CULTURE & LIFE
毎週テーマに合わせて、「アーティスト」が選曲したプレイリスト、いつの時代も色褪せない「名盤」、そして注目の「新曲」をお届けする、連載《火曜日のプレイリスト》。
今回から多才な活動を行う《蓮沼執太》のインタビューをお届け!自身がコンダクトする、16名アンサンブルの”蓮沼フィル”に加えて、新たにオーディションから選ばれた新メンバー10名を加えた”蓮沼フルフィル”。今回、紹介する『フルフォニー』は、総勢26名が奏でる”蓮沼フルフィル”による、初のアルバム。年齢、性別、職業も異なる”蓮沼フルフィル”の魅力を探ります。
そして、蓮沼さんがテーマに併せて選曲した”秋の夜長に聴きたい曲”もお見逃しなく!
《蓮沼執太》 photograh_Kobayashi Mariko
エレクトロニカからオーケストラまで、様々な形態で作品を発表してきた蓮沼執太。そんななか、16名のメンバーによる蓮沼執太フィルから発展した蓮沼執太フルフィルは、過去最大の26名の大編成によるプロジェクトだ。これまで楽曲「フルフォニー」は、フジロックや日比谷野外大音楽堂など様々な場所で演奏してきたが、今回初めてアルバム『フルフォニー』として音源化される。オーケストラ・サウンドにヴォーカルやラップも取り入れたサウンドには、様々な音楽性が溶け込みながら軽やかでポップ。年齢も性別もキャリアもバラバラのメンバーが奏でる音楽の魅力について、蓮沼に話を訊いた。
大勢のメンバーと奏でる面白さとは?
——蓮沼執太フルフィルは、フィルに10名加えた26人という大編成になりましたね。大勢のメンバーと一緒にやる面白さってどんなところですか?
「当たり前ですが、人間はそれぞれ違う。自分自身もどんどん変わっていきますからね。そんななかで、音楽を通じて人を知っていく、というのはかけがえのないことで。そうすることで音楽に深みも増していく。人と人の関係性のなかで音楽が作られていくということに今は興味があるんです」
——新しい10人が一般応募というのも面白いですね。
「YouTubeでの公募だったんですけど、性別、年齢、国籍問わずでした。あまり条件とか付けたくなかったんですよね。楽器の演奏力も関係ない。楽器というものの考え方の方が重要でした。応募してくれた宮坂遼太郎くんはパーカッショニストで、部屋で一番いい音が出るクッションを叩いて演奏した人もいました。テクニックや受賞歴とかではなく、自分と世界の接点を音でどんな風に見出すか。それがジャッジ・ポイントだったかもしれないですね」
——その結果、年齢も性別もキャリアもバラバラ。しかも、定期的に集まって練習しているわけでもなく、ある時期に集まってコンサートを開いたり録音したりする。不思議な集団ですよね。
「そういう集まり方が僕にとって一番自然に思えるんです。社会ってそういうものじゃないですか。バラバラであり、ノイズもあるというか」
——そうですね。それでいて、フルフィルは社会みたいに上下関係や従わないといけないルールみたいなものはなくて、みんな自由に音を鳴らしている。
「そうですね。だから、どんどん演奏も変わっていきます」
フルフィル初のアルバム『フルフォニー』
——そんななかで、フルフィルとして初めてリリースされた『フルフォニー』は不思議な構成ですね。アルバムの前半がオリジナル曲で、後半は蓮沼さんのリミックス曲が並んでいます。
「ちょっと変わってますよね(笑)。オリジナル曲をレコーディングしたのが去年の春くらいだったんです。音は完成してたんですけど、なかなかミックスが終わらなくて。そうこうしているうちにコロナ禍になりステイホームになった。人が集まって一緒に演奏することが難しい、となった時、〈合奏って何だろう?〉って思ったんですよ。それでフルフィルでやったことを捉え直す作業を音楽的にやってみようと思って、リミックスすることにしたんです」
——集団と個人、二つの世界が一枚のアルバムに入っているのが面白いですね。前半のフルフィル・パートでは、4楽章で構成される「FULLPHONY」がフルフィルの魅力が全開していて圧巻です。
「第一楽章は、まずメンバー全員が脈を測るんですよ。そして、脈に合わせて自分のテンポで旋律を弾く。だから、その都度リズムが違うんです。フルフィルの面白いところは、そうやってバラバラにしておいて途中でギュッとひとつになったり、伸び縮みできる。そういうダイナミクスの作り方は人が多いから可能なんです。さらに第2楽章からはヴォーカルが入ってきます」
——どんどん音の風景が変わっていきますね。後半のリミックスの方向性に関しては、何か意識していたことはあったんですか?
「コンセプトは決めずに自由にやりました。曲名も変えて新しい曲を作るような気持ちで作業を進めました。フルフィルは単純に音数が多いのでどんどん音を削っていったんですけど、〈このスティールパンの音、良いな〉とか〈このパーカッションのリズム、複雑だけどカッコいい〉とか、メンバーの音や人柄を活かすように心がけました」
——アルバムを通して聴くと面白いですね。最初はオーケストラで次第にエレクトロニックなサウンドになっていく。
「そうですね。〈あれ、さっきこのフレーズ聴いた?〉みたいな。最近だと配信で曲単位で聴く人も多いと思いますが、このアルバムの曲順には物語があって通して聴く楽しみがある。そういう構成も、新しい試みとして実験的にやってみました」
——今の状況だと、この新作に合わせてのコンサートは難しいと思われます。しかも、26名だとなおさら厳しい。今後のフルフィルの活動については、何か考えていることはありますか?
「蓮沼執太フィルとしては、メンバーそれぞれが家で録音したものを合体させて曲にして配信したりもしたんですけど、これからさらに新しい活動の形を考えていかないといけませんよね。難しい状況だからこそ、メンバーの声を聞いて、知恵を絞って新しい形を作っていきたいです」
——コロナをきっかけに音楽制作の現場は変わっていくんでしょうね。できればクリエイティヴな方向に変わってほしいと思います。
「そうですね。過去とは違うようにして、社会との関係を見つめ直すきっかけはなってもらいていですよね。これからそれがどういう風に転んでいくのか。焦らずに見守っていきたいと思います」
秋の夜長に聴きたい曲
《蓮沼執太》が「秋の夜長に聴きたい曲」をテーマにプレイリストを教えてくれました!
《蓮沼執太》
Index
select: Laraaji 『Ambient 3 “Day of Radiance” 』
哀愁感が秋の夜にあう
「哀愁感というか、落ち着いたトーンが秋の夜にあっているんじゃないかと思います。ララージが演奏しているチターの音色が良いんですよね。去年、ニューヨークでララージがこの『Ambient 3』を再現するイベントを見に行ったんですよ。とても良かったんですが、生で聴いたら、全然このレコードとは違う音色で(笑)。この音色を求めてやって来た若者たちは、みんな「あれ?」っていう顔してましたね。ララージはピアノ・アルバムも出しているんですけど、そこでもガンガン弾いてて。打楽器のように弾くのが好きなんでしょうね。そういうところも個人的には好感触です。」
蓮沼執太フルフィル
『フルフォニー |FULLPHONY』デジタルアルバム配信中
Label:Caroline International
CD『フルフォニー』¥2545(10月28日発売!予約受付中)
1983年東京都生まれ。蓮沼執太フィルを組織して国内外でのコンサート公演をはじめ、映画、演劇、ダンス、CM楽曲、音楽プロデュースなど、多数の音楽を制作。また「作曲」という手法を応用し物質的な表現を用いて、展覧会やプロジェクトを行う。蓮沼執太フルフィルは、自身がコンダクトする、蓮沼フィル16名のアン サンブルに加えて、 2017年に実施したオーディショ ンから選ばれた新加入メンバー10名、総勢26名による現代版フィルハーモニック・ポップ・オーケストラ。蓮沼執太フィル名義で1stアルバム 『時が奏でる』2ndアルバム 『ANTHROPOCENE』をリリース。 2019年にはフジ ロックフェスティバルへの出演、日比谷野外大音楽 堂での公演を成功におさめる。今回、蓮沼執太フルフィル として、初のアルバム『フルフォニー』が発売中!
Website: www.hasunumaphil.com/
「秋の夜長に聴きたい曲」をテーマに、いつの時代も色褪せない「名盤」をお届け!
select:Carol King 『You’ve Got a Friend』
心にしみる歌声がメロディーの魅力を引き立てる
シンガー・ソングライター、という言葉がまだ珍しかった60年代。ポップスはプロの作詞家や作曲家が書いていた。そんな裏方の一人だったキャロル・キングが、自分で書いた曲を自分で歌おう!と決意。ミュージシャンとしてデビューして、大ヒットしたアルバムが『つづれおり』だ。飾り気のないサウンド、美声ではないけれど心にしみる歌声が、メロディーの魅力を引き立てる。かつて、ガールズ・グループのシュレルズに提供してヒットした「ウィル・ユー・ラヴ・ミー・トゥモロー」も本人が歌うと一味違う。キャロルの家に招待されたようなリラックスした気分で楽しめるハートウォームな名盤。
FUDGE.jpが「Pick up」する、注目のアーティストの新譜を紹介!
select:ラブリーサマーちゃん 『AH!』
宅録女子から変貌を遂げた、ロックンロール・クイーン
大学在学中に自宅で曲を作るようになり、ネットに上げた曲が話題を呼んでデビューを飾ったラヴリーサマーちゃん。リリースされたばかりのサード・アルバム『THE THIRD SUMMER OF LOVE』のリード・トラック「AH!」は、パンキッシュなギターのリフが炸裂するビタースウィートなロックンロール・ナンバー。ブリット・ポップやオルタナなど、90年代ロックからの影響を感じさせながら、キャッチーなメロディーで疾走する。宅録女子からロックンロール・クイーンへと変身を遂げて、ガールズ・パワーが全開!
text_Murao Yasuo
design_Koinuma Kenichi
edit_Takehara Shizuka
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