FASHION
連載『お洒落さんのためのファッション用語辞典』では、トラッドファッションから最新のファッションまで、FUDGEでおなじみのファッション用語についてわかりやすく解説します。第32回目は「インディゴ」について。色名としてはおなじみですがそもそも「インディゴ」って何なのでしょう? そんな謎をひも解きます。この連載を読んでファッション用語の背景や起源を知れば、毎日のお洒落がより楽しくなること間違いなし!
【用語解説】まずは「インディゴ」を知ろう。
出典:カラーやシルエットが決めての《A.P.C.》で見つける、大人のマイベストデニム
「インディゴ(インディカン)」とは青色成分のことをさしていて、世界各地の藍の総称です。この藍色成分を含む植物は世界中に生息していて、古くから染料として利用されてきました。マメ科、キツネノマゴ科、アブラナ科、タデ科などあって、その数は100種以上あります。それぞれに葉の形や色が異なり、一年草もあれば多年草もあり、また背の高いものもあれば、低木もあるなどさまざまです。
ヨーロッパでは、大航海時代までアブラナ科の植物である”ウォード”や”タイセイ”などが青色の染料として使われていましたが、大航海時代以降はマメ科のインド藍が発色が強く、その良質さゆえに広まり、インディゴといえばこのインド藍が主たるものとされるようになりました。
繊維に強く定着しない特性から、洗濯を繰り返したり、着続け、使い続けたりすることでしだいに色が落ちていくことでもよく知られています。アメリカではジーンズや綿製品のの主たる染料として使われることが多く、特に深い青色のものを指して「インディゴデニム」と呼ぶのが一般的です。
【歴史】ミイラを巻く布も「インディゴ」だった?!
出典:使い込むほどに柔らかくなり、色合いが深まっていく。《マーティン フェイジー》のブラウンベルト【FUDGE GIRLのためのアクセサリークリップス】
インダス文明の遺跡から、藍染めの染織槽跡が発見されたことから、紀元前3000年ころから、「インディゴ(=藍)」は存在していたと思われます。エジプトのテーベ古墳からはミイラを巻いた布、マムミー布が藍染めであったり、ツタンカーメンのミイラにも藍染の布が使われていたりしたことから、紀元前2500年~1200年ごろには「インディゴ」(藍染め)の歴史が始まっていたとされています。
紀元前300年ごろになると、シルクロードを通じて「インディゴ」(藍染)の製品が流通、広く存在を知られるようになっていきました。実際、中国漢の時代のものと思われる「インディゴ」(藍染め)の糸を用いた刺繍や「インディゴ」(藍染め)の布類が出土しています。
600年ごろになると、アブラナ科の”ウォード”の栽培が始まりました。この”ウォード”は中央アジア原産。ヨーロッパで栽培、利用されて、染料や染製品が一大産業となりましたが、より上質とされるインド藍が輸入されるようになると、やがて衰退していきました。
日本では、奈良時代にインドシナ原産の蓼藍(たであい)が中国を経由して伝わってから、平安、鎌倉、室町時代と時間をかけて少しずつ染めの技術が進歩していきました。江戸時代になると、木綿の反物が一般に流通するようになったため、時を同じくして、あらゆるものに藍染めが利用されるようになり、一気に普及しました。
繊維に強く定着しない特性から、洗濯を繰り返したり、着続け、使い続けたりすることでしだいに色が落ちていくことでもよく知られる「インディゴ(=藍)」。アメリカではジーンズや綿製品の主たる染料として使われることが多く、特に深い青色のジーンズを指して「インディゴデニム」と呼ぶのが一般的です。日本国内では、1960年代以降このアメリカのジーンズが輸入され、広く知られるようになると、同時に「インディゴデニム」というワードが浸透していきました。
【雑学】映画に見る「インディゴ」
「最も悲痛な恋愛小説」と言われる、ボリス・ヴィアンの小説「日々の泡(邦題:うたかたの日々)」が原作の映画、『ムード・インディゴ』(ミシェル・ゴンドリー監督)はご存じでしょうか。タイトルに今回のテーマ「インディゴ」が入っているのは、色のうつろいがキーになった作品だから、です。
物語はパリに暮らす、ロマン・デュリス演じるコランと、オドレイ・トトゥ演じるクロエというふたりカップルの日々を追う形で進んでいきます。はじめはとてもハッピーでキュート、美しい日々なのだけれど、クロエが奇妙な病にかかってしまう後半からは残酷で悲しいストーリーへと移り変わっていきます。その変遷を4色カラーの映像がだんだんと色を失っていき、モノクロームの映像へと移行させることで表現するという、あまり例のないファンタジックな作品です。
私たちには「インディゴ」というワードはデニムが持つようなカジュアルで快活なイメージで響きますが、自分を取り巻く世界が色を失っていく途中の色合いと捉えるとどうでしょうか。色に対して持つイメージは人それぞれですが、この映画を通してみると、「インディゴ」のまた新たな一面を見ることができるかもしれませんよ。
監修:朝日 真(あさひ しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。早稲田大学文学部卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』共同監修。NHK『テレビでフランス語』テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。文化出版局『SOEN』他ファッション誌へ寄稿多数。NHK「美の壺」他テレビ出演。
illustration_Sakai Maori
edit & text_Koba.A
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