FASHION
出典:汎用性の高いダウンジャケットは冬のマストアイテム【本日のFUDGE GIRL-12月29日】
連載『お洒落さんのためのファッション用語辞典』では、トラッドファッションから最新のファッションまで、FUDGEでおなじみのファッション用語についてわかりやすく解説します。第47回目は「ダウンジャケット」について。そもそも「ダウンジャケット」ってどんなものなのでしょう? そんな謎をひも解きます。この連載を読んでファッション用語の背景や起源を知れば、毎日のお洒落がより楽しくなること間違いなし!
Index
【用語解説】まずは「ダウンジャケット」を知ろう。
出典:ブルー、ホワイト、ダウンのアンサンブル【本日のFUDGE GIRL-1月21日】
「ダウンジャケット」のダウンとは、水鳥の胸毛、羽毛をさしますが、それを詰めてキルティングし、上着にしたものを「ダウンジャケット」といいます。本来はアヒルやガチョウの胸毛が正式でしたが、いまはそれ以外の羽毛や、綿が入っているものも総称して「ダウンジャケット」と呼ぶことが多くなりました。ちなみにベストにしたものは「ダウンベスト」で、「ダウンベスト」も「ダウンジャケット」も短縮して「ダウン」と呼ぶことがあります。
【歴史】登山家がエベレスト遠征時にオーダーしたのがはじまり
出典:ベロアのダウンにはアイヴォリーの小物を合わせて、柔らかく、軽やかに
現代ではファッションとして定着した「ダウンジャケット」ですが、こんなふうに世界じゅうに知られるきっかけとなったのは、ある登山家が1920年代に今でいう「ダウンジャケット」を着てエベレストに遠征したいと、あるメーカーに製作を依頼していたことだったと言われています。そのメーカーとは《Eddie Bauer(エディバウアー)》です。
現在はアメカジブランドとして知られていますが、はじめはスポーツ用品店だった《エディ バウアー》。登山家のオーダー以前にいち早く、冬場の釣り着として、「ダウンジャケット」の‟スカイライナー”を製作していました。
この「ダウンジャケット」は真冬でも釣りを楽しむ人のために防寒着として開発されたものでしたが、ダウンが偏らないようキルティングステッチをかける手法を生み出し、特許を取得したほど、精巧なつくりをしていました。冷たい風が入り込まないように首元や袖口はリブ仕様になり、「MA-1」に似た見た目。このデザインが釣り人以外、登山家や山歩きを趣味とする人々にもウケ、冒頭の登山家も、エベレスト遠征時に「自分も着用したい」と思ったようです。
彼のエベレスト遠征を境にさまざまなスポーツウエアブランドやアパレルが「ダウンジャケット」開発に着手。「ダウンジャケット」の存在は広く知られることとなり、特に1970年代からは街着、遊び着としても定着していきました。日本に上陸、浸透したのも1970年代。アメカジブームの‟ヘビーデューティー”やスキーブームに乗り、今ほどデザイン性が高いものはありませんでしたが、それでも街中で、極寒というほどでもなくても、「ダウンジャケット」を着ることが「ふつう」となりました。
【雑学】映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー」に見る「ダウンジャケット」
1985年にアメリカで公開された映画、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、マイケル・J・フォックスが演じる主人公、マーティン。マーティンがオレンジ色の「ダウンベスト」を着た、こんな姿を目にしたことがある人もいるのではないでしょうか。
この映画の中でマーティンはタイムトラベルをするのですが、1955年へとタイムスリップした際に、彼が日常的に着ていた「ダウンベスト」が、その時代の人にはちょっと異質なものとして映るシーンがあります。1980年代では前述のように「ダウンジャケット」や「ダウンベスト」はすでに街で着ることが「ふつう」とされています。でも1950年代を生きる人々にとって「ダウンジャケット」も「ダウンベスト」も「釣り用」あるいは「ワークウエア」といったものだったのでしょう。マーティンはダイナーの店主や店員「救命胴衣を着ているのか」と言われてしまうのです。ちなみにこの「ダウンベスト」のオレンジは、‟レスキューオレンジ”と呼ばれ、非常用アイテムに採用される色によく似てもいました。
現代では「あたりまえ」あるいは「おしゃれ」とされているものでも、そうではなかった時代もあったという「ダウンベスト」の歴史に触れながら、あらためてこの映画を見てみてはいかがでしょうか。
監修:朝日 真(あさひ しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。早稲田大学文学部卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』共同監修。NHK『テレビでフランス語』テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。文化出版局『SOEN』他ファッション誌へ寄稿多数。NHK「美の壺」他テレビ出演。
illustration_Sakai Maori
edit & text_Koba.A
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