CULTURE & LIFE

日本映画界の新鋭、山中瑶子監督の商業映画デビュー作『ナミビアの砂漠』は、カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞するなど海外でも注目を集める話題作。

クリエイターで刺激的なホンダ。会社勤めで心優しいハヤシ。そんな対照的な2人の男性を翻弄する女性、カナの人間模様を描いた本作は、今を生きる若者たちをみずみずしいタッチで描いている。そこでカナを演じた河合優実氏。ハヤシを演じた金子大地氏にインタビュー。近年、映画やドラマで幅広く活躍している2人に、映画の話はもちろん、人付き合いのうえで大切にしていることなど、いろんなお話をきいてみました。

 

ーーカナは厄介な女性ですが、どこか憎めなくて、その身勝手さが爽快に感じることもある新しいタイプのヒロインです。河合さんはカナについて、どんな印象を持たれましたか?

河合:脚本を読んだ時からすごく惹かれていました。こういう種類の破滅のしていき方はこれまで自分がやったことがないキャラクターで、すごく新鮮だったんですよね。心が壊れてしまう女性に色気やロマンを見出す物語も多いですが、カナを通してやりたかったのはそのハチャメチャな身の振り方が笑えたり、カナに自分を重ねちゃう人のことも肯定してくれるようなエネルギーがある。カナは後半に向けて不安定になっていくし、人のことを傷つけもするけど、それでも面白いという印象が強い人だなって、脚本を読んだ時に感じたんです。だから、リアルでありながらも魅力的なキャラクターにしたいと思っていました。

 

(C) 2024「ナミビアの砂漠」製作委員会

 

ーー金子さんから見てカナはどんな女性でした?

金子:すごく人間味が溢れていて面白い方だと思います。恋愛関係になったら相当厄介な女性ですけど、どこか憎めないチャーミングさがあって、「何だろう、この子?」って気になってしまう。河合さんが演じたからこそ、そういう魅力が生まれたんだと思いますね。

 

ーーハヤシがカナと付き合っているうちに関係性が変化していくのが面白いですね。最初はカナをリードしていたのに、次第に立場が逆転してカナに引っ張られるようになる。

金子:そういう立場の逆転は恋愛でよくあることで、その関係性の変化にハヤシが慣れていくところが面白いと思いました。ただ、脚本を読んだだけだと、ハヤシがどういう人物なのかわからないところもあったので、現場で実際にカナと対面して徐々にハヤシのことを掴んでいきましたね。

河合:最初、カナはホンダにはない刺激をハヤシに求めていたんだと思います。でも、一緒に暮らし始めると、だんだん恋愛にほころびが出てくる。きっと、カナは付き合っている相手の魅力とか面白さを楽しみ尽くしてしまうと、つまらなくなってしまうんでしょうね。

 

 

ーーカナと付き合う男たちは大変ですね。(笑)最初の頃、ハヤシは自由奔放な感じでしたが、カナと暮らすようになってからはおとなしくなってホンダみたいにカナの世話を焼いたりするようになる。

金子:そうそう。気がついたらハヤシがホンダ化しているんですよ(笑)

河合:カナはホンダと付き合い始めたときは、ホンダのことをちゃんと好きだったんだと思います。でも、付き合っているうちにだんだんつまらなくなってハヤシに惹かれていった。そういうことを繰り返してきたんでしょうね。

 

ーーデートしている時ならまだしも、家でも刺激的な男でい続けるのは大変です。ハヤシが家で仕事をしているのがつまらなくてカナはハヤシに絡むようなる。そんな2人のやりとりが痛々しくもあり、おかしくもありました。カナが何か言い出した時に、ハヤシが「また面倒なこと言い出したぞ」っていう顔をするじゃないですか。何も言わなくても目の演技だけでわかるのがおかしくて。

河合:そこはフランスで上映した時に笑いが起こってました(笑)。

金子:ほんとに?(笑)

 

(C) 2024「ナミビアの砂漠」製作委員会

 

ーーフランス映画では恋愛を男女間の駆け引きのように描くことが多いので、カナとハヤシのやりとりが面白かったんでしょうね。2人はケンカを繰り返すようになりますが、狭い部屋でのケンカの演技は大変だったのでは?

河合:ケガをしないようにリハーサルを入念にやって、どういう風に動くのか、全部振付のように決めて集中して演じました。感情的なシーンだけど感情的になると危ないので。

金子:でも、やっていてすごく楽しかったですね。河合さんの叩きっぷりが良くて、途中で笑いそうになったこともありました(笑)。

 

ーーケンカだけど暴力的ではなくて、どこかダンスのようにも見えたりもしてユーモラス。ジャック・ドワイヨン監督の映画『ラブバトル』(2013年)を思い出させるようなケンカ・シーンでした。

河合:その映画、監督から「参考にしてください」と現場で観せてもらいました。女性が絨毯でぐるぐる巻きにされたりするんですよね。

 

 

ーーそうでしたか! こっちはケンカが回を重ねるごとにルーティーンっぽくなっていくのもおかしいですよね。そんななか、ハヤシは手をあげずにカナの暴力や感情を受け止めます。よく我慢できるな、と思いましたが、金子さんはハヤシのカナに対する向き合い方をどう思われました?

金子:僕だったら、あのケンカはすごく楽しめる気がするんですよ。「いくらでも付き合ってやるから、もっと来いよ!」って煽りつつ、でも手は出さない。

 

ーー映画でもそんな感じでしたね。3回目の喧嘩のシーンでは、ハヤシは殴ってみろと言わんばかりに胸を突き出してカナにどんどん迫っていく。

河合:あれは金子さんのアイデアだったんです。リハーサルで「ちょっとやっても良いですか?」って。

金子:僕がイメージしていたのは、年の離れた弟との兄弟ケンカでした。僕は一人っ子なので、ずっと兄弟ケンカをしている友達が羨ましかったんです。

 

ーー言われてみればそういう感じですね。最初はカナの攻撃に参っていたハヤシに余裕が出てきているのが伝わってきました。自分のペースを掴んだんだなって(笑)。

河合:ハヤシは優しいですよ。しっかりとカナを受け止めてくれて、もう、涙が出るほど優しい。面倒くさすぎますもん、毎回、カナの喧嘩に付き合うのは。

金子:ハヤシはカナのことをすごく愛していると思うんですよ。だから、カナからやられた時に、どう出るかによってハヤシのカナに対する気持ちがわかる。だからケンカにユーモアを出していく必要があると思ったんです。

 

(C) 2024「ナミビアの砂漠」製作委員会

 

ーー以前、知り合いの女性から、恋人や夫婦間でケンカをしている時に男性が正論を言っちゃダメ、と言われたことがあったんです。そうされるとすごく腹が立つらしくて。映画でもハヤシはカナに正論で対応してなだめようとしますが、それが逆に火を注いでしまう。そういうやりとりもリアルでした。

金子:正論を言っちゃダメ、というのは、すごくわかりますね(笑)。正論を言いたいけど言ったらこじれる。そこはもう、ユーモアに変えていくしかないと思います。2人で笑えることにしていかないと。

河合:そういう時にユーモアに持っていけるって器が大きいなあ。

 

ーーでも、怒りをユーモアに変えられたら、今の世の中、もっと平和になるかもしれませんね。

金子:宇多田ヒカルさんがインタビューで「絶望の反対はユーモア」と言っていて、めっちゃ良い言葉だ!と思ったんです。

河合:ユーモアって心に余裕がないと生まれませんもんね。

 

ーー金子さんにとってユーモアはすごく大切なものなんですね。

金子:大切だと思いながら生きていますね。人との距離を縮めるには、ユーモアがいちばんだし、欠点も自分の恥ずかしいことも全部ユーモアに変えられたら何とかなる、と思っています。そういうところはハヤシと通じるなって、ケンカのシーンを演じている時に気づきました。

 

 

ーー金子さんがユーモアを大切にしているように、河合さんが人間関係で大切にしているものはありますか?

河合:誠実さですかね。

金子:ほう!

河合:どんな時でも人に誠実に接することは心掛けています。「苦手だな〜」とか「なんでこの人はこんなことを言うんだろう」と思う時も雑に接したくない。そうしないと、後で自己嫌悪に陥っちゃうんです。「あの時、あの人のことを雑に扱っちゃったかも」って心に引っかかってしまう。もしかしたら、SOSを発していたかもしれないのにって。友達からの軽い相談とかでも、それを自分事として捉えてなかったことに罪悪感を感じてしまうんですよね。

 

ーーそういう誠実さが人望に繋がるんでしょうね。カンヌ映画祭の公式インタビューで、金子さんや山中監督が「撮影中は河合さんを頼りにしていました」とコメントしていたことを思い出します。

河合:それを聞いた時はびっくりしました。

金子:河合さんはほんとに優しいんですよ。どんな人にも平等に接している。切羽詰まっている時だってあるはずなのに、人の話にちゃんと耳を傾けるのはすごいことだと思います。

河合:そうかな?

金子:うん、なかなかできないと思う。

 

ーーユーモアと誠実さ、どちらも今の社会に重要なことだと思います。この映画では、カナもハヤシも特に夢を抱いているわけでもなく、空虚さを抱えながら日々ふわふわと生きています。そんなどこにでもいそうな若者たちが、生き生きと描かれているのがリアルだし魅力的でした。

河合:キャラクターが愛おしい、というのは私も感じていました。カナは演じる前から、人としてというよりキャラクターとして大好きでしたが、ハヤシもホンダも映画を観れば観るほど愛おしい。人物の善悪や倫理を映画でジャッジせず、この時期の彼らはこんなふうに生きている、という状態をありのままに描いているところが気に入っていて。だからこそ、できる表現もあるし、良い面も悪い面も混じり合って混沌としている様子をドライに描くことで、キャラクターが魅力的に感じられたんじゃないかと思います。

 

ーーそうですよね。3人それぞれが恋愛や人生と格闘している姿を描いている。そういうところに共感する人も多いんじゃないかと思います。

金子:僕は山中さんと河合さんが共通して持っているものが、この映画に詰まっているような気がするんですよね。

 

 

ーーというと?

金子:それが何なのか、言葉で表現するのは難しい。山中さんと河合さんの性格は全然違うけど何かが似ているんです。2人が持っているオーラというか強さみたいなもの。それがカナを通じて爆発しているような気がするんですよね。

河合:私も山中さんとは共通言語というか、同じ感覚を持っている気がするんです。私と山中さん、私とカナも性格は違うけど、何か共通するものがある。それって何なのかな……。

金子:(ニヤリとして)僕はちょっと犯罪に近い気がするんですよ。

一同:えっ!?

金子:山中さんと河合さんが出会ったことが事件なんですよ。2人が出会ってカナっていうキャラクターを生み出した。カナは魅力的だけど、ちょっと怖いし、掴めないじゃないですか。そういうところって山中さんのなかにもあるものだと思うんですよ。でも、同時に違うところもあって。河合さんとカナとは違うけど、河合さんがカナを演じることで河合さんはカナを自分のなかに宿した。

河合:ヤバい。何を言っているかわからないんですけど(笑)

金子:これはもう、「ナミビア事件」です(笑)。映画を観た人がどう感じるかはわからない。もしかしたら、影響を受けすぎてしまう人も出てくるかもしれませんが、ぜひ観てほしいですね。大事件なので。

 

 

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model_Kawai Yumi,Kaneko Daichi
photograph_Osada Kasumi
styling_Noriko Sugimoto,DEMI DEMU 
hair&make-up_Takae Kamikawamodshair), MEI (W)
interview & text_Murao Yasuo
edit_Takehara Shizuka

 

映画『ナミビアの砂漠』

2024年 9月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

(C) 2024「ナミビアの砂漠」製作委員会

脚本・監督:山中瑶子
出演者:河合優実 金子大地 寛一郎
製作:「ナミビアの砂漠」製作委員会
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024『ナミビアの砂漠』製作委員会

公式HP:https://happinet-phantom.com/namibia-movie/#

 

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