FASHION
出典:定番アイテムのチノパンを上品に着こなして【本日のFUDGE GIRL-3月17日】
連載『お洒落さんのためのファッション用語辞典』では、トラッドファッションから最新のファッションまで、FUDGEでおなじみのファッション用語についてわかりやすく解説します。第10回目は「チノパン(チノパンツ)」について。FUDGE GIRLも大好きなトラディショナル・スタイル(通称トラッド)に欠かせないこのアイテムについて、その背景や起源を知れば、毎日のお洒落がより楽しくなること間違いなし!
Index
【用語解説】
まずは「チノパン」を知ろう。
「チノパン」とはチノ素材で作られた主にフルレングスのパンツのことを言います。チノ素材とは綾織のコットン地の一種で、もともとの色は白。それをベージュやカーキに染めたものが現代では主流となっています。
【チノパンの歴史】
発祥のきっかけはきっかけは英国軍の白い軍パン
いまではトラッドスタイルやワークスタイルのスタンダードアイテムのひとつとして広く認知されている「チノパン」ですが、そのルーツをたどっていくとイギリスの軍隊に行き着きます。「チノパン」というとアメカジ、ゆえにアメリカのものというイメージが強いと思いますが、実はイギリスが発祥の地と言われています。
19世紀ごろ当時のイギリス軍が軍服として着用していたのが後に「チノパン」と呼ばれることになるパンツの原型、ただ当初色は白かったと言われています。でも考えてみてください。軍服とは本来戦地で着用する服であり、機能的で戦いに向き、敵の目に見つかりにくいカモフラージュ性があるべきです。白ければそれに反して汚れやすく(当然ながら戦地ですので血に染まることもあります)、目立って仕方がないですよね。それで、どこかのタイミングから紅茶、コーヒー、香辛料や桑の実などその土地で手に入りやすかった材料を使って白をカーキ色に染めてから履くのが定着していったそうです。
ちなみにここでいうカーキ色ですが、いまでは誰もがグリーン系のオリーブ色を想像すると思います。けれども本来カーキとは「土埃で汚れた」という意味の言葉。すなわちカーキ色といえば正式には土っぽいベージュ色をさし、当時カーキ色に染められたパンツ=ベージュ色でした。
カーキ色(=ベージュ色)の軍パンが「チノパン」と呼ばれるようになるまで
同じころイギリス国内では産業の工業化が進んでいました。イギリス軍が戦地で履いていたカーキの軍用パンツも大量生産されるようになり、やがて海外への輸出が始まります。主な輸出相手国は中国。中国は既にイギリスとの間で貿易がさかんに行われていた経緯があったためです。
そしてこの中国へと輸出されたカーキの軍用パンツを軍需品として買い付けたのが米西(アメリカとスペイン)戦争の際、フィリピンに駐屯していたアメリカでした。それ以前フィリピンはスペインの統治下だったことからスペイン語が公用語化していたのですが、スペイン語で中国はCHINO(チノ)。それでアメリカ人たちは中国から輸入したパンツのことを「チノパン」と呼ぶようになったようです。これが呼び名としての「チノパン」の始まりとなります。
その後アメリカでは「チノパン」が正式に軍のユニフォームとして採用されることになり、それにともなってアメリカ国内でも「チノパン」の生産が始まります。それはイギリス軍オリジナルの「チノパン」に手が加わって、進化を遂げたデザイン。イギリスで作られていた「チノパン」の生地は1本糸を綾織りした比較的リーズナブルなチノ素材でしたが、アメリカ製の「チノパン」は2本の糸を撚り合せて作るウエストポイント(ウエポン)素材が採用されました。ウエポン素材の丈夫さはチノ素材の2倍とも3倍とも言われ、光沢とぬめり感があってしなやか。アメリカ・ニューヨーク州ウエストポイントにある上級士官学校の制服を元にして質を向上させ、戦地を筆頭に負荷のかかる環境下でも履き続けることのできるアイテムにしたのです。いまでもなおアメリカでは軍用として「チノパン」が生産され続けていますが、この間にもボタンフライ(開閉)だったのが、着脱が楽なジップフライ(ジッパー開閉)へと仕様が変更され、さらに実用性が高められています。
こうして質と実用性が高まったことが、結果的に現代まで多くの人に日常的に着やすい「ベーシック」「カジュアル」として支持され続けるきっかけになったとも言えるのかもしれません。
【チノパンの雑学】
アメリカのプレップスクールに通う学生たちが日常着として取り入れたことで、一気にファッションアイテムとなった「チノパン」
1980年代になるとアメリカでは「プレッピースタイル」と呼ばれるアイビーリーグなどの一流大学への進学を目ざすためのプレパラトリースクール(通称プレップスクール、私立学校のこと)に通う学生たちのスタイルが流行しました。60年代に流行した「アイビールック」から派生したもので、この時代、プレップスクールに通っていたのは「アイビールック」の流行をオンタイムで謳歌していたアイビーリーガーたちの子息の世代にあたります。「プレッピースタイル」は「アイビーリーグルック」よりも少々カジュアル、上質なベーシック服を着崩したスタイルです。代表的なアイテムは紺ブレやボタンダウンシャツ、スウェット、デニム、スニーカー、ショートパンツ……など。「チノパン」もそのひとつでした。プレップスクールに通う学生たちは、そもそも軍用だったはずの「チノパン」の丈夫さや実用性に着目したのでしょうが、もしかするとそれだけでなく、あえて軍用のアイテムを日常着にするという遊び心もあったのではないでしょうか……。
その後「プレッピースタイル」は日本にも紹介されて大流行。その流行に日本的な解釈がトッピングされて追随したのが、1980年代後半〜90年代前半に10代、20代の若者の間で流行した「渋カジ(渋谷カジュアル)」や「アメカジ(アメリカンカジュアル)」です。「渋カジ」や「アメカジ」を構成するべく若者たちがピックアップされていたアイテムはポロシャツやデニム、コインローファーなどで「プレッピースタイル」と共通するアイテムが多数あったことがわかります。「チノパン」も同様に支持されるアイテムの筆頭で、街は紺ブレ×チノパン×コインローバーのコーディネートに身を包んだ学生たちであふれかえりました。ブランドで言えば、《ラルフ ローレン》《バナナ・リパブリック》《ブルックスブラザーズ》《Jプレス》《コーチ》《エルエルビーン》……など特にアメリカのブランドが人気で、これらのブランドはいまでも「トラッド」ファッションの本流として、根強いファンに支持され続けています。
こうして見てみると、現代における「トラッド」や「ワーク」ファッションに「チノパン」が欠かせない理由が見えてくる気がしませんか? 「チノパン」は「トラッド」スタイルが日本で流行することになったきっかけともいえる「アイビー」「プレッピー」スタイルを生み出したアメリカ国内の学生たちの愛用品であったわけですし、アメリカ軍にとって仕事(=ワーク)で欠かせないユニフォームなのですから。
今の気分で「トラッド」を着こなすのにもやっぱり「チノパン」はマストアイテム
丈短感がいまっぽい《ラルフ ローレン》のチノパンから白いソックスをのぞかせるのも、レイヤードした2枚のカットソーをパンツにインするのも2021年っぽいトラッドスタイル。
出典:ワードローブに必携のチノパン、どれを選ぶ?
監修:朝日 真(あさひ しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。早稲田大学文学部卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』共同監修。NHK『テレビでフランス語』テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。文化出版局『SOEN』他ファッション誌へ寄稿多数。NHK「美の壺」他テレビ出演。
illustration_Sakai Maori
edit & text_Koba.A
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