FASHION
出典:スウェットはアイビーなロゴが気分【本日のFUDGE GIRL-9月10日】
連載『お洒落さんのためのファッション用語辞典』では、トラッドファッションから最新のファッションまで、FUDGEでおなじみのファッション用語についてわかりやすく解説します。第15回目は「スウェットシャツ」について。どこで生まれ、どのようにして世界じゅうに広まっていったか、その歴史をひも解きます。この連載を読んでファッション用語の背景や起源を知れば、毎日のお洒落がより楽しくなること間違いなし!
Index
【用語解説】
まずは「スウェットシャツ」を知ろう
スポーツ用で汗を吸収するコットンジャージーの裏を起毛したもの(裏起毛)か、パイル素材を使用した(裏毛)長袖のトップスのこと。ほとんどはプルオーバータイプ。カジュアルウエアとして広く親しまれていて、日本では「トレーナー」とも呼ばれています。
裏がパイル素材(裏毛)になった「スウェットシャツ」
出典:メンズライクに着こなしたい《LAVENHAM(ラベンハム)》と《Jackman(ジャックマン)》のコラボレーションアイテム
裏が起毛タイプの「スウェットシャツ」
出典:オーガニック素材を使う《バスクインザサン》より新作のニットやスウェットが発売
【名前の由来】
汗をよく吸う素材だから「スウェットシャツ」⁈
「スウェットシャツ」という言葉自体は1925年に使われていたことが確認されていますが、出所ははっきりとはわかっていません。しかしながら名称の一部になっている「スウェット」がそもそも汗を意味する英単語であることから、汗をよく吸う素材を用いたトップスをさして、誰かがどこかで「スウェットシャツ」と呼ぶようになったのだろうと推測されています。
【歴史】
ジェントルマンの卵たちが学生時代にスポーツシーンで着用したのがはじまり
現在「スウェットシャツ」と呼ばれているトップスの誕生については諸説ありますが、よく言われるのが、スポーツ選手のトレーニングウエアにルーツがあるという説です。
19世紀、イギリスのパブリックスクールや大学がジェントルマンを育てるための教育の一環として、フットボール、ラグビーやレガッタなどのスポーツを取り入れ始めました。やがてそれが近代スポーツの原型になっていき、と同時に多くのスポーツウエアの原型も生まれました。イギリスやアメリカで学校対抗の交流試合が盛んに行われるようになって、学校ごとにスクールカラーを採用したユニフォームが誕生したのもこのころです。
けれども当時は今とは違い、ユニフォームやトレーニングウエアにはウールが使われることがほとんどでした。スポーツをして汗をかくのにわざわざあたたかくチクチクするセーターを着るなんてと思うかもしれませんが、むしろウールのユニフォームを着ることによって汗をかき、減量し、引き締まった筋肉質の肉体を作るためだったというのですから面白いですよね。
ただ素材は現在のものとは異なりますが、デザインは現在の「スウェットシャツ」のデザインに近いものもあったようです。防風性や保温性を確保するために襟ぐり、袖口とウエストにはニットのリブが取り付けられ、襟ぐりには伸縮しにくくするための三角形のガセット(後述)がつけられていました。同時期により防寒性を高めたフードつき「スウェットシャツ」も登場、こちらは現在のパーカの原型と言われています。
そのうちにこのウール素材の「スウェットシャツ」に難点が目立つようになります。たとえば汗をかいた肌にウール素材が当たることで肌が荒れる選手がいました。またウール素材は価格が高く、量産が難しかったと言います。そんなことからしだいにウールジャージーやフランネルに代わって、コットンジャージーを採用したユニフォームの生産が始まったと言われています。
実際、1920年代初頭には《スポルディング》や《チャンピオン・ニッティング・ミルズ(現在のチャンピオン)》、《ラッセル・アスレティック》などのスポーツ用品メーカーから吸水性や保温性に優れたコットンの「スウェットシャツ」が発売され、好評を博しています。1924年に開催されたパリ・オリンピックでは、アメリカ選手団がコットン100%の「スウェットシャツ」を着用し、それをきっかけにしてコットンの「スウェットシャツ」が広まっていったというエピソードも伝わっています。
1950年代に入るとさらに多くのスポーツメーカーがこのジャンルに参入しています。前述の《チャンピオン》や《スポルディング》などに加え、《ウィルソン》、《ダックスバック》、《オニータ》、《オシュア》、《ロウ&キャンベル》、《ボディガード》あたりが有名どころでしょうか。またスポーツメーカー以外に百貨店である《JCペニー》、通販会社の《シアーズ・ローバック》や《モンゴメリーウォード》などの通販カタログにもコットン素材の「スウェットシャツ」が多数登場していたのが確認されています。
【特徴】
特筆すべきは2つ。「リバースウィーブ®」と「ガゼット」
出典:スウェットシャツは「ヴィンテージ チャンピオン」一択【本日のFUDGE GIRL-9月2日】
縮みにくさでは右に出るものはいない「リバースウィーブ®」
コットンジャージーの「スウェットシャツ」が主流になったころはまだそのほとんどがスポーツ用のユニフォームやトレーニングウエアとして着られていた時代です。そのため、「スウェットシャツ」は他の衣類以上に頻繁に洗濯機にかけられていました。でも当時からアメリカには洗濯物を日光に当てて干す文化があまりなく、多くの家庭で乾燥機が使われていました。そのため「スウェットシャツ」の寿命は比較的短かったのです。
そうした経緯があって、「長持ちするスウェットシャツ」が欲しいという消費者の声に応えるかたちで《チャンピオン》のサム・フリーランドが1934年に編み出したのが、「リバースウィーブ®」という手法です。本来、スウェットシャツはコットンジャージーを縦地に裁断し、縫製しています。そのため乾燥機にかけた後の縦縮みが避けられませんでした。そこで《チャンピオン》は身ごろの中央に縦地のコットンジャージーを横にして使い、伸縮性を補うために身頃の両サイドにはリブを縫い込む手法で、新しい「スウェットシャツ」を誕生させたのです。この「リバースウィーブ(縦と横を逆転させる)®」は特許を取得し、それを機に高校、大学や軍関係先に「スウェットシャツ」のシェアを一気に広げていきました。
「スウェットシャツ」の需要が高まるのと時を同じくして、「スウェットシャツ」のカラーバリエーションは増えていきます。また《チャンピオン》がナンバーや校名をプリントする(当初はフロッキー加工、後にラバープリントへ)サービスをスタートさせたこともあって、特に学生たちの間では、スポーツシーン以外でも日常的に「スウェットシャツ」に袖を通す機会が増えていったようです。愛校心や属性の主張、チームワークなどを表現するのに、学校の購買部で販売されている「スウェットシャツ」に袖を通すのは端的な手段だったのでしょう。「スウェットシャツ」がアイビールックやアメカジ、トラッドスタイルにマストとされているのはこういった背景があったと見られています。
「Vガゼット」って何だろう?
もうひとつ、スウェットシャツの特徴的なディテールと言えば、「Vガゼット」が挙げられます。これは正面の襟ぐりあたりをV字にカットして、そこに三角形のリブ素材を当てて縫い合わせた部分のことで、そもそもは伸び防止や汗止めを期待したものだと言われています。これは1950年代ころまでのスウェットシャツにはよく見られたディテールですが、その後はコストやデザインの都合で省略されることも多くなっています。そのためVガゼットのあるタイプにこだわってヴィンテージの「スウェットシャツ」を探し求めるコレクターや、「Vガゼットのある『スウェットシャツ』こそ本物だ」というお洒落さんも少なくありません。
出典:メイド・イン・ジャパンの心地よさ、《LOOPWHEELER (ループウィラー)》のスウェットアイテム
【雑学】
なぜ日本では「スウェットシャツ」のことを「トレーナー」と呼ぶの?
いまではそう呼ぶ人も少なくなったのでしょうか。「スウェットシャツ」は「トレーナー」と呼ばれることがあり、1980年代くらいまではむしろ「トレーナー」と呼ぶ人のほうが多かったかもしれないほどに、こちらの呼称もよく知られています。でも実は「スウェットシャツ」を「トレーナー」と呼ぶのは日本人だけなんです。
では誰がいつごろそう呼び始めたのでしょう? 一説には、その名付け親は、日本にアイビースタイルやアメリカントラッドスタイルを持ち込み、流行らせた、国内のメーカー《VAN(ヴァン)》の創設者・石津謙介氏であると言われています。石津氏がジムのトレーナーが「スウェットシャツ」を着ているのを見かけたのがそのきっかけ。そのときから石津氏は「スウェットシャツ」を「トレーナー」と呼び、自身のブランドでも多くの「トレーナー」を作り、世に送り出しています。
ですから間違っても海外では「トレーナー」と言わないようにお気をつけくださいね!ショッピングに出かけた先などでは、「sweatshirts」と正しく伝えるようにしましょう。
出典:上品シックなアイテムを味方につけてスウェットをキレイめに昇華【本日のFUDGE GIRL-4月14日】
出典:スウェットにフリルをイン。スカートと合わせてフェミニンな装い
こうしてスウェットの起源をたどっていくと、本来はスポーツ選手のユニフォームやウエアなどであったこともあって、あらためて「スウェットシャツ」とはカジュアルなものだという印象を持った方も多くいらっしゃるでしょう。けれども実際のところは、素材にとろみや輝きを持たせたり、フリルなどをあしらったりした「スウェットシャツ」も登場する昨今。またジャケットの中に着る、あるいはフェミニンなロングスカートと合わせるコーディネートにトライするといった人も少なくありません。つまりもはや「スウェットシャツ」は単なるカジュアルアイテムの枠にとどまらない側面も持ち合わせた、万能なベーシックに昇華したといっていいのではないでしょうか。
監修:朝日 真(あさひ しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。早稲田大学文学部卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』共同監修。NHK『テレビでフランス語』テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。文化出版局『SOEN』他ファッション誌へ寄稿多数。NHK「美の壺」他テレビ出演。
illustration_Sakai Maori
edit & text_Koba.A
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