CULTURE & LIFE

左から 大塚智之、夏目知幸、藤村頼正、菅原慎一

 現在のシャムキャッツのことを、ヴォーカル/ギター担当でメイン・ソングライターでもある夏目知幸は“プレーン・ポップ”と例える。なるほど、うまいこと言うなあ、と思う。実際に、夏目知幸、菅原慎一、大塚智之、藤村頼正という幼馴染み4人によって千葉県は浦安市で結成された彼らは、奇をてらったり、狙いすませたりすることなく、純粋に自分たちが一番聴きたい、そして届けたいと思うポップ・ミュージックのど真ん中を撃ち抜くことをやり続けている。最初のアルバム『はしけ』をリリースしてちょうど今年で10年、順風満帆ではなかった時期もあるし、実際にそうしたいくつもの波を乗り越えてきた。その上で、今彼らが到達したのは、いい歌、いいメロディ、いいリズム、いいフレーズ……それらがサラリと感じられる、でも、そこにはホットな手応えのある純然たるプレーン・ポップというフィールドだったという。

 そんな彼らは、自主企画イベント《EASY》を開催したり、2016年に自身のレーベル=TETRA RECORDSを設立、今はTシャツやパーカなど、可愛いグッズを扱うポップ・アップ・ショップも不定期で開催している。昨年11月に東京・代々木の《THINK OF THINGS》で開催されたポップ・アップ・ショップでは、会場がコクヨのフラッグ・ショップということもあり、シャムキャッツとコクヨによるコラボ文房具も販売され、連日店番に立つメンバーたちも訪れるお客さんやファンと交流をしていた。その一方で、アジアでのライヴ活動にも積極的に展開するなど、まったく休むことがない。

 最新アルバム『Virgin Graffiti』をひっさげ、まもなく全国ツアーも開始されるそんなシャムキャッツの4人に、しっかりリスナーに届けるためあくまで現場にこだわる心意気を訊いた。

Interview with Siamese Cats

―ポップアップ・ショップは去年11月に開催されたもので何度目だったのですか?

夏目知幸:4回目かな。友達が「ポップ・アップ・ショップやったらいいんじゃない?」って言ってくれて。欧米のバンドもそういうポップアップ・ショップをよくやるようになっていたというのもあるし、僕らも自分たちでレーベル(TETRA RECORDS)を立ち上げたりして、グッズ類をもっとちゃんと作っていこうって考えていたタイミングでもあったから、ああ、やってみよっか!みたいな感じですんなり。そこから割と定期的にやるようになっていますね。去年は大阪でもやったし。

菅原慎一:去年12月のは延べ2、3000人くらい来てくれたんですよ。ふらっと立ち寄ってくれたりするお客さんが多くて。開催中には会場でライヴとかのイベントなんかもやったんですけどチケットが全部売り切れたんです。もう一つの大きなきっかけとしては、僕ら《EASY》という自主企画イベントをやってて。そこで、既にいろんなものを売ったりしていたんです。ZINE(自主制作マガジン)とかも扱ってて。そこから《EASY展》というのを開催したり。

藤村頼正:そうやって自分たちのイベントの中で店をやるというのが楽しかったという手応えがあったと思います。

菅原:うん、シャムキャッツはグッズも可愛いね、と初期の頃から言われたりもして自信になったというのもあるかな。

夏目:そもそも何においても、僕らこだわりを持ってる人たちだから、Tシャツとかもダサいの着たくないし、どうせなら自分たちが欲しいと思っているものを手にしていたいって思っちゃう。そこから「もっとこういうものがあってもいいんじゃない?」ってことになっていろんなグッズが増えていった流れもあって。

菅原:そう、シャムキャッツは音だけじゃないんだよっていう思い、絶対にある。だって、ジャケットがイイから聴いてみよう、写真がイイから買ってみようっていうのあるじゃないですか。逆にいえば、こんなにカッコいいバンドなんだから、ジャケットもグッズもカッコいいっていうようじゃなきゃなって思うんですよ。

夏目:音楽だけで足りないってことはないけど、そこにプラスしてくれる装置、みたいな。グッズとかジャケットから入って新しい聴き方をしてくれるかも、新しいイメージになるかも……っていうそんな感じかな。

昨年11月の《THINK OF THINGS》でのポップアップ・ショップの様子

―しかも、11月のポップアップ・ショップは《THINK OF THINGS》という文具メーカーのコクヨが運営するショップの中でした。コクヨとのタイアップでオリジナルのスケッチブックやペンも売っていましたね。

夏目:それは、正直大きいです。自主レーベルで、自分たちの事務所を持って、インディペンデントで活動してますって言っても、どこかふわっとして見られるところがあると思うんですよ。そういうバンドって結構いるし。でも、こういう企業とのタイアップで商品を作ったりすることで、社会とちゃんと関わろうとしているところを見せることもできたと思う。それを僕らはちゃんと自分たちメンバーの手でやっている。そこはすごく重要だと思ってます。

菅原:しかも、それによって自分たちじゃ手の届かないところにシャムキャッツというバンドの存在を伝えることができたと思ってて。そもそもシャムキャッツって生活や日常に溶け込むことができる音楽だから、こういうことがきっかけで普段知るチャンスがないような人に聴いてもらうことができたという気もしていますね。

大塚智之:それに、普段なかなかライヴに来られない人っていると思うんですよ。小さなお子さんがいたりして。でも、ポップアップ・ショップには家族で来てくれる人たちも結構いるんです。そういう人たちと交流できる場にもなっていると思うんですよね。

―確かにメンバーが交代でショップにいますよね。

菅原:「子供ができてなかなかライヴに行けなくなっちゃったけど、こういう場があって嬉しい」って言われたこともありますよ。妊婦さんが子供を連れて朝イチできてくれたりして。あれは嬉しかったですね。でも、じゃあ、ライヴ会場でいつもメンバーがグッズを売ってるっていうのはどうなの?って思ったりもして。お客さんとのつながりも一工夫必要だと思っていて。そういうのを考えるとポップ・アップ・ショップってすごく大事な場だなって思うんですよ。

夏目:で、結局、こういうことで何を伝えられるかっていうと、すべての情報の始まりが現場というか、リアルなところにあるってことなんですよね。場所からの広がりが作れるというのがいいなっていうか。ヴァーチャルじゃないでしょ?

―ええ。シャムキャッツは割とここ数年、東アジアでもライヴを多くやっていますよね。日本国内をツアーしているのと同じ感覚でフラっとアジアにまで。この現場感って今、すごく重要だと思っているんですよ。

菅原:アジアでのライヴや活動はまだまだこれから…って感じなんですよ。もちろん、アジアでライヴをやることは楽しいし、これから大きなテーマになっていくかなとは思っています。

大塚:でも、現場感…という意味ではポップ・アップ・ショップやるのと同じじゃない?

菅原:そうだね。

夏目:ポップ・アップ・ショップとアジアでのライヴ……共通するアティテュードがあるとすれば、とりあえず現場に行ってみて、そこにどういう人たちがいるのかを探って、その場の雰囲気を見て体験して、どういう風にお客さんを増やしていけばいいのか?……を考えたりはするよね。土足でそこに入っていくんじゃなくて、そこの空気を大事にしたいっていうか。やっぱり僕らはその現場を大切にしていたいから。

―大風呂敷を広げすぎず、目の前の興味や関心に従っていってるだけなのに、気がついたら他があまりやっていないことをやっている。それは新しいアルバム『Virgin Graffiti』にも言えることで。シャムキャッツは本当に素直に自分たちが聴きたい、届けたいポップ・ミュージックをとても大事にしていますよね。

大塚:それは本当にそうですね。特に今回は何回かに分けてレコーディングしたんですけど、すごく自然な作り方ができたなと思ってて。

夏目:無理やり広いところに届けようとして曲を作らなかったんだよね。例えば、オリコン・チャートの1位を獲得しようと思ったら、なるべくたくさんのいろんなところに石を投げないといけないじゃないですか? 一つ前の『Friends Again』(2017年)というアルバムは全然そういうのじゃなくて、あの町に住んでるあの娘に手紙を書こう、みたいな感じで作ったんですね。で、今回のアルバムはそれより少し広くしたいな…という気持ちはあったんですけど、やっぱり無理して石をあちこちに投げるようなことはしなかった。受けるとかは全くわからなかったからその不安は確かにあったけど、ちゃんと届けられるところに届けたいという気持ちが一番だなと思っていたからね。このバンドの力というのはもうずっと信じてきているし、前作でそれは確信したんだけど、今回は音楽そのものの力を信じて作った感じ。しっかりしたいい曲を作って、いい録音で作り上げれば、絶対に届くだろうっていう自信はずっとあった。そういう意味では不安はなかった。音楽そのものが持ってる、僕たちの気持ちを高揚させてくれる力をしっかり使うことができればいい作品を作ることができるはずだ、と。こういう気持ちってこれまではあまり感じてなかったかな。自分たちの力でなんとかなると思ってて。でも、音楽そのものの力は絶対あるし、それが必要だし、今はそれが僕らにとって重要だって思えるからね。

ポップアップ・ショップではアルバムの先行試聴会も!

―そう思えるようになったのは何かきっかけがあったからですか?

夏目:さっきのアジアでのライヴとかと関連してくることなのかもしれないけど、海外とかで音楽やってみたことはやっぱり大きかったと思う。言葉はわからないし現場の空気感もその時になってみないとわからない。それでも、いい音楽さえあれば人を喜ばせて躍らせる感動っていうことは絶対にある。そういう意味では、去年……アジアでライヴをやり始めたタイミングがそのきっかけであり、音楽そのものの力を感じ始めた時期だったとは思いますね。

菅原:ちょうどずっとお世話になっていた、僕らの仲間だった一人のスタッフの方が離れて。自分たちの手と力でマネジメントもやっていかなければならなくなったんです。でも、それが大きなきっかけにはなっているというか、もちろんその人にはすごく感謝をしていて、その思いが今回のアルバムのテーマみたいなものにはなっているんですけど、そういう思いも音楽の持つ力とか僕ら自身の力を信じることを自覚させてくれたのかもしれない。今回、ほとんどの曲がそのスタッフの方に向けて作られた感じでしたからね……。

夏目:まあ、僕ら自身と音楽、信じられるのはそれって感じ?(笑)。

菅原:要するに、マネジメントをずっとしてくれてたそのスタッフって、ある意味で象徴的な存在なんですよ。みんなの中にいる存在、みたいな。大事な存在だけどいつかは終わってしまう、それでも進んでいくんだよ、というようなね。無理に忘れて決別することもないしっていう。
大塚:自分たちの力と音楽そのものの力を信じるってことは、結局、今のこういう自分たちのアイデンティティとか強みとかをしっかり理解することだと思うんですよ。俺たちここが良かったんだね、というのに作品出してライヴをやって……ようやく気づくし理解するし。それが前作の『Friends Again』と今回の『Virgin Graffiti』との間で感じて変えてきた部分なのかもしれない。PVを作ったりするような作業やプロモーションや見せ方も自由にやればいいよね、という。

藤村:まあ、いろいろあって乗り越えた感じだよね。だから自分たちの力に今は自信が持てる。

菅原:そう、要するに乗り越えたの(笑)。

夏目:結局、自分たちの手でなんでもやらなきゃいけなくなったことがそういう気持ちにさせたってことだよね。ポップ・アップ・ショップとかをどんどんスムーズにできるようになったり、そういう現場で自らCDを売ったりして……でも、こういうハンドメイドな作業を結成してすぐの段階からやってたらまた違ってたと思う。ちゃんとスタッフとチームを組んでプロモーションをやって、タワレコとかの売り場でバイヤーの方に応援してもらって……って感じでしっかり結果を出してきた。結構時間をかけて僕らはオーソドックスなやり方で作品を評価してもらってきたと思うんですよ。だからこそ、TETRA RECORDSという自分たちのレーベルをたちあげて、マネジメントも自分たちでやるようになって、ポップ・アップ・ショップもよりスムーズにやれるようになって、アジア・ツアーとかもやれるようになった。そういうプロセスをちゃんと経過させてきたということが大事なんだと思います。

藤村:俺らも大人になったんだと思いますよ(笑)。

大塚:でも、ただ「我が道をゆく」って感じでもない。

菅原:あ、でも、「我が道」を行った方がよくない?(笑)

夏目:実際もうそうなってるし(笑)。でも、どこにでもある「我が道をゆく」ではないってことだよね(笑)。

〜シャムキャッツが選ぶ“音楽の力を信じさせてくれる1枚”〜

夏目知幸
Amen  Dunes『Freedom』(2018年)

藤村頼正
Zakir Hussain『Rhythmic Impressions of Zakir Hussain』(2006年)

菅原慎一
Erasmo Carlos『Carlos,Erasmo』(1971年)

大塚智之
Miles Davis『Live Around the World』(1996年)

 

シャムキャッツ New Album
『Virgin Graffiti』(2018年 TETRA RECORDS)

シャムキャッツ OFFICIAL SITE
http://siamesecats.jp/

Interview & text:Okamura Shino

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