CULTURE & LIFE
ファッションモデル/女優として活躍する市川実和子さん。熱狂的なファンを持つ、いましろたかしの漫画をアニメーション映画化した『化け猫あんずちゃん』には、声優として出演されています。お寺で飼われているうちに化け猫になったあんずちゃん。バイトをしながら自由気ままな生活を送っているところに、母親を亡くした少女、かりんが現れる。どうしても母親に会いたいかりんは、あんずちゃんと一緒に地獄に乗り込むことに‥‥。
森山未來さんがあんずちゃんの声と動きを演じたことも話題の本作で、市川さんが声と動きを演じたのはかりんの母親、柚季。ロトスコープという珍しい手法で撮影された本作は、市川さんにとって新鮮な体験だったとか。映画の話はもちろん、市川さんが「可愛い!」と絶賛するあんずの魅力や市川さんの少女時代のことなど、いろいろと語ってもらいました。
————今回の作品は、まず実際に役者が演技をして撮影。それをアニメーションとして描く「ロトスコープ」という手法が取られたそうですね。撮影現場はどんな感じだったのでしょうか。
「私のシーンは全部ロケで撮影しました。最初に柚季が登場するホテルのシーンも、千葉県のホテルに行って撮影しているんです。だから完成したアニメの映像を観ると、すごくリアルで演技した時の感じがそのままアニメになっている。私の出ているシーンって、鬼とかカエルちゃんとかいろんな妖怪が出てくるじゃないですか。鬼の役者さんたちは赤いタイツ着て腰ミノをつけて、カエルちゃん役の吉岡さんは全身緑の服を着て演技しているんです(笑)」
————不思議な現場ですね(笑)。
「メイクはしていないし、マイクは(映像に)入っているし、音と動きだけを撮っているような撮影で、舞台稽古みたいな感じでしたね。だから、撮影している間はどんな作品になるのか想像がつかなかったんですけど、完成したものを観て〈こんな良い話だったんだ〜!〉って感動しました。」
———原作のコミックはあんずちゃんの日常を描いていましたが、映画は市川さんが演じた柚季と娘のかりんちゃんを中心にした家族の話であり、あんずちゃんとかりんちゃんの友情の話でもありましたね。柚季という女性についてはどんな風に感じられました?
「すごく包容力がある女性ですよね。若くして死んでもクヨクヨしてない。地獄で働いていても前向きだし、きっと一生懸命生きていた人なんじゃないかなと思いました。でも今回は、あまり役については深く考えないようにしました。化け猫が出てきたり、地獄に行ったりするめちゃくちゃな話だし、そのめちゃくちゃさを楽しめばいいんじゃないかって思ったんです。」
———かりんちゃんについてはどう思われました? 大人の前では良い子のふりをしたり、自分に好意を持っている男子にわがままを言ったり。したたかなところもあるけれど、ダメな父親を支えたり、母親に会うために地獄まで行ったりするけなげな一面もあって複雑な女の子でした。
「かりんちゃんは、いつも本当の自分を出せていないと思うんですよ。でも、あんずちゃんの前なら感情をむき出しにできる。この映画の脚本を読んだ時に、良いな、と思ったのは、かりんちゃんの口が悪いところなんです。全然、良い子じゃない。そして、あんずちゃんはロクでもない(笑)。そんな2人の関係が面白いと思ったんですよね。ベタベタした関係じゃなくて、さらっとしていて良いなって。」
———そういう関係になったのは、あんずちゃんのキャラクターも大きいのかもしれませんね。やってることや言ってることはオジサンだけど、猫だから不思議とそれが許せるというか、可愛く見える。
「あんずちゃん、可愛いですよね〜。あの可愛さってなんだろう。人間だったら一緒にいるのは無理かもしれないけど(笑)」
———あんまのバイトをしたり、庭でイカを焼いて食べたり、猫らしく自由に生きてますよね。その自然体な感じが羨ましかったりもして。
「それはありますね。これをやったら怒られるんじゃないか、とか、人は〈やったらいけないこと〉を考えて自分を枠にはめてしまうじゃないですか。あんずちゃんがそういうことをしていないところが良いのかも。あんずちゃんと一緒に暮らしているおしょーさんも良いですよね。出てくるキャラクターがみんな愛せるんです」
———ちなみに市川さんは猫はお好きですか?
「私、実は猫アレルギーなんです。だから猫は触れなくて……」
———そうなんですか! 意外です。
「犬は飼ったことがあるんですけど、犬もアレルギーなんです(苦笑)。でも、猫も犬も可愛いですよね」
———あんずちゃんがいても同居できないですね(笑)
「同居は無理だけど、あんずちゃんの生き方には憧れます。もしかしたら、いちばん幸せな生き方かもしれない」
———ストレス無さそうですよね。だから、かりんちゃんはあんずちゃんと出会って変わったのかもしれませんね。市川さんはかりんちゃんと同じ歳の頃は、どんな少女だったんですか?
「今、姪っ子が同じくらいの年齢で多感なんですよ。姪っ子を見ながら私もこんな感じだったのかなって思いますね。子供の頃は転校ばかりで、いろいろ忙しい日々でした。だから、その頃の記憶ってあまりなくて。自分では大変だとは思っていなかったんですけど、今から振り返ると自分なりに多感な日々を送っていたんだろうなって思いますね」
———そういう子供の頃の経験は、今の自分に影響を与えていると思いますか?
「与えていますね。この頃って、人格形成のうえですごく大事な時期だと思うし。引越しが多かったせいか、私は変化することに対してまったく恐怖心がないんです。この土地でずっと暮らしたいとか、そういうことを考えたことがなくて、いつでも、どこにでも行ける。」
———変化することに不安を感じないというのは逞しいですね。新しい世界に飛び込んでいける。
「子供の頃から同じ家とか、同じ土地に住んでいる人の映画を観ると、羨ましいな、と思う反面、理解できないところがあるんですよね。いつでも動けるようにしているので、家具をあまり買えないんですけど。風来坊なんですよね(笑)」
———どこでも生きていける、という点では、あんずちゃんっぽいかも。
「そうですね。だから好きなのかも。でも、最近になって変わるっていうのは怖いことなんだなって思うようになってきました。歳をとってきたからかな」
———気持ちを切り替えたい時やリセットしたい時は、さっと旅に出たりするんですか?
「そういう時は、特別なことをするのではなく、日々の生活を丁寧にするようにしています。例えば料理をして、食材を無駄なく使い切った時はすごく晴れやかな気持ちになるんですよ。生きてる!って(笑)」
———生活を見直すことが、自分を見直すことに繋がるんですね。
「昔はそういうことって全然できなかったんですよね。でも、最近は少しずつできるようになってきた。忙しくて日頃はおざなりになっていることを、ちゃんとやってみる。そういうシンプルなことが大事なんだなって、最近は思いますね」
model_Ichikawa Miwako
photograph_Osada Kasumi
styling_Umeyama Hiroko(KiKi inc.)
hair&make-up_Chinone Hiromi(Cirque)
interview & text_Murao Yasuo
edit_Takehara Shizuka
映画『化け猫 あんずちゃん』
全国ロードショー
監督:久野遥子、山下敦弘
原作:いましろたかし『化け猫あんずちゃん』(講談社KCデラックス刊)
森山未來 五藤希愛
青木崇高 市川実和子 鈴木慶一 水澤紳吾 吉岡睦雄
澤部 渡 宇野祥平 大谷育江
制作プロダクション:シンエイ動画✕Miyu Productions
配給:TOHO NEXT ©いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会
公式HP:https://ghostcat-anzu.jp/
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