FASHION

FUDGEお馴染みの着こなしやアイテムを”ディグる(深掘りする)”特集連載【FUDGE dig.】。数ある冬アウターの中から、狩猟や軍用として生まれた背景がある「バルマカーンコート」が5回目のテーマ。

数あるバルマカーンコートの中でも、特別な一枚を生み出した《nanamica(ナナミカ)》をフィーチャー。ブランドの哲学が詰まった、シグネチャーアイテムの“ひみつ”を探ります!

左・中:野村さん愛用品、右:新作

GORE‑TEX×ドレスコート。機能美とエレガンスを両立させた《ナナミカ》の名品

「UTILITY」と「SPORTS」をキーワードに、今の気分に寄り添うスタンダードウェアを提案する《ナナミカ》。“七つの海の家”という意味を持つブランド名には、海が湛える自由さやリラックスしたムードを大切にしながら、国境や思想にとらわれないもの作りを発信する姿勢が込められています。

コレクションの中でも人気が高く、毎シーズン繰り返し作られているのが、2レイヤーのCOTTON GORE-TEX FABRICSを使用したバルマカーンコート。その誕生背景とデザインのこだわりを、「この機会を20年待ってました!」と熱い言葉をくれた、ナナミカ代表取締役の野村剛司さんにうかがいました。

 

Q1 《ナナミカ》のバルマカーンコートは、いつ生まれたのでしょうか?

野村: 2レイヤーのCOTTON GORE-TEX FABRICSを使用したバルマカーンコートが登場したのは2021年FWですが、そのルーツは20年ほど前に遡ります。2003年にナナミカを設立し、最初に私たちが手がけたのが、《THE NORTH FACE Purple Label》のGORE-TEXを用いたドレスコートです。その後、グローバルブランドとして《ナナミカ》を立ち上げる際、“GORE-TEXのドレスコートをシグネチャーに”と定め、ピッティ・イマージネ・ウオモ(イタリアで開催されているメンズ最大の見本市)で発表。これが現在のモデルの誕生につながっていきます。

2010年SSから《ナナミカ》で展開している3レイヤーのCOTTON GORE-TEX FABRICSのステンカラーコートは、“海好きなクリエイターの通勤着”をテーマに、スプリットラグラン(前=セットイン/後=ラグラン)のデザインで提案していました。ですが、もっとリラックスしたムードを持った新たなコートを作りたくて、2021年FWに、一枚袖のラグランスリーブ、柔らかな手触りの2層の表地、ハウスチェックの裏地を組み合わせた、バルマカーンコートが完成しました。

《ナナミカ》アーカイブのカタログたち。

 

Q2 《ナナミカ》ならではのデザインの特徴や素材へのこだわりを教えてください。

野村:ベースにあるのは60年代のバーバリーのヴィンテージコートです。クラシックな質感を、時代に合わせゆったりとしたAラインへ落とし込んでいます。

GORE-TEXといえば、ナイロンやポリエステル、コットンでも混紡が主流の中、表地に “コットン100%”を使うのは、世界でも《ナナミカ》だけのエクスクルーシブ。また、経糸にベージュ、緯糸にオレンジを用いて試行錯誤した生地は、トラディショナルな玉虫色のような独特の光沢感も特徴です。日本のドレスコート工場で、ていねいに品よく縫製している点も大切にしています。

《ナナミカ》のもの作りの基本は、デザインはクラシックだけど中身はハイブリッド。相反する要素をミックスして、それぞれの要素をうまく引き立てることを意識しています。

2025年FW新作のバルマカーンコート

 

Q3 世界で《ナナミカ》だけの特別なファブリックの特徴は?

野村:コットン100%の60/2(ろくまる双糸)コットンツイルにGORE-TEXメンブレンを貼り合わせた2層の生地を表地に採用しています。「コットンなのに防水?」と思われるかもしれませんが、コットンの表面には撥水加工を施しており、張り合わせたメンブレンにより、中に着用している服が濡れることはありません。

機能性を追求するGORE-TEXは、アウトドアやスポーツ分野のようにフィールドで通用するアイテムを作ることができる、一部のブランドに使用が限られています。スポーツ分野にルーツを持つ《ナナミカ》だからこそ扱える素材であり、実現した特別なファブリックです。

また、高機能ゆえにデザイン面のレギュレーションも多く、製品はGORE-TEX社の厳密なレインテストに合格してはじめて、GORE-TEXのタグを付けることができます。

表地に採用している、コットンツイルにGORE-TEXメンブレンを貼り合わせた生地の見本

 

Q4 裏地に使用しているオリジナル“ハウスチェック”の特徴は?

野村:《ナナミカ》のハウスチェックは、ブランド名の“七つの海の家”にちなみ、7本のラインとブランドカラーのネイビーで構成しています。

当初は、表地のベージュと裏地のネイビーの組み合わせに少し違和感もありましたが、今では「このネイビーこそが《ナナミカ》」とわかるアイコンに育ちました。たとえばMcGREGOR(マックレガー)のドリズラーやバーバリーのコートのように、ハウスチェック=ブランドの目印になっていると思います。

ブランド名の“七つの海の家”にちなみ、7本のラインとブランドカラーのネイビーで構成されたハウスチェック。

愛用のバルマカーンを纏い、ハウスチェックについて語る、野村さん。

 

Q5 定番としてリピート制作されていますが、デザイン面での変更点はありますか?

野村:大きな変更はありませんが、二つのディテールを見直しました。

まずフロントポケット。当初は雨の侵入を防ぐためフラップ付き片玉縁にしていましたが、所作にやや煩わしさがあったため、手の出し入れがスムーズなスラントポケットに変更し、袋布もスレキからGORE-TEX FABRICSへ切り替えています。

もう一つは袖口と裾のステッチです。以前は経年でコットン地が擦れて中のフィルムが見えないよう共布で補強していましたが、長年の使用で耐久性が担保できたため、現在は、トラディショナルなデザインに倣い、表からステッチが見えない仕様に変更しました。

左・旧モデル:フラップ付き片玉縁のポケット、表にステッチが見えている袖。 右・現モデル:出し入れがスムーズなスラントポケット、表からステッチが見えない袖の仕様に変更。

下・旧モデル:表からステッチが見える裾、上・現モデル:スマートな雰囲気になるステッチが見えない裾の仕様に変更。

 

Q6 素材面での変更点はありますか?

野村:2025年SSから、表地は非フッ素の防水透湿メンブレンとフッ素フリーの撥水へ切り替え、環境配慮型にアップデートしています。

同時に裏地もリサイクルポリエステル×オーガニックコットンの混紡へ。見た目はほぼ変わりませんが、混紡率や打ち込みの変更でわずかに軽くなり、コットン COOLMAX®を用いることで吸汗速乾性も高まりました。

《ナナミカ》はグローバルに展開しており、欧米の厳しい基準にも応える必要があります。できることから着実に環境配慮を進め、ブランドの姿勢を、プロダクトを通じて発信していきたいと思っています。

 

Q7 環境配慮型の社会へ向けて、ファッションにできることはなんでしょう?

野村:日本でも一時期は盛り上がりましたが、欧米の基準に比べると、サステナブルやエコに対する姿勢はまだ途上にあると感じています。

私たちは、ひとつひとつの取り組みを着実に行い、マイナーチェンジを積み重ねながらシグネチャーアイテムを育てることで、環境に配慮した選択が当たり前になることを目指しています。さらに、“それを選ぶこと自体がかっこいい”という空気を、業界やメディアとともに伝えていく必要があると考えています。

 

Q8 長く愛用してもらうために、意識しているポイントはありますか?

野村:GORE-TEXや撥水加工のアイテムは“洗わないほうがいい”と思われがちですが、撥水低下の主な原因は表面の汚れです。汚れたらクリーニングに出すことで、撥水効果が戻ります。

それと、デニムのように経年変化で出るあたりや色の変化も、このコートの楽しみのひとつ。時間とともに育てる感覚で、長く着ていただけたらうれしいです。

5年ほど愛用しているバルマカーンコートを持ってきてくれた、野村さん。使い込むほど経年変化で程よく”あたり”が出て、それによってまた愛着が湧くのだそう。

 

Q9 《ナナミカ》流の着こなしのアドバイスはありますか?

野村:「年齢・性別・国籍を問わず、老若男女串刺しに!」というテーマで作っているので、誰が着てもサマになるコートだと思います。

たとえば、スウェットのセットアップに羽織るなど、ドレスとカジュアルのミックスにぴったりです。足元はスニーカーではなくレザーシューズを合わせることで、オール・ドレスでもオール・カジュアルでもない“間”のバランスが生まれます。これはコートのデザインとも通じるところ。もちろんスーツの上にもよく合うので、幅広いスタイルに合わせて楽しんでください。

 

Q10  最後に、FUDGE GIRLをはじめとする女の子たちにおすすめのポイントは?

野村:展示会でも女性たちに便利と好評なのが、ボタンを閉めたまま内ポケットにアクセスできる点です。ボタンの間隔に合わせてポケット位置を調整しているので、スムーズにアイテムを出し入れできます。

また、大きめサイズを着用して袖を折り返すのも女性ならではのかわいさだと思いますが、バルマカーンコートの認知が高まったこともあり、数年前から女性用のサイズも展開しています。ぜひウィメンズを主に取り扱う代官山の「ナナミカ D.W.S.」にもお立ち寄りください。

ボタンを閉めたまま、内ポケットにアクセスしやすい作り。

内ポケットのZIPを通常の仕様より少し下にすることで、ボタンを閉めても取り出しやすい。

 

《ナナミカ》のバルマカーンコート

2L Cotton GORE-TEX Balmacaan Coat¥132,000/nanamica(ナナミカ)

どんなシーンにもしっくりと馴染む、トラディショナルなデザインをベースに、今の空気と最新鋭のファブリックを搭載した、ブランドのシグネチャーコート。

 

問い合わせ

ナナミカ D.W.S. tel:03-6809-0058

 

ここでおさらい!バルマカーンコートって?

19世紀後半に生まれた、スコットランドの地名“バルマカーン”にちなんだコート。ステンカラー(コンバーティブルカラー)、ラグランスリーブ、比翼仕立てが基本のつくり。今のワードローブにもすっと馴染む王道コート。

▶︎詳しくはこちらをチェック

 

photograph_Wacci
text_Yoshino Midori
edit_Takehara Shizuka

 

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