
text|Haruka Asari
フリーライター
instagram @nilamekko
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