kiitos.
微生物と人間はともに生きています。その理由が理解できたら、今度は菌とどのようにつき合うべきかを考えよう。そのヒントが隠れているのは便の中。目には見えない腸内細菌たちの状態を、身体の中を旅してきた便が教えてくれます。
身体の中で起きていることに敏感になるのは大切なこと。いつもと違う便通があったとき、考えられるよくある腸の病気について知り、もしものときに備えましょう。
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教えてくれたのは…
腸内環境研究者/「株式会社メタジェン」代表取締役社長CEO・CGDO 福田真嗣先生
2011年にビフィズス菌が腸内でつくる酢酸による腸管出血性大腸菌O157感染予防の分子機構を明らかにするなど、腸内環境分野において最先端の研究を行う。著書に『おなかの調子がよくなる本』(KKベストセラーズ)などがある。
リスク①便秘
腸内細菌は、腸の中に滞在する時間が長いと悪影響を引き起こす
腸内細菌は常に増殖しないと腸内に留まれないため、人間が食べたものを栄養にし、分解しながら腸内を移動しています。「排出されるよりも早く腸内で増え続けることが彼らのミッション。便秘になると移動速度が遅くなるわけですが、そんなことはおかまいなしに分解を続けていきます。まずは好物の炭水化物から取り掛かってオリゴ糖などの栄養素を分解するのですが、腸内に長く滞留すると、それらの栄養素を分解し尽くしてしまいます。その次にはタンパク質の分解に取り掛かるのですが、このとき産生されるのが人間にとって有害な腐敗産物です」(以下、福田先生)
腸内細菌は食物繊維などの炭水化物を栄養にしているときは、短鎖脂肪酸などの健康に役立つ物質を産生することが分かっていますが、タンパク質の分解によって有害な代謝物質がつくられます。腸内細菌が産生する代謝物質は大腸から吸収されて血流に乗り、よい成分も悪い成分も全身を巡ることになるため、まさに便秘は百害あって一利なし。便秘は女性に多いとも言われているため、排便回数が減ったり、お腹が張るなどの症状が現れたときは注意するべきです。
健康な人の排便は年間100回〜1000回
医学的な便秘の定義は週2回以下。しかし、多くの人が自分の排便回数は普通だと思っている傾向に。健康な人が1年間に排便する回数は100回から1000回と幅があります。身近な人と排便回数をシェアして“気づき”にすることも便秘予防において重要。
リスク②大腸がん・肝臓がん
日本人に増え続ける大腸がんの背景にあるのは欧米化した食生活
大腸がんはもともと日本人に少なかったというがん。それが、21世紀に入ってからは急速に増え続け、日本における女性の死亡原因の一位は大腸がんになっています。これは和食中心だった食生活が、高脂肪、高カロリーになって欧米化していることが影響していると考えられています。
また、大腸がんや肝がんのリスクを高めると考えられているのが二次胆汁酸。高脂肪の食品を食べると十二指腸や空腸から消化管ホルモンが分泌され、その刺激により肝臓でつくられた胆汁が腸に分泌されます。この胆汁に含まれる成分のひとつが胆汁酸。最初に分泌される一次胆汁酸には問題はないですが、脂肪分の多い食事を摂りすぎると分泌される胆汁酸量が増加。分泌された一次胆汁酸は腸内細菌により二次胆汁酸に代謝され、大腸がんや肝臓がんの原因にもなるとされています。
「大腸がん患者の便からは、歯周病の原因菌としても知られているフソバクテリウム・ヌクレアタムが検出されることがわかっており、こういった腸内フローラの変化をつかむことでがん予防やリスク評価につなげる研究も進んでいます」
リスク③クローン病
消化器官のどこにでも炎症や潰瘍が発症してしまう若者に多い病気
以前は欧米人に多く日本人には少ない病気だったものの1980年代から患者数が増加。食生活の欧米化が関連していると考えられています。原因は解明されておらず、炎症性腸疾患のひとつとして国から難病指定されています。口腔から肛門までのどの部位にでも炎症や粘膜の欠損が起こる可能性があり、よく発症するのは回腸の末端。主な症状としては、腹痛、下痢、血便、発熱、肛門付近の痛みや腫れ、消化吸収が悪くなることによる体重減少などが挙げられます。10代から20代の若年者に多く見られる病気で、男性が発症しやすいのだそう。完治させる治療法はまだ見つかっていないので、脂質を抑えた和食中心の食習慣を意識することで予防を心がけたいもの。
リスク④過敏性腸症候群
繊細だったり、真面目な人に多いストレスの関与が疑われる病
ストレスをはじめとした何らかの原因により大腸の運動や機能に障害が起こり、下痢や便秘に。詳細はまだ解明されていませんが、腸と脳は迷走神経やホルモンを介して常にやりとりを交わしており、密接な関わりを持っていることから、脳がストレスを感じるとそれが腸に伝わり、腸が細かく収縮するぜんどう運動が変化し、結果として下痢や便秘が起きていると考えられています。このような状態になると腸内フローラのバランスも変わり、腸内環境は悪化。反対に、生活習慣を工夫して腸内環境を整えられれば、症状も緩和されるのではないかとも考えられています。小腸で吸収されにくい食品=FODMAP食(※)の摂りすぎも症状を悪化させる原因に。
※小腸では吸収されにくい発酵性の糖質の総称。過度に取りすぎると腸が過敏になる。
リスク⑤潰瘍性大腸炎
繰り返し起きる下痢や便秘が主な症状。幅広い年代で発症
大腸の粘膜に炎症やただれが直腸から連続して起きる大腸の炎症性疾患。下痢を併発する腹痛で、血便を伴うことも。よくなったり、悪くなったりという状態が交互に起こり、症状が落ち着いていたのに数年後に再発するということも。根本的な治療法は見つかっていません。原因についてもいまだ不明だが、欧米化した食生活が一因である可能性があり、遺伝や免疫異常などの症状が重なって発症するとも考えられています。国から難病指定されており、多くの点でクローン病の症状と重なり、消化管全体に炎症が起こるクローン病に対して、主に大腸に発症することから区別されます。発病率に男女差はなく、国内の推定患者数は約22万人。
✔︎便が薬になる時代がもうそこまで来ている!?
腸内フローラの乱れが原因と考えられる病気の治療法として「便移植」という治療法が注目されています。これは、抗菌薬投与で一度腸内フローラを除去した患者の腸に健康な人の腸内フローラを移植する治療法。「欧米では臨床研究が進んでおり、治療薬として便が使われている現状があります。悪い菌や悪いウイルスのいない健康な便を提供すると、提供者は1回約4,000円もらえるそうです。今後日本でも治療効果が証明されれば、腸管感染症や潰瘍性大腸炎といった疾患において、この治療法が適用される可能性も大いにあり得ます」
現在は、健康な人の便を生理食塩水に混ぜ、これをフィルターでろ過したものを大腸内視鏡を使い、患者の大腸に注入するという臨床試験が行われていますが、今後は治療に必要と思われる腸内細菌を便からピックアップして、培養して増やし、カプセルに詰めて、薬として利用する研究が進むと考えられます。トイレに流している便が薬として有効活用される未来に期待しよう。
Illustration : Aki Ishibashi edit&text : Ai Watanabe re-edit:Yuri Iwata[press lab]
※kiitos. vol.24(2022年6月30日発売)より抜粋。
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