FASHION
出典:アランニットはあえて大きめサイズを選んで。《MORRIS & SONS》でニュアンスのある佇まいに
連載『お洒落さんのためのファッション用語辞典』では、トラッドファッションから最新のファッションまで、FUDGEでおなじみのファッション用語についてわかりやすく解説します。第22回目は「アランセーター」について。どこで生まれ、どのようにして世界じゅうに広まっていったか、その歴史をひも解きます。この連載を読んでファッション用語の背景や起源を知れば、毎日のお洒落がより楽しくなること間違いなし!
Index
【用語解説】
まずは「アランセーター」を知ろう。
「アランセーター」のアランとはアイルランド南西部にある島々の名前で、その地を発祥とする素朴な手編みのセーターのことを指して「アランセーター」または「アランニット」というのがもっともポピュラーな説。ダイヤや縄などの網柄が特徴で、これらの模様をアラン模様と呼びます。
防寒や防水のために未脱脂(脂肪分を抜かない)生成りの太い羊毛を使ったオイルドセーターで、ざっくりと丸首に編み立てられたものが多いです。アイルランド地方で編まれることから「アイリッシュセーター」と呼ばれたり、「アランアイルセーター」と呼ばれたりもします。
【歴史】
編み柄に意味を持つ漁師のワークスタイルだった
「アランセーター」は15世紀ごろに誕生した、漁師たちの作業用セーター、いわゆるフィッシャーマンズセーターを原型のひとつとしたアイテムだというのがポピュラーな説です。もともとは、時に危険がともなう海へと漁に出かける夫や父親、恋人のため、妻や娘など家族が安全を祈願しながらひと針ひと針心を込めて編んでいたセーターで、それがのちにファッション化し、ヨーロッパからアメリカや日本など広く世界中に広まっていったと言われています。
石垣、籠、綱や魚網、海藻といった海、漁、島の風景などをモチーフにしたさまざまな編み柄は、漁師の家ごとに代々伝わったもの。その昔は、遭難した漁師だと思われる身元不明の遺体が波打ち際に打ち寄せられても、身に着けているセーターの網柄を見れば身元を特定することもできた……というエピソードもあります。
【雑学】
その実、地域おこしのためのビジネスライクなアイテムだった?!
近年になって、「アランセーター」の歴史として唱えられていたのとはまったく異なる説が実は正しいのではないかと言われるようになりました。それは「アランセーター」が誕生したのは20世紀前半で、実はそこまでの歴史的背景はなく、単なる家内手工業品のひとつであったとする説です。
アイルランドのある極寒の北海の地では農業はおろか漁業であっても大きな収入源にはなり得ません。そこで、漁師たちが身に着けていた丸編みでシームレスのセーター(ガンジーセーターと呼ばれていた)をアレンジして「アランセーター」とし、上で書いたような物語を添えて島の名産品として売り出してみたところ、最終的には世界的なヒットとなり、島の認知度アップとなり、大きな収入源にもなっていったというのです。
出典:全部欲しくなっちゃう! 今冬追加したいニットコレクション Le Tricoteurのガンジーセーター
もちろん、島の女性たちが男性のためにセーターを編む機会は増えたようですし、母から娘に伝授されたというのもウソではありません。また、アラン諸島ではカトリックの聖餐式や堅信礼と呼ばれる特別な儀式で少年たちが白い「アランセーター」を着るのがいつの間にか正装として定着してもいます。けれどもその物語は何百年も前の物語ではないのだそうです。
またルーツが漁師の労働着だったというエピソードにも疑問を持つ人が少なくありません。なぜなら表編みの「アランセーター」は危険な海上での作業着にはなり得ないからです。表編みのセーターには網や針がセーターに引っかかりやすく、そのせいによる落水の危険がともないます。そんな危険なものが作業着としてわざわざ身に着けたでしょうか。くわえて海でも陸でも厳しい労働を強いられる漁師が、作業するのに汚れやすい生成りのセーターを着るわけもないのではないでしょうか。そんなことからいまでは、こちらの説のほうが有力視されるようになっています。
ちなみに日本で「アランセーター」が知られるようになったのは、1960年代。すでに欧米でファッションアイテムとして人気となっていたこのセーターに惚れこんだ、《ヴァン・ジャケット》の石津謙介氏がよく似たニットをデザインし、「フィッシャーマンズ セーター」という呼び名でリリース、プレッピーやトラッドスタイルを作るのに欠かせないアイテムのひとつとして「アランセーター」の人気に火を点けました。
監修:朝日 真(あさひ しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。早稲田大学文学部卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』共同監修。NHK『テレビでフランス語』テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。文化出版局『SOEN』他ファッション誌へ寄稿多数。NHK「美の壺」他テレビ出演。
illustration_Sakai Maori
edit & text_Koba.A
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