kiitos.
最後に「頑張ったね、大丈夫だよ」と、自分を褒めたのはいつだろう。傷ついたり疲れてしまった心は、きっとやさしさを欲しているはず。そんな自分に気がついて温かさを注いであげよう。思いやりで自分をいたわるご自愛の方法をひもとく。
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教えてくれたのは…
関西学院大学文学部総合心理学科教授 有光興記先生
公認心理師、臨床心理士。恥やあがりの対処方法の研究過程でセルフ・コンパッションという概念に出合う。セルフ・コンパッションではやさしさや幸福感を高めていくことで、その人自らが問題の解決方法を見出すことを目的としている。
セルフ・コンパッションの理解を深めよう
「セルフ・コンパッション」の考え方は言葉で置き換えにくいので、概念を感覚として受け取り、少しずつ感じることで習得していきましょう。
✔︎セルフラブとは異なる
セルフラブ(自己愛)にも「自分をいたわり、他人にもやさしくする」という考え方は含まれます。しかし、傷ついた心に目を向け、自分に対するやさしい言葉かけで気持ちを癒していくのがセルフ・コンパッションなら、自分のしあわせを追い求めて優先することで、自分自身にやさしくなっていくのがセルフラブの考え方。概念は異なるが、心の持ちようはさまざま。自分に合った方法を選べばいいのです。
✔︎自己肯定感を高めなくてもいい
自己肯定感を高めるには、自分の基準を他人に委ねる部分が出てきます。例えば、目標に対する「成功」という基準では、それを達成することで自分を認められます。しかし、一度目標を達成したところでその後も努力は続き、自己肯定感には終わりがありません。一方のセルフ・コンパッションではだめな自分も受け入れるため、人から認められなくても失敗しても自分の基準は変わることがないのです。
✔︎“マインドフルネス”は要素のひとつ
感覚や感情・思考に気がつくことが大切なのは共通していますが、セルフ・コンパッションの考え方すべてが、マインドフルネスに含まれるわけではありません。「自分へのやさしい言葉かけ」はセルフ・コンパッション特有のものでありますし、マインドフルネスが身体や呼吸へのアプローチに寄っている一方で、コンパッションはより対人的な要素が強く、特に自分を悩ませている人に向かっています。
✔︎“素直になる”という考えには注意
セルフ・コンパッションで「自分のことを受け入れる」と聞くと、それは「素直になること」だと捉えることがあるかもしれません。自分の中から自然と「素直になりたい」という気持ちが湧き上がってきたのであればいいのですが、他人から素直になることを強いられるのは、セルフ・コンパッションではないのでご注意を。あくまで自分が感じた感覚や感情を信じて、それを受け入れるだけでOK!
✔︎“感謝”との違いについて
自分の中で育てていきたい感情のひとつに“感謝”があります。感謝とは、人から何かしてもらったことに対するポジティブな気持ち。「相手へお返しをしたい」「多くの人にやさしさを届けたい」という想いは、人間関係を豊かに育むためにも大切にしたい感情です。一方の“コンパッション”は、親が子のしあわせを願うような、見返りを求めない無条件の愛情。方向性が異なる感情だと考えましょう。
✔︎理解するのではなく“気づく”こと
頭で考える“理解”ではなく、自分自身を温かく見つめて“気づく”のがセルフ・コンパッション。後から考えて因果関係を導く“理解”に対し、その瞬間に感じたことを丁寧にひとつずつ、ありのままに受け取るのが“気づく”という感覚。具体的には、かゆい・眠いなどの事実を“身体感覚”として捉えること。理解しようとする心の働きが出てきても、“気づく”だけの感覚に戻していきましょう。
✔︎“忘れる”ことではない
不安な気持ちを受け止めたとしても、それがいつまでも自分の中に留まることはありません。だから負の感情を無理に忘れようとする必要はないのです。怒りや妬みもただの思考であり、一時的に流れてくる感覚というだけ。やさしい気持ちで観察していれば、マイナス感情はだんだんと小さくなっていきます。わざわざ追い出さずとも、「そのままいていいよ」という心持ちでいれば、自然といなくなります。
セルフ・コンパッションの高さを測ってみよう
1〜12の各項目をよく読んで、その項目をどの程度行動するか、次の尺度に従って点数をつけてみましょう。いまの自分のコンパッションの高さを知って、次回以降の記事からのワークを実践してみましょう。
[点数]
1:ほとんどまったくそうしない、2:あまりそうしない、3:どちらとも言えない、4:まあまあそうする、5:ほとんどいつもそうする
- 自分自身の欠点や不十分なところについて、不満に思っているし、批判的である
- 気分が落ち込んだときには、間違ったことすべてについて、くよくよと心配し、こだわる傾向にある
- 自分にとって重要なことを失敗したとき、無力感で頭がいっぱいになる
- 自分のパーソナリティの好きでないところについては、やさしくなれないし、いらだちを感じる
- 気分が落ち込んだとき、多くの人がおそらく自分よりしあわせであるという気持ちになりがちである
- 自分にとって大切な何かに失敗したとき、自分の失敗の中でひとりぼっちでいるように感じる傾向がある
- 何かで苦しい思いをしたときには、感情を適度なバランスに保つようにしている
- 自分自身にどこか不十分なところがあると感じると、多くの人も不十分であるという気持ちを共有していることを思い出すようにする
- 何かの苦痛を感じることが起こったとき、その状況についてバランスの取れた見方をするようにする
- 自分の失敗は、人間のありようのひとつであると考えるようにしている
- 苦労を経験しているとき、必要とする程度に自分自身をいたわり、やさしくする
- 自分のパーソナリティの好きでないところについては理解し、やさしい目で見るようにしている
[採点方法]
合計得点:項目7・8・9・10・11・12につけた点数の合計に36を加え、そこから項目1・2・3・4・5・6の合計点を引いたものを合計する。
計算式:(項目7+8+9+10+11+12)+36−(項目1+2+3+4+5+6)
[結果]
- 12〜27点……自分へのコンパッションが低い→「自分をハグするワーク」からはじめてみよう
- 28〜42点……自分へのコンパッションの高さは平均的→「セルフ・コンパッションボディスキャン」で自分を感じてから「セルフ・コンパッションを高める行動」にもトライ
- 「セルフ・コンパッションを高める行動」も日常的に取り入れてみよう
[参考]セルフ・コンパッション尺度日本語版12項目短縮版(有光他、2016)
illustration:Chiduko Hasino edit&text:Kaoru Bansho re-edit:Yuri Iwata[press lab]
※kiitos. vol.22(2021年12月23日発売)より抜粋。
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