kiitos.
朝、目が覚めて、夜は眠る。心臓は鼓動して血液を送り出し、呼吸で空気を入れ替えられ、食べたものは消化されて、外へ出ていく。その繰り返し。頭で考えなくても続いていくその運動を担っているのが、私たちの自律神経。自律神経は、生命の動きを絶えず未来へつなげている。昨日も今日も、この瞬間も。
病気というほどではないが、何だか調子が悪い。そんな話題でよく耳にするのが“自律神経”という言葉。果たして自律神経とは、身体に対してどんな役割を果たす神経なのだろう。
Index
教えてくれたのは…
成城 松村クリニック院長 松村圭子先生
婦人科専門医。若い世代の月経トラブルから中高年の更年期障害まで、女性の一生をサポートする診療を行う。更年期に入って体調を崩したことをきっかけに、生活習慣を徹底改善。食事や睡眠など「暮らし」の見直しを提案する著書も多い。
せたがや内科・神経内科クリニック院長 久手堅司先生
内科・神経内科・頭痛・脳卒中専門医。2013年に開院。「自律神経失調外来」「気象病・天気病外来」「肩こり・首こり外来」など特殊外来を立ち上げ、多くの患者のニーズに応える。精神面だけではなく骨格から自律神経のバランスを整える方法を提唱。
元気になる整体院代表 原田賢先生
1976年生まれ。会社員時代、過度な労働から自律神経失調症を患い、その後うつ病により休職。自らの経験をもとに、自律神経専門の整体院を日本ではじめて開院。整体施術のみならず、メンタル面や栄養指導まで包括的にフォローしている。
ストレスや不規則な生活習慣がバランスを乱す原因に
全身のあらゆる器官とつながっている自律神経。本来ならば交感神経と副交感神経は、状況に応じて適切にスイッチが切り替えられるのが理想ですが、その敏感さゆえ、過剰に働かされすぎるときちんと機能しなくなってしまいます。
「過度なストレスや生活習慣の乱れなどで極度に負担をかけると、自律神経は疲弊します。そうなると、場面場面での切り替えがうまくできずに、交感神経と副交感神経のどちらか一方のスイッチが入りっぱなしという極端な状況に。いわゆる“自律神経のバランスの乱れ”です。これによって出てくるさまざまな不調の総称が、自律神経失調症になります」(久手堅先生)
交感神経が優位になりすぎると心身ともに緊張状態に陥り、筋肉が収縮して硬くなり、消化能力も低下。
「筋肉が硬くなるので肩こり・首こり、頭痛などに悩まされる方が多いですね。また、胃の働きが弱まると食べ物が消化されずに胃の中に留まり、胸焼けや膨満感、食欲不振の原因に。腸の働きも悪くなるので、下痢や便秘を引き起こします」(原田先生)
軽い症状だからと放っておくと、重大な病気につながることも。
「何か症状が出たら、自己判断で自律神経のせいにしないように気をつけてください。医師の診察を受けて、それでも何も出なければ自律神経失調症ですね、となりますから。特に持病や疾患のある方は、自律神経の乱れが重なることで悪化することもありますから、要注意です」(久手堅先生)
交感神経が優位になりすぎると……
内臓の働きが悪くなる
胸焼けや便秘、下痢など胃腸のトラブルはもちろん、突然胸がざわざわする症状にも関わってきます。胃は弱ると収縮し、上に上がってきますが、このときに横隔膜が圧迫され呼吸が浅く小さく。これにより胸のざわつき、不安感などが発生。
眠れなくなる
過度のカフェイン、アルコール、寝る直前までスマホをいじったりパソコン作業をしているなど……ただでさえ優位になりがちな交感神経をさらに高めて、脳を覚醒させる行為。眠れたとしても、朝起きたときには疲れが残っているはず。
筋肉が緊張状態になる
交感神経の働きが強くなると頚椎周辺の筋肉や腰椎を支える筋肉が緊張状態に。筋肉の緊張が頚椎・腰椎の歪みにつながり、ひどくなると慢性的な肩こり、腰痛に。これにより深い呼吸がしにくくなるという悪循環も。
副交感神経が優位になりすぎると……
血圧が低下する
寝ている間は副交感神経が優位なので、血圧が低くなります。寝起きにまだ交感神経にうまくスイッチが切り替わっていない状態で起き上がろうとしてふらついたり…。長時間立っている間に血圧が低下すると、脳への血流が低下して立ちくらみや失神してしまうことも。
どちらかが優位になりすぎると……
片頭痛・頭痛が出る
長く寝すぎたときなど副交感神経が活発になりすぎると、血管が一気に拡張することにより片頭痛が起きる場合も。また交感神経が優位になりすぎると血管が収縮して起きる緊張型頭痛=いわゆる肩こりからくる頭痛が発生。
放っておくと、こんな症状・病状につながることも!!
①パニック障害
交感神経が過緊張になることで、動悸や過呼吸、息苦しさ、不安感などの症状が発生。満員電車や高速道路の渋滞中、歯科医院での施術中など、「逃げられない」環境や閉塞的なところで起こりやすいのだそう。
②過敏性腸症候群
試験やプレゼン前など緊張が強いられる場面でストレスが交感神経を優位にして腸に影響が。下痢や便秘、腹痛が続いたり、腹部に不快な症状が現れることも。
③気象病
気圧や気温などの変化に自律神経が影響を受け、頭痛やめまい、疲労感、関節痛、手足のしびれなどさまざまな症状が出ます。特に台風や梅雨など、気圧が低下するときに出やすいのだそう。
④糖尿病
高血糖となると血糖値を下げるために、膵臓からインスリンを出す必要があるの出そう。インスリンを分泌するためには、副交感神経からの信号が必要。高血糖になるたびに、インスリンが分泌。これを繰り返すことで、インスリン分泌の低下、インスリンが効かなくなることで、糖尿病が発症。
⑤逆流性食道炎
副交感神経が優位になりすぎて、胃酸の分泌が必要以上に増えてしまい、強酸性の胃酸や消化中の食べ物が逆流する症状。食道の粘膜が炎症を起こしてただれなどが起こり、胃潰瘍の原因にも。
⑥高血圧
交感神経が優位になることで、血管が収縮して血圧が上昇し、脈拍数も増加。この状態が続くことで一時的な血圧の上昇から、高血圧につながることも。高血圧は心臓病の原因にもなるので要注意!
⑦更年期障害
閉経を挟んだ前後約10年間を更年期と呼びます。何もなく過ぎる人もいますが、体内の女性ホルモンの状況が大きく変わるため、自律神経が乱れている人は症状が重く出ることが多いといいます。
⑧過呼吸症候群
精神的な不安やストレスなどによる交感神経の働きすぎが原因で、呼吸のペースが速く、浅くなり、息苦しくなって呼吸ができなくなります。几帳面な人、心配性な人に多いそう。
⑨起立性調整障害
起立時に血圧を維持するためには、交感神経が血圧を上昇させる必要がありますが、副交感神経優位の状態だと血圧を維持することができず、立ちくらみ、めまい、起床困難が起こることが。成長期の子どもにも起こりやすい症状。
illustration : Ayaka Otsuka edit&text : Kei Yoshida re-edit:Yuri Iwata[press lab]
※kiitos. vol.23(2022年5月13日発売)より抜粋。
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