CULTURE & LIFE

クリエイティブチーム Do it Theater(ドゥイット・シアター)がテーマごとにおすすめの映画を3作品紹介する、連載《土曜日のシネマサロン》。
第122回目のテーマは、「30代・大人の恋愛に浸る映画」です。

Do it Theaterの阪実莉(さか みのり)です。この連載はDo it Theater女子部が様々な切り口のテーマで、おすすめ映画をリレー方式でご紹介しています。

前回に引き続き30代がテーマの映画紹介です。20代である程度いろんな恋愛は経験したし、自分が惹かれるタイプもわかっている。感情がジェットコースターのように急上昇急降下するドラマチックな恋愛を求めているわけではなく、一緒に人生を歩めるパートナーとの愛情深い恋愛に憧れますが、現実世界はなかなか難しいものです。

今回は、そんな30代でも憧れてしまう、「30代・大人の恋愛に浸る映画」をテーマに、『マイ・ブルーベリー・ナイツ』『娚の一生』『P.S.アイラブユー』の3作品をご紹介します。

 

失恋から始まる、心地よい大人の恋愛映画

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title:『マイ・ブルーベリー・ナイツ』

【story】

ニューヨーク。失恋したエリザベス(ノラ・ジョーンズ)は、家の向かいにあるカフェに出入りするようになる。毎晩ブルーベリー・パイを残しておいてくれるカフェのオーナー、ジェレミー(ジュード・ロウ)。優しい彼との会話に、心が慰められるエリザベスだったが、二人の距離が縮まったある日、失恋相手が新しい恋人といるところを見てしまう。思い立ったエリザベスは、突然ニューヨークから遠い旅へ出ることに。旅の中で数々の人々と出会いながら、エリザベスはジェレミーが待つニューヨークへ戻りたいと思い始める…。

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以前連載でもご紹介した、『恋する惑星』のウォン・カーウァイ監督が初めて英語劇に挑んだラブストーリー。本作は、グラミー賞歌手のノラ・ジョーンズが主演を務めたほか、ジュード・ロウや、ナタリー・ポートマンなど、豪華キャストが勢ぞろい。有名な香港映画の監督が、ハリウッド俳優たちと全編アメリカロケを敢行したことで観客の期待値も上がり、公開当時も話題になった作品です。

ノラ・ジョーンズ演じるエリザベスは、作中で大失恋をして立ち直れないほど落ち込んでしまい、そんな時ジェレミー(ジュード・ロウ)が彼女の傷を癒してくれるのですが、さりげなくそばで支えてくれる人の大切さたるや。その時点で彼に対して思い入れがなかったとしても、環境が変わることで自身の無意識だった気持ちに気づき、彼の優しさが離れた後にじわじわと効いてきますよね。10代の頃に経験したような、ドキドキするロマンス恋愛ではありませんが、しっとりとした大人ならではの愛の深さを感じます。

また、ウォン・カーウァイ監督らしい鮮やかな色彩と個性的なカメラワーク。そして監督の母国語が英語ではない故なのか、キザで素敵なセリフたちも見どころですよ。
素敵な音楽も相まってとても心地のよい作品なので、夏の夜、お酒片手に一人でゆったりと観るのがおすすめです。

 

人を愛することに向き合いなおす、年の差恋愛


Illustration_skpn

title:『娚の一生』

【story】
東京で忙しく働いていた堂薗つぐみ(榮倉奈々)は、都会での暮らしに疲れ、他界した田舎の祖母の家で暮らし始めることに。そこでかつて祖母を慕っていた50代の大学教授・海江田醇(豊川悦司)と出会い、つぐみに好意を抱いた海江田は半ば強引に祖母の家の離れに住み込みはじめる。年の離れた男性の求愛に最初は戸惑うつぐみだが、一緒に暮らすうちに海江田へ心を開いていく…。

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「月刊フラワーズ」掲載の西炯子のベストセラーコミックを、『きいろいゾウ』の廣木隆一監督が実写化し、初共演となる榮倉奈々と豊川悦司が主演を務めた作品。本作は、祖母を介して出会った男性と始まる、奇妙な同棲生活からスタートするのですが、大人になると「そんなことが・・?」という驚きのエピソードを周りから聞くことも増え、絶妙にありえなくない設定で妙に緊張してしまいます。

30代半ばのOL、つぐみ(榮倉奈々)は東京でバリバリと働きキャリアを築いていましたが、恋愛はなかなかうまくいかず、心身ともに休息を求めている状態。この設定に共感できる方、多いのではないでしょうか。私自身この作品を見たときは大学生だったので、時の流れに驚きつつも、今は自分にも起こりえそうに感じています。

大人になると、お互いに踏み入りすぎない少しだけ距離を空けたコミュニケーションを良くも悪くも学び、誰かに内面に関して叱られることも減るものですが、その距離を気にせずビシッと指摘を受けてしまうと、たじろいでしまう一方、自分に向き合ってくれていると感じ敬意を抱いてしまいます。
「ひとりで生きていける」と強がっていた心が、屈託のない気持ちをストレートに伝えてくれる海江田によって、ときほぐされていく様子に心打たれてしまいました。

“人を愛する”ことに向き合いなおし、誰かと寄り添って生きることの幸せを感じられる良作です。
映画を観たあと、肩の荷が少しおりた余韻がありました。

 

人生の最大限の愛を、自分の死後も伝え続ける


Illustration_skpn

title:『P.S.アイラブユー』

【story】
ホリー(ヒラリー・スワンク)の最愛の夫ジェリー(ジェラルド・バトラー)が病死した。未だ立ち直れず荒んだ生活を送るホリーの元に1通の手紙が届く。その手紙を皮切りに以降毎月手紙が1通ずつ届くようになる。それは亡き夫ジェリーが、彼女の悲しみを癒し新たな人生を送る手助けとして送るメッセージだった。ホリーは少しずつ元気を取り戻していき、ジェリーの故郷アイルランドを訪問する。

* * * * * * * * * * * * * * * *

死んでしまった夫・ジェリーから、ある日突然届いた消印のない手紙。手紙の内容にしたがって、妻ホリーが旅を始めるラブストーリーです。

ホリーの境遇を想像すると、瞬きをするだけで涙が伝ってしまうような、何もしたくないしできる気もしない、悲しみに満ちた状況。そんな彼女へ向けて、最大限の愛で見返りなく恩返しをしていくジュリーのロマンチックで壮大なデートプラン。素敵すぎます。

手紙には、自分が死んだ後もホリーを寂しくさせないように、そして彼女が人生を取り戻してこれからも前を向いて歩んでいけるような内容もあり、かつ自分自身のことを忘れずに胸にとどめてほしいという願望もわずかに感じられ、そんな完璧ではないジュリーの人間臭さにより惹かれてしまいます。
作中の「I love you till the end.」という台詞。重く感じてしまうかもしれませんが、ジュリーの本音も滲み出つつ、ホリーが1番求めていた言葉であることは間違いなし。私もとても好きな言葉です。

人を愛することの美しさが描かれるなかで、撮影地であるアイルランドの豊かな自然がさらにストーリーを助長し、心が洗われる作品です。とてもおすすめなので、ぜひ観てみてください。

 

今回は、「30代・大人の恋愛に浸る映画」をテーマに、『マイ・ブルーベリー・ナイツ』『娚の一生』『P.S.アイラブユー』をご紹介しました。今回は作品ごとに、それぞれ違うタイプの大人の恋愛映画をセレクトしてみています。経験とともに、自身の境遇は多様化して、求める恋愛の形もさまざまになりますよね。
ただ、人の愛を享受して人生を歩んでいくために総じて言えるのは、自分自身の素直な気持ちを認めて、相手へ自分の持てる全てで向き合い、歩み寄る姿勢だと思います。取り繕いや駆け引きは不必要。
恋愛は人生において必須ではないかもしれませんが、愛を抱いた誇れる自分であれるよう、30代を楽しみましょうね。

 

『マイ・ブルーベリー・ナイツ』

監督:ウォン・カーウァイ
出演:ノラ・ジョーンズ、ジュード・ロウ、デビッド・ストラザーン
2007年 香港・フランス合作 95分
Prime Videoで配信中

 

『娚の一生』

監督:廣木隆一
出演:榮倉奈々、豊川悦司、向井理
2015年 日本 119分
U-NEXTで配信中

 

『P.S.アイラブユー』

監督:リチャード・ラグラベネーズ
出演:ヒラリー・スワンク、ジェラルド・バトラー、リサ・クドロー
2007年 アメリカ 126分
Prime Videoで配信中

阪実莉(さか みのり)
北海道札幌市出身。学生時代は、ドキュメンタリーと心理学を専攻。野外上映・空間演出の分野で活動したのち、現在はDo it Theaterでアートディレクター・プロデューサーをしています。
人生のバイブル作品は映画『あの頃ペニー・レインと』、漫画『NANA』。mbti診断がESFP(エンターテイナー)だったので後輩に伝えたところ「マラカス振ってそう〜!」という反応をもらいました。

●Do it Theater(ドゥイット・シアター)
“あたらしいシーンは、Theaterからはじまる”をテーマに、シアター体験を作り出すプロデュース&クリエティブチーム。FUDGE主宰の「Holiday Circus(ホリデーサーカス)」ではコンテンツクリエイションとして参加。また 累計5万人以上が来場した野外シアター「品川オープンシアター」や横浜赤レンガ倉庫・マリンアンドウォークヨコハマなど5会場同時開催の「SEASIDE CINEMA」、ミニシアター支援を目的とし全国5箇所でキャラバン開催したクラウドファンディングプロジェクト「ドライブインシアター2020」など、映画を観るだけではない、総合演出された新しいスタイルのシアター体験を全国に作り出しているチームです。
www.ditjapan.com

 

design_Koinuma Kenichi

edit_Takehara Shizuka

 

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