CULTURE & LIFE
今年の夏のバカンスは待ちに待った3年ぶりのイタリアの夏です。
夫の実家があるウンブリア州はイタリアの中心部分にあって「イタリアの心臓」と呼ばれる自然豊かな場所。
飛行機でパリからローマへ着くとそこは10℃以上も気温が高い34℃と灼熱の太陽が降り注いでいて、一気に真夏を味わいます。レンタカーを借りて高速を走れば道路の両側は黄色一面のひまわり畑が広がっていて、ラジオ局の声や小麦畑を焼いた香りが懐かしい。
夫の実家のテラスでは丘陵地帯が続く景色を眺められ、遠くには聖フランチェスコで有名なアッシジやペルージャの街が見えます。
私がイタリア人の夫に出会って最初に聞いたことが「アッシジに行ったことありますか?」でした。夫は「僕の実家からアッシジが見えるよ!」と答えたのを思い出します。
20代の頃、イタリア文学者で随筆家の須賀敦子全集を読んでいた私は、須賀敦子さんが国際大学で過ごしたペルージャやアッシジのローズピンクの石壁の大聖堂、世界遺産のフレスコ画など想像の世界でしたが、実際に私にとってこんなに身近な場所になるとは思っていませんでした。
毎晩夕焼けを眺めながら賑やかな蝉の鳴き声をバックミュージックに夜がふけるまで義母マンマとおしゃべりが続きます。日本の夏はミンミン蝉がよく聞こえてきますが、こちらではグリグリ、、と聞こえるグリグリ蝉。夕日が沈んで空が全体的に青くなった頃、蝉が一斉に鳴き止むのが不思議です。マンマが「フィニート ディ カンターレ(歌うのをやめたね)」。
そして星が輝き始めて、星が見える夜空をゆっくり眺めるのも数年ぶりだったことに気がつきます。
最初に行った野花がパッチワークのように咲いているお気に入りの場所はCastelluccio(カステルッチョ)。
7月初めにはレンズ豆の紫の花は刈り取られてしまっていて、6月に行ければもっと花が咲いていましたがそれでもこの大自然に感動しました!5年前に地震に見舞われてからここへ行く道が閉ざされていたのが今回はたくさんのプロのカメラマンや観光客がいました。
この地域は黒トリュフ、サラミが美味しいので、丘の上にあるレストランのランチでいただきました。生ハムやサラミはシェフからのサービス、メイン料理も20€未満と安くてびっくりです。
そしてインスタグラムで住所を教えてくださいというお問い合わせが一番多かったのがFonti del Clitunno(フォンティ デル クリトゥンノ)。詩的な自然公園には岩の割れ目から地下の泉が湧き出ています。
2000年以上前の古代ローマ時代に神ジュピター、クリトゥンノに捧げられた礼拝所です。自然の光の反射を魔法のように受け止める、この世とは思えないほど美しい場所。常に詩人や知識人にインスピレーションを与えてきました。
毎回ここにくるたびに白鳥の群れと出会うのですが今回は一羽だけ姿が見れました。
この近くには同じく2000年以上前に建てられた世界遺産のTempietto sul Clitunno(クリトゥンノ寺院)があり、ローマン・キャピタル体で書かれた碑文、遺跡が転がっています。
ペルージャという街は紀元前8世紀から栄えた都市の一つで、街中に城門や城壁が残っています。地震があっても2500年前から強固に残っている遺跡に関心しつつ、遺跡自体がが公共の道路となっているので過去に生きているような不思議な感覚に陥ります。
私たちの旅行中に「ウンブリア・ジャズ」というイタリア最大級のジャズ・フェスティバルが始まりました。以前は日本のジャズ・ピアニストHiromiさんや夫のお友達の歌手のコンサートなど聞きに行きましたが、今年はやはり観光客が少なめ。
街を夫と夫の学生時代からの親友シルヴィアと歩いている時、とあるバーで夫の美術学校時代の写真の先生に偶然遭遇しました。この方(トディーニ先生)との再会を喜んで一緒に飲もうということになりました。シルヴィアは先生の喉を触ったり家族同様のような接し方。夫は当時を振り返り、学生運動で学生が学校に立て篭もった時、朝になるとこの先生はクロワッサンを生徒に配るために持ってきてくれたとか。
ある先生はFENDIのコレクションの時には「ミラノに行きたい生徒は一緒に来ていいよ」と先生の車に相乗りして行ったとか、デッサンの先生は紫のシャツに大きなツバの赤い帽子で長いオレンジのマフラーを見にまとい、ヌードモデルが来ない日には先生が服を脱ぎヌードモデルになったという。耳が大きい夫は、毎回耳を触ってくる先生がいたとか、毎日教室にタバコを吸いながら来る先生など日本では想像できない先生像で、面白いエピソードをたくさん聞けました。
夫がトディーニ先生に「日本の90歳の僧侶は50年間毎日写経しているけど、あなたは今も写真を続けてるの?」と聞いたら「僕も50年間欠かさず続けているよ。このバーに毎日必ず来てお酒とオイスターを頼むことをね」と。またいつか同じこの場所でトディーニ先生に会えそうです。
ペルージャに1212年に建てられた教会がアトリエになっているこちらではルネサンス時代の著名な絵画(ピントゥリッキオ、レオナルド ダ ヴィンチ、ジョットなど)にも描かれているペルージャ産のジャガード織物が織られています。
一番古い機械で1750年のもの、一日に織れる長さは限界があり大量生産できません。こちらで作られたしおりなどは“メロディ グラフィック”でお取り扱いしています。
そしてもう一つ紹介したいアトリエがあります。
1860年、ステンドグラスを絵画のように制作した方がいました。Studio Moretti Caselli。このようなステンドグラスを作れるのは世界でこのアトリエだけです。今は禁止されているピグモンがあるため昔と同じ色は作れないとのこと。
一色のガラスを溶かすのに5時間、火を起こすのに三日間、それからガラスを溶かして冷やしての繰り返し、制作途中に割れることもしばしば、ガラスを冷ますのに五日間、、信じられないような根気のいる工程ですが信じられないくらい美しい。
ナポリのマルゲリータ王妃のステンドグラス。ピザのマルゲリータはこの王妃の由来です。
街が世界遺産の一部になっているスポレート。スポレート大聖堂では15世紀のフィリッポ・リッピの遺作のフレスコ画『聖母マリアの生涯』が色褪せることなく残っています。床には細かな大理石のモザイク画、豪華なパイプオルガンが見れます。
スポレートでも音楽祭が開催されていて友達7人でモダンダンスを見に行きました。ここでもNYから来たミュージシャンは夫の古い知り合いでした。世界は狭いです。
5年前にはあまり知られていなかった場所、Resailia(レザリア)。ウンブリア州のヴェネチアと呼ばれています。小さな村ですが観光客で賑わっていました。
Folligno(フォリーニョ)という街にはウンブリアで最も美しい宮殿の一つと呼ばれるトリンチ宮があります。8年前に宮殿内の修復が終わった時に行って感動したので再度訪れました。
ほぼ全てのお部屋が色鮮やかなフレスコ画で装飾されていて驚かされます。
天空の城と言われているCivita di Bagnoregio(チヴィタ ディ・バニョレージョ)、現在は人口20人ほどの小さな村。この村に行くまで300mほどの橋を渡っていきます。断崖絶壁の街の中はどんな所なんだろうと冒険しに行くみたいで楽しめました。
世界で一番、世界遺産が多い国イタリアなのでまだまだお勧めしたい場所がたくさんあります。今回は歴史ある魅力的な街を紹介しました。
皆さんにもイタリア旅行に行った気分を味わってもらえたら嬉しいです。
text:竹内 仁海
パリ在住11年目。
イタリア人の夫とパリ4区にあるカリグラフィー専門店 “メロディ グラフィック”を経営する傍らカリグラファーとして活躍。結婚式やパーティ、パリコレの招待状や宛名書き、メッセージの代筆、ロゴ制作、フランス映画・コマーシャルの演出アイテムとしてカリグラフィーを担当。
パリから“暮らしの美学”をお届けします。
Instagram:@melodiesgraphiques
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