CULTURE & LIFE
こんにちは、MARIEです。
このコラムでは、色んな文化や価値観に触れたいという思いで夫婦で世界一周をしている私が、旅を通して感じたことや実際に足を運んだ素敵なスポットをご紹介。一緒に旅をしている気分になって楽しめたり、みなさんの生活がより豊かになるような情報をお届けしていきます。
年末にエストニアから帰国して約半年。去年タイやエストニアで沢山の文化に触れたので、今年は日本の魅力をもっと深く感じたいと思い金沢へ訪れました。
金沢は兼六園や金沢城、茶屋街など歴史的な建造物や町並みが残っている魅力的な街です。加賀藩が江戸時代に工芸振興に力を入れたことで、今でもさまざまな伝統工芸産業が受け継がれています。
そんな金沢で最も古く歴史ある老舗料亭の『つば甚』さんへお邪魔させていただきました。
加賀藩の前田利家家に、お抱えの鍔(つば)師として350年前まで仕えていた鍔家。約270年前に料亭に変わり、つば甚が始まりました。
今回案内していただいたお部屋は「月の間」。窓からは緑いっぱいの景色が広がっていました。
まずはこちらでお茶をいただき、食事前にとても贅沢な時間を過ごすことができました。
もともとは料亭旅館をされていたつば甚さん。初代内閣総理大臣の伊藤博文が金沢に来るときは、この部屋に泊まり政治家の方の接待もしていたそう。なんだか背筋がピンと伸びます。
伊藤博文がこの窓からの景色を眺めに感銘を受け、「山もよく見え、風も景色もここが一番素晴らしい」という意味を込めて『風光第一楼(ふうこうだいいちろう)』と筆にとった書物も飾ってありました。
どの部屋も男性同士の大事な話し合いが行われる「本間」と家来が見張る「次の間」に分かれています。
ふすまの上にあるこの溝は、攻められた時に追い払うための刀や投石(なげし)を隠すためにあります。普段から緊張感を持って過ごしていた時代背景が感じられますね。
そんな格式高いお部屋でゆっくりと昼食をいただきました。
乾杯酒として普段は日本酒を出しているそうですが、今はお酒を提供していないのでノンアルコール梅酒をいただきます。この引盃(ひきさかずき)は江戸時代のものを塗り直しているそう。
一品目のお料理はこちら。甘海老の酒粕漬け、才巻き海老などが茅の輪(めのわ)くぐりに囲まれています。
無病息災をお祈りするために、食材を3回輪に通してからいただきました。食事を通して日本の伝統を感じることができて面白い体験です。
お吸い物にはあいなめとじゅんさいが入っています。
あいなめは関東まで行くと鮮度が落ちてしまうのですが、この辺りではよく食べられるそう。初めていただきましたが、お吸い物に入っているのに表面はサクサクで身はふわっと柔らかくてとても美味しい。じゅんさいはゼリー状のぬめりで覆われていてとろとろプチプチな食感です。
お造りは石川県の特産である珠洲焼(すずやき)に乗っています。船の形をしていて涼やかです。
屋根を外すと昆布に巻かれた甘海老などのお造りの真ん中に、蝶々の形をした生の南京(なんきん)が止まっていました。可愛らしいですね。
お寿司は蒸したはもに芽ネギが乗ったもの。
はもは梅雨明けから旬を迎える京料理には欠かせない食材です。ふっくら柔らかくて口にいれるとほろりととろけます。
個人的に一番好きだったお料理がこちらの甘鯛の蓮餅包み。
蓮根を練って蒸してあり、甘みと強い粘りが特徴の加賀野菜の加賀蓮根を使用していて、片栗粉や小麦粉などのつなぎを使っていないのにねっとりとした食感と甘みがとても美味しいんです。これは金沢でしか食べられないかも。
本日の酢の物は蒸しえびやいくら、うにが乗った贅沢な組み合わせの、ちり酢がけ。
大根おろしと玉ねぎをすりおろしたものにポン酢がかかっていて、あっさりとまとめてくれます。
お食事の締めくくりはさわらが乗ったご飯とお味噌汁にお漬物。
デザートには季節のフルーツをいただきました。
グレープフルーツは実と寒天を合わせたゼリーで暑くなってきた今の季節にぴったり。お盆にはつば甚さんの模様が入っていてかわいいですね。
生菓子はひがし茶屋街にある「吉はし」さんから取り寄せられたもの。
季節らしい「浮き草」という名前で、雨が多い金沢でやっと実った若葉が水たまりや川の水面に落ちて水紋を作っている様子が表現されています。見ているだけで涼しげな風景が浮かんできます。上品な甘さと繊細な口当たりでもちろんお味もとっても美味しい。
食事をいただいた後に、今回は特別に本物の鍔も見せていただきました。
やはり鉄でできているのでずっしりと重みがあります。げん担ぎとして松竹梅や当時の有名なお坊さんなど、縁起のいいものが描かれています。
戦争中は鉄砲の玉にするために国に没収されたためほとんど残っておらず、唯一戻ってきたのがここに乗っているものと部屋の壁に埋め込んで飾られているもののみだそう。
刀に使われるものなのに、こうして飾られているとなんだか可愛らしく見えてきます。こちらの鍔が飾られている「鶴の間」の部屋の欄間(らんま)には折り鶴があしらわれています。
縁側の床材には江戸期に使われていた船が使用されています。
2階には約200畳ある大広間。あまりの広さに圧巻されます。
100年前に建て直されて、今の建築法では真ん中に柱がないこの部屋の造りは建てられないそうです。とても貴重ですね。映画やドラマの撮影、結婚式の披露宴でも使用され、芸妓さんを呼んで舞を踊っていただくそうです。私もその披露宴、出席してみたい!
女性用のお手洗いの前には金沢の伝統芸能である可愛らしい水引が飾られていました。
どの空間にも気を配られていて文化を感じられ、食事をしに来たのですが博物館に来たような楽しさもありました。400年の歴史があるつば甚さんにお邪魔して、古くからある伝統や物を大事にする大切さを改めて感じました。
なんでも安く手に入ることにより、物が古くなったらすぐ捨てて新しい物を買うのが当たり前の世の中になってきています。私も去年家を手放してスーツケース一つで旅をするようになり、物を大切に直して使うように変わりました。面倒くさそうと思うかもしれませんが、意外にも新しく物を買うよりも直すほうが楽で、心地いいんです。無駄な買い物も減るので出費が減るのも嬉しいところ。
お手入れをして長く使い、次の世代まで残していく。日本が古くから大切にしてきた「もったいない」という精神は今の時代からすると逆に新鮮で楽しいのかもしれません。
街を歩いていても古い家や伝統工芸のお店が並んでいてタイムスリップしたような気分になれる金沢。これからまた色んな国を訪れたいけれど、日本に帰って来たときはまた金沢で日本の良さを感じに戻ってきたいな、と感じる旅でした。
text:MARIE
モデルとしてショーや広告などで活動。イタリアやシンガポールでもモデル活動をしたことがあり、旅行も含め訪れた国は11ヶ国。今年は夫婦で世界を旅しながら日々の暮らしや感じたことを発信している。自然と動物が好きで旅をしながら環境に優しい生活を取り入れ中。 instagram / YouTube
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