kiitos.

たくさん動けば身体が疲れるように、脳にも疲労は蓄積されるもの。しかし、疲れ具合やそもそも疲れているのかどうか判断する術を知らない人も多いのでは? 実は疲労でも働けないパンク寸前の脳を、自覚なく酷使しているケースも。脳の疲れの原因とその休め方について、脳生理学と脳科学の側面から解説します。

教えてくれたのは…

セロトニンDojo代表 東邦大学医学部名誉教授
有田 秀穂先生

医師・脳生理学者。セロトニン研究の世界的権威として、セロトニンの分泌に効果的な身体運動を含んだヨガプログラムを日本ではじめて認証。著書に『脳科学者が教え る「ストレスフリー」な脳の習慣』(青春新書インテリジェンス)など。

早稲田大学理工学術院教授
枝川 義邦先生

脳科学者。研究分野は脳神経科学、人材・組織マネジメント、マーケティングと多岐に渡る。2017年度ユーキャン新語・流行語大賞を「睡眠負債」にて受賞。著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)など。

疲労を回復させる“新時代の脳の休め方”

「現代に生きる人たちは、脳が疲れて眠れなくなっている状態です。いま、不眠で悩んでいる日本人は5人にひとり。本来、疲労を回復させるはずの睡眠というシステムが機能しなくなれば、脳も身体も別の方法で休ませるしかありません」と、警鐘を鳴らすのは、「セロトニンDojo」の代表で東邦大学医学部名誉教授の有田秀穂先生。

“疲労”は大きく分けると「肉体的な疲労」と「精神的な疲労」とに分かれます。さらには、脳の中でも「疲れる脳」と「疲れない脳」があるのだといいます。疲れない脳というのは、呼吸をしたり体温を調節するなど人間が本能的に行っている活動を司る脳の部分のことで、疲れて休んでしまうと生命活動に関わるため、生まれてから死ぬまで働き続けます。一方の疲れる脳とは、「社会活動」に関係する脳の部分。世の中をうまく渡っていくために空気を読んだり、処世術を身につけるために活動する脳は、非常に疲れやすいのだそう。日々生活を営むうえでかかる社会からのストレスは、思った以上に脳に負荷をかけているのです。また、言葉でコミュニケーションを取る人間だからこそ、認知機能を司る大脳皮質には特別なストレスがかかるのだそう。

しかし、いまや脳疲労の一番の原因は「デジタルデバイス」の普及による弊害。

〈Apple〉のiPhoneがアメリカで登場したのが2007年で、日本では翌2008年から販売がスタート。その後、スマートフォンは世界中で普及し、2021年6月には利用者が40億人に到達したとニュースも流れたほど(調査会社「StrategyAnalytics」調べ)。スマートフォンを利用する人の数は、いまや世界人口の半数となり、単純計算で2人にひとりはスマホを持つ時代に。この普及率と並行して、やはり睡眠時間が短くなっていると早稲田大学理工学術院教授の枝川義邦先生も話します。

「スマホやパソコン、タブレットなどのデジタルデバイスを使う時間が長いと睡眠不足になりやすい一方で、睡眠不足だと、こういった電子機器をダラダラと使うようになりやすいという、両方の側面があります。どちらも原因になり得て、このふたつが負のスパイラルを引き起こして、現代社会の睡眠不足をさらに悪化させていると言えるでしょう」

質のいい睡眠が取れなくなってくると、身体の疲労と同じく脳も過労状態になります。脳疲労は、やがてメンタルにも影響し、やる気がなくなったり怒りっぽくなったり、判断力が低下してますますデジタルデバイスを使う時間が増える悪循環に。改善のためには、デジタルデバイスを使う時間を短くして、ダラダラとネットサーフィンをしないのが一番ですが、処理能力が落ちた脳では、なかなかその決断をすることも難しくなってしまいます。

便利すぎるがゆえ、仕事でもプライベートでも、もはや欠かすことができないスマホ。このようなデジタルデバイスを長時間、依存的に利用する“デジタル社会”が到来したことで、現代における脳疲労の問題は、想像以上に深刻なものとなっています。寝ようと思ってベッドに入ってもついついスマホを触ってしまい、ゲームやネットで夜更かししながら、絶えず頭を使い続けてしまうケースも多いのでは? 急激に起こったこの世界的な変化は、今後もますます加速していくことが予想されます。

だからこそ、脳という見えない臓器の癒し方、そして眠ること以外で疲労を回復させる“令和の脳の休め方”を、この機会に学んでおきましょう。

illustration:Kaoru Konagai edit&text:Kaoru Bansho re-edit:Yuri Iwata[press lab]
※kiitos. vol.21(2021年11月7発売)より抜粋。

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