CULTURE & LIFE
クリエイティブチーム Do it Theater(ドゥイット・シアター)がテーマごとにおすすめの映画を3作品紹介する、連載《土曜日のシネマサロン》。
第69回目のテーマは、「春、はじまりを感じる映画」です。
Do it Theaterの阪実莉(さか みのり)です。この連載はDo it Theater女子部が様々な切り口のテーマで、おすすめ映画をリレー方式でご紹介しています。
先日、米アカデミー賞が終わりましたね。濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が国際長編映画賞を受賞し、日本人監督初めての部門にもノミネートされたりと話題になったのが記憶に新しいです。
今回は「春に見たい、はじまりを感じる映画」というテーマですが、米アカデミー賞ブームにあやかり、賞に関連のあった『おくりびと』『マルタのやさしい刺繍』『はじまりのうた』の3作品をご紹介します。
Index
新たなはじまりへ送りだす
title:『おくりびと』
【story】
管弦楽団に所属するプロのチェロ奏者、小林大悟(本木雅弘)は楽団の解散を機に、妻の美香(広末涼子)を連れて山形に帰郷する。新たな職を探していた彼は、「旅のお手伝い」とだけ書かれた新聞の求人広告を目にして面接に向かうが、仕事内容が納棺師であることを知る。戸惑いながらも納棺師の見習いとして採用された小林は、妻にも言い出せないまま慣れない仕事に就くことに。
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見たことがある方も多いのではないのでしょうか。2008年に公開され、第81回米アカデミー賞で日本映画としては初めてとなる外国語映画賞を受賞した作品です。亡くなった後に遺体を棺に納める、納棺師という職業を描いた珍しい作品です。主人公の小林は思いもよらぬ形で納棺師見習いとなり、最初は内心快く向き合えなかったものの、社長の美しい手さばきや遺体の扱い、それに対する遺族の対応を目の当たりにし少しずつ納棺師の仕事に誇りを感じ始めます。人生の旅路を終えた人への”はなむけ”というよりも、むしろ新たなはじまりへの”バトンタッチ”のイメージ。本作は、ほとんどの人にとって日常からは遠いところにある、「人生の終わり」をおくりだす職業を扱っているにも関わらず、全体を通して重すぎず、細やかな美しさが光る作品です。
小林自身も、最初は戸惑いながら仕事を始め、想像通りのスタートをできたわけではありませんが、徐々に心情が変化していく様子が心に刺さります。出会いあれば別れあり、またそれをお送りだす者もあり。ですね。作中で咲き乱れる桜のシーンも印象的ですよ。春にぜひ見ていただきたい作品です。ちなみに、劇中歌は久石嬢が担当しています。正直これだけでも観たくなっちゃいますね。
いまからでも遅くない!80歳が新たな挑戦
title:『マルタのやさしい刺繍』
【story】
スイスの小さな村で暮らす老婦人のマルタは、夫を失い生きる気力を持てずにいた。仕立て屋として村の男声合唱団の団旗を新調することになったマルタ。生地店で美しいレースを眺めるうちに、ふと、自作のランジェリーを売る店をパリに持つという、忘れかけていた長年の夢を思い出す。厳格なプロテスタントである村人、牧師である息子からの非難にもめげず、マルタはランジェリーショップを開く決意をする。
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本作は本国スイスで大ヒットを記録し、2007年度アカデミー賞外国語映画賞のスイス代表作品にノミネートされました。これは実はすごいことで…(アカデミーのノミネートだけでも十分すごいのですが)。多言語の国・スイスは文化も多様。映画でも一作品が突出してヒットする、というのは珍しいことだそう。
現実では「もう年だからムリ」「タイミングを逃したからやらない」など、自分で理由をつけては挑戦するのを避けてしまいがちですが、マルタの勇敢な挑戦を見ていると何か始めなきゃいけない!という気持ちになります。歳をとるからといって何かを諦められるわけでもなく、常に自分の気持ちに素直でいたいですね。
春、何か新しいことをはじめるのであれば、今このタイミングが一番スムーズにスタートできるので、悩んでいる方は是非観てみてください。勇気付けられますよ!
偶然の出会いからはじまる
title:『はじまりのうた』
【story】
イギリスからアメリカへとやってきたシンガーソングライターのグレタ(キーラ・ナイトレイ)は、会社にも家族にも見限られた落ち目のプロデューサー・ダン(マーク・ラファロ)とニューヨークのライブハウスで偶然出会う。グレタの歌声に魅了されたダンは、その才能を絶賛しアルバムを制作しようと説得をする。最初は半信半疑のグレタだったが、言葉を飾らないダンを信頼するようになり、2人は仲間を集めニューヨークの街角で次々とゲリラレコーディングを敢行するという形で、アルバム制作を始める。
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こちらの作品も目にしたことがある方、多いのではないでしょうか。もう紹介しているかな?と思いきやまだでした。キーラ・ナイトレイ主演の音楽映画で、劇中歌「ロスト・スターズ」が実は第87回アカデミー賞で歌曲賞にノミネートされています。
ふとしたことで主人公のグレタが音楽プロデューサーと出会い、最初は半信半疑になりながらも一緒に音楽を作る中で、新たな一歩を踏み出していく作品。まさにタイトル通り、はじまりを描いた映画です(笑)。「偶然に」出会い、何かがはじまるというのはとても映画らしい展開で、ある意味浮世離れしているものの、今の時代だと気になったらすぐSNSでコンタクトして会ってみる、ができる時代なので可能性は溢れていますよね。そして物語もさることながら、本作の見所は音楽です。キーラ・ナイトレイの伸びやかな歌声もですが、使用されている楽曲も秀逸。観終えたあとは絶対にサントラを聴きたくなるはず。作中、マルーン5のアダム・レヴィーンが恋人役として出演したことも話題になりましたね。ノミネートされた曲、「ロスト・スターズ」は彼が担当しています。
今回は「春に見たい、はじまりを感じる映画」というテーマで、『おくりびと』『マルタのやさしい刺繍』『はじまりのうた』の3作品をご紹介させていただきました。
春というと入学式や入社式などをつい思い浮かべがちですが、そういう社会的な習慣によらずとも自分で心を決めた瞬間から”はじまり”は作れるものですね。ただ、”はじまり”のタイミングで背景に桜が咲いている、あの演出助長のエモさには何にも勝てないな〜と日々思います(笑)。
『はじまりのうた BEGIN AGAIN』
text :阪実莉(Do it Theater)
学生時代は、ドキュメンタリーと心理学を専攻。野外上映・空間演出の分野で活動したのち、
現在はDo it Theaterにてアートディレクターとして奮闘中。
人生のバイブル作品は『あの頃ペニー・レインと』『下妻物語』『NANA』。出張で鹿児島に来て、夏を感じています。
●Do it Theater(ドゥイット・シアター)
“あたらしいシーンは、Theaterからはじまる”をテーマに、シアター体験を作り出すプロデュース&クリエティブチーム。FUDGE主宰の「Holiday Circus(ホリデーサーカス)」ではコンテンツクリエイションとして参加。また 累計5万人以上が来場した野外シアター「品川オープンシアター」や横浜赤レンガ倉庫・マリンアンドウォークヨコハマなど5会場同時開催の「SEASIDE CINEMA」、ミニシアター支援を目的とし全国5箇所でキャラバン開催したクラウドファンディングプロジェクト「ドライブインシアター2020」など、映画を観るだけではない、総合演出されたしいスタイルのシアター体験を全国に作り出しているチームです。
www.ditjapan.com
design_Koinuma Kenichi
Illustration_MARU
edit_Takehara Shizuka
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